揺れる心・・・大人への階段を

美しく聡明だが、自分の感情をうまく表現できない主人公、逢沢りく。とあるきっかけで大阪の親戚の家に預けられたことから、彼女の中の新たな感情の世界が開かれていきます―。本当の涙を知らない一人の少女が、数々の出会いを通して変化していく様子が繊細なタッチの漫画で描かれる、手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞作です。

ある事件で命を落とした、高校生の安藤麻衣子。彼女に関わる複数の人物を通して浮かび上がってくるのは、彼女の紡いだ「ある物語」と、誰もが内に秘めるさまざまな思い・・・。思春期の少女たちの美しくも脆く儚い心。掴みどころがなく、光もあれば闇もある人の心を繊細に描き出し、単純なミステリー物とは一線を画します。

父と二人暮らしをしている中学生の鈴。突然母が亡くなり、4年間離れて暮らしていた弟がやってきたことをきっかけに、鈴の中に変化が生まれます。家族とは「自然になる」ものでなく、意識して「つくっていく」もの。心の中にあらゆる葛藤を抱えながらも新たな家族をつくろうとする主人公の姿が一読忘れがたい物語。

事故で父を失ったばかりの雨音と、初めて会う産みの母親、そして父の婚約者・・・。不思議な縁で集まった3人の女性による共同生活が始まりますが、その毎日は不思議な温かさに満ちていました。決して一つではない家族のかたち、自分とは異なる背景や考え方を持つ他者と生きることなど、確かなメッセージが感じられます。

「15歳の寺子屋」シリーズの一冊で、評論家の吉本氏と中学生たちとの対話が掲載されています。「沈黙も言葉なんです」、「才能でなく、手をどれだけ動かしたかが大切」など、彼らを決して子ども扱いしない吉本氏による温かくも力強い言葉が、年代を問わず今を生きるすべての人へのエールとなって響きます。