ブックキュレーター哲学読書室
愛と哀悼――不可能なものの共同体のために
(友)愛をめぐって、あるいは死を、神を、恍惚をめぐって、現代フランスの哲学者ジャン=リュック・ナンシーが、いまなお多方面にインスピレーションを吹き込んでやまぬ思想家ジョルジュ・バタイユと格闘する。二人の磁場に引寄せられたいくつかの書物を紐解いてみよう。【選者:柿並良佑(かきなみ・りょうすけ:1980-:山形大学専任講師)】
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多様体 2 〈総特集〉ジャン=リュック・ナンシー
2017年に開催されたバタイユをめぐるシンポジウムの記録に関連論考を加えた総力特集。バタイユを「諳んじている」ナンシーが来日講演のために用意したテクストを発端として、哲学・文学・芸術・政治・宗教・性・・・といった主題が縦横無尽に取り上げられる。尽きることのない思考と語りの実践を手にとって確かめてみてほしい。
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内的体験 無神学大全
ジョルジュ・バタイユ(著) , 出口 裕弘(訳)
ナンシーは代表作『無為の共同体』で、バタイユを「読む」のではなく彼の「体験と通い合う」ことを試みていた。来日講演ではバタイユが遺した「不可能なもの」の体験にあらためて挑み、「一陣の風」となって吹き抜ける。普段「私の体験」だと思っているものが他人の体験であり、逆でもある。そこにまだ見ぬ「共同体」が生じる・・・、どういうことだろうか? それを感得するにはナンシーの狂おしい試みを追って、私たちも「内的体験」という「風」になってみるしかない。
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アドラシオン キリスト教的西洋の脱構築
ジャン=リュック・ナンシー(著) , メランベルジェ眞紀(訳)
Covid-19に翻弄される「グローバル社会」をめぐり、現代文明批判という広い視野から発言を続けるナンシー、その思考の一つの到達点を示す書物。一宗教論にとどまらず、「神学者の血を体内にもっているすべてのもの」(ニーチェ)、すなわち西洋哲学とそれに基づく西洋文明の自己解剖でもある。「遠いところ」へ向けて迸る情熱とともに放たれた書物は、当然ながら非キリスト教世界にも捧げられている。
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不穏なるものたちの存在論 人間ですらないもの、卑しいもの、取るに足らないものたちの価値と意味
李 珍景(著) , 影本 剛(訳)
バタイユやナンシーその他の思想家の言葉が非西洋世界の「隣人」にどう咀嚼され、喰われたか――本書は卑賤なもので充満する海に飛び込むことをもって応える。「隣人」と書いたのは著者が隣国に身を置いているからだけではない。「不穏なるものたち」として本書で語られる「障害者」、「バクテリア」、「サイボーグ」といった存在もまた人間に限られることのない「隣人」であり、私たち自身、そのような存在として居心地の悪い共同体を日々生き、存続させているのである。
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パウル・ツェラン詩文集
パウル・ツェラン(著) , 飯吉 光夫(編・訳)
急逝したドイツの哲学者ハーマッハーが遺した長大な論文も『多様体』の見どころの一つだ。ナンシーの描く共同体の内にある「分離」のモーメントを徹底的に浮き彫りにしていくハーマッハーは、哲学を文学の見地から語り直すその論考の最後で、私たちの言葉に随伴しつづける「沈黙」に行き当たる。論文に続くナンシーの哀歌にもみられるとおり、彼らの傍らで鈍く昏い輝きを放っているのは20世紀の絶望をかいま見た詩人、ツェランの言葉だ。
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哲学読書室知の更新へと向かう終わりなき対話のための、人文書編集者と若手研究者の連携による開放アカウント。コーディネーターは小林浩(月曜社取締役)が務めます。アイコンはエティエンヌ・ルイ・ブレ(1728-1799)による有名な「ニュートン記念堂」より。
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