きっとあなたも涙する。美しい情景が浮かび上がってくる「きれいな物語」

第165回（2021年上半期）芥川賞受賞作。震災で行方不明になっていたはずの友人が現れるところから始まる小説です。「私」が住んでいるのは、コロナ渦に陥っているドイツの学術都市。作中には戦争や震災が頻出するけれど、風景画を眺めるような気持ちで読むことができる小説です。

最近がなくなってしまった70歳の女性脚本家・唐沢燿子のもとに、ある日、見知らぬ男性からフェイスブックにメッセージが届きます。50代半ばだという年下の男の言葉に翻弄され、生活が一変してしまう燿子。「老い」と「セクシュアリティ」がテーマになった、大人の恋愛ストーリーです。

存在しないはずの幼馴染み・夏凪灯花と、あるはずのない記憶を植えつけられた青年・天谷千尋が繰り広げる儚い恋愛物語。この恋は、始まる前に終わっていたのかもしれません。後半、次々と明かされる真実に、ページをめくる手が止まらなくなるでしょう。青春時代が思い出される、炭酸ソーダみたいな爽やかな小説です。

結婚をする人のことを愛しているかわからない・・・。4月、婚約をしている精神科医・藤代のもとに、学生時代に初めてつき合った彼女から手紙が届きます。読み進めるごとに「愛」や「恋」について、深く考えさせられることでしょう。透明感のある淡いフィルムのような恋愛小説です。

もうすぐ結婚するはずだった恋人から『もうひとり、彼女ができたんだ』と言われてしまいます。そこからの展開に、誰もが感情を大きく揺さぶられることでしょう。読み進めるうちに、もうひとりの彼女に主人公と同じように翻弄され、同時に物語世界の中に引き込まれていくはずです。