ブックキュレーター音部大輔
音部大輔の推薦する名著5冊
音部大輔の「推薦図書」はこの5冊! ※こちらの推薦文は、クーリエ・ジャポン読者のために寄稿いただいたものを転載したものです。
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アクティブなフィールドワークとアカデミックな研究マネジメントを、進化生物学の研究者と過ごしている気持ちになれる冒険の書。連続して島嶼が形成される環境が進化生物学の研究に適していて、ある種の陸貝は捕食者がいなければ気温や太陽光などの自然環境に適応して進化し、捕食者の圧力が高まると捕食者に見つからないように進化するという。これは、変化が連続する日用雑貨市場がブランドの研究に適していて、新しい市場では顕在化しつつある消費者ニーズに適応し、競合の圧力が高まると競争相手に対抗するよう変化するブランドの進化によく似ている。進化生物学とマーケティングは領域が異なるが、共通した自然の摂理をうかがえて興味深い。
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科学を生態系として俯瞰するための素晴らしい啓蒙書。科学は自然物を研究する学問で、工学技術は人工物を作る活動だ、という記述は「マーケティングはサイエンスかアートか」という問いへの回答でもある。消費者を含む自然現象を知るサイエンス、製品や広告などの人工物を作るアート、と捉えればよさそうだ。和洋の姿勢の違いも興味深い。日本では金魚や朝顔を改良しても遺伝学にはならず、働きかけ方つまり「術」を究めたのに対し、西洋では「仕組み」の理解を求めた点が異なる。また、生態系としての科学技術は因果関係が複雑で、部分の改善が全体では悪化になってしまうことがあるという指摘は、マーケティングにとっても大事な教訓である。
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恒常性を保つために、頭蓋骨の中で脳を満たす脳脊髄液が流れ続ける様子を「ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」という方丈記の一節を交えて説明する、ウィットにとんだ記述がやさしい入門書。その流れが、睡眠中に脳の老廃物を掃除しているかもしれないとの説に、ぼんやりした寝不足が、いかにも老廃物が溜まっていることに起因するように感じられて印象深い。ちゃんと眠る必要を、仕組みとして実感させられる。にわかにAIの議論が盛んになっているが、人工知能はあっても、人工知性はないという。知能は答えのある問いに対して正確に答えを求めるものであり、知性は答えのない問いに答えを探すものだ、という指摘に得心する。
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山崎正和の『リズムの哲学ノート』に、リズムは知覚できるが特定の感覚器官が存在しないという指摘がある。その不思議さが、本書を手にするきっかけとなった。生物学をこえて森羅万象がリズムの観点で説明されるが「環境に適応したひとつの突然変異がヒットすると、そのヴァリエーションとして多種多様な生物が生まれ、生存に有利なものが生き延びる」などといった記述は、新市場創造の様子とも一致する。繰り返しに安心し、揺らぎにあこがれるのは、進化の過程で獲得した性向であるらしいが、ブランドが生活に浸透していく様子も説明できそうだ。自然の生物だけでなく、市場に棲息する人工物のブランドもまた、リズムのなかに存在するのだろう。
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哲学的なタイトルで、門外漢には衝撃の素粒子に関する一冊。137億年前に誕生直後の宇宙は原子よりも小さく、インフレーションという段階を経て(大きさは3ミリ!)、3キロほどまで大きくなったころ、ニュートリノが関与して物質と反物質のバランスが10億分の2ずれ、そのおかげで物質が存在を続け、我々が存在しているという、壮大な宇宙創造の物語。物質と対になって消滅する反物質のことや、星のなかの核融合で生まれた酸素などの元素が星々の爆発で宇宙に散らばり、星屑から太陽や地球が作られ、いずれわたしたちの体を構成していることなど、日常の生活ではあまり聞くことのない話が、非日常の真理として分かりやすく、かつ軽妙に語られる。
ブックキュレーター
音部大輔株式会社クー・マーケティング・カンパニー代表取締役。17年間の日米P&Gを経て、ダノンやユニリーバ、資生堂などでマーケティング担当副社長やCMOなどを歴任し、ブランド回復やマーケティング組織構築を主導。2018年より現職。家電、化粧品、輸送機器、食品、日用品、広告会社など国内外のさまざまな企業にマーケティング組織強化やブランド戦略立案の支援を提供。博士(経営学 神戸大学)。 日本マーケティング本大賞2022の大賞に選ばれた『The Art of Marketingマーケティングの技法』など著書多数。
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