ブックキュレーターブック・マーチャンダイザー 矢部潤子
今じゃなくて、20歳のころに読みたかった本
本を読むのに年齢なんて関係ないと思っていました。今でも関係ないと思いたい。でも実際には、その年齢に相応しい本というのはあります。ある程度年齢を重ねた頃に読むことでより味わい深くなる本もあるけれど、視力、気力、体力が整ったころに読んでこそ深く入り込める本もある。そして、それはおおよそ後から気付くもの。今、生まれてからまだ20年しか生きていないとしたら、こんな本を没頭して読みたかったと切実に思います。
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作家デヴィッド・フォスター・ウォレスは、2005年オハイオ州ケニオン・カレッジの卒業式に招かれます。そのときのスピーチを収録したのが本書、既にロングセラーになっています。大事なことは「考えることを教わること」。そして、「真理」とは「三十歳になるまで、いや、たぶん、五十歳になるまでにはどうかそれを身につけて銃で自分の頭を撃ち抜きたいと思わないようにすることなのです。」わかりやすい言葉でそう語った作家は、3年後に自死を選ぶ。小振りで素敵な体裁のこの本こそは、あの頃に読みたかった。そしていつでも手元に置いて折に触れて開きたい本。
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著者はベラルーシのジャーナリストで2015年のノーベル文学賞受賞者。この本は、1986年のチェルノブイリ原発事故に遭遇した人たちにインタビューした記録文学です。著者のいう「小さき人々」が自分の言葉で語る自分のことは、生きている人と土地と生活が目前に迫ってきて圧倒されます。フクシマ後、また読まねばと切実に思った本。2021年に完全版が出ました。
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本書が最初に刊行されたのは1965年。2021年に新装版の文庫が出て入手しやすくなりました。著者が1964年から翌年にかけてサイゴンに滞在し「週刊朝日」に送稿した、いわば伝説のルポルタージュ。ベトナム戦記ではありますが、新聞記事や報道とは全く違う、豊かな語彙とたとえ、ユーモアに溢れ、緊張する現場を綴っているのに意外にも心地よく入ってきて、かえって切実に当時の状況を伝えているように思います。ベトナム戦争は、著者が日本に戻った後も10年続いてようやく終息する。
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なんてわかりやすいのでしょうか。著者はローマ法を専門とする大学教授。本書は、著者が30名ほどの中高生に向けて行った〈これからを切り拓くための特別授業〉の記録です。映画を見たり戯曲を読んだ後に教授と中高生が問答、法を学んでいくということなのですが、最後は最高裁の公式判例集を読み、憲法九条にも触れます。教授と生徒とのやりとりが再現されて、授業に参加しているかのような臨場感。親しみやすく平明ななかに、自由とは何か、大事なことは何か、とても深遠で根源的なものを教わります。
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深夜のテレビ番組から生まれた強烈な一冊。番組も釘付けになる驚愕の映像だったけれど、制作したディレクターが書く本書は、また別の趣き。なかでもケニアのゴミ山スカベンジャー飯の少年を描く一章は、崇高ですらあると思いました。遠いところに連れて行ってくれる本はたくさんありますが、これはまた格別。剛腕の直球で違う風景を見せてくれます。
ブックキュレーター
ブック・マーチャンダイザー 矢部潤子1980年芳林堂書店入社、池袋本店の理工書担当として書店員をスタート。3年後パルコブックセンターに転職、新所沢店、吉祥寺店を経て、93年渋谷店へ。2000年、渋谷店店長のときにリブロと統合があり、リブロ池袋本店へ異動。売場と仕入を走りまわりながら2015年の閉店を見届ける。現在は、ハイブリッド型総合書店hontoのコンテンツ作成に携わり、書店のように“本との出会い”を創造するキュレーションサービス、ブックツリーを担当、日々オススメの本を探す。著書に「本を売る技術」(本の雑誌社)。いつか、世の中の新刊が全て入荷する本屋のバックヤードで日がな一日検品して暮らしたい!
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