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honto+連載が単行本化!『ボーイミーツガールの極端なもの』刊行記念
山崎ナオコーラさんinterview
山崎ナオコーラさんの新刊が4月に刊行! 各話の登場人物がゆるやかにつながっていく連作短編集、『ボーイミーツガールの極端なもの』。
タイトルにピンときた「honto+」読者の方も多いのでは? そう、当誌での連載作品が、一冊にまとまったのです。
どんな作品に仕上がったのか、改めて山崎ナオコーラさんにお伺いしてみましょう。
――連載時から、冒頭に多肉植物の写真が大きく掲載され、話のなかにもさりげなく出ていました。なぜ多肉植物が登場することに?
「庭仕事をしながら植物を眺めていると、世界の成り立ちや人生のしくみについて考えることができます。広島にお店を出している多肉植物屋さんの『叢』さんを編集者さんに紹介していただき、小説を書くことになりました。各話とも、人物の名前が多肉植物と関連づけてあったりもするんですよ」
――多肉植物のどこに、そこまで惹かれたのでしょう?
「多様性を肯定しているところですね。多肉植物って、一つひとつの個体が異なる成長のしかたをしていって、最終的にいろんなかたちになります。個体それぞれが新しい姿を模索していくんです。私は作家活動していくなかで、『カテゴライズ』というテーマに関心を寄せています。勝手にカテゴライズされるつらさや、なぜ人をカテゴライズする必要があるのか、といったことを書いていきたい。多肉植物は、すべての個体がカテゴライズされることから逃れようとしているように見えます」
――思えば今作のタイトルは不思議なものですね。これはどんな意味が?
「男女が出会う『ボーイミーツガール』の話は、物語の典型ですよね。そうした典型の、極端なかたちを書いてみたかった。やろうとしたことが、そのままタイトルになっています。
たとえば朝、遅刻しそうになって食パンをくわえて急いでいると、異性にぶつかって出会いが訪れるというのは、ひとつの典型。そこから話を展開させたくて、第一話は、おばあさんがパンを食べているとき相手にぶつかるところから始まります」
――連作短編集ですから、各話はゆるやかにつながっていますが、それぞれの話のタイトルがまた想像力を喚起させますね。
「私はいつも、フレーズから書き始めます。今回は、話タイトルがフレーズということです。たとえば『野球選手の妻になりたい』というのは、インターネットニュースなどでなぜか妻がバッシングを受けているのをよく見かけるので、思いつきました。そんなに栄養が気になると言うのなら、管理栄養士を妻にしろよ、と思って考えていきました。とにかく、面白いフレーズを書きたいな、と思っています。いつもメモ帳を持ち歩いていて、『はっとするフレーズだ』と思うと、メモをします。何かを伝えたくて小説を書いているのではなくて、言語芸術をやりたいです。言葉を使うのではなくて、面白がりたいんです。何も伝わらなくても、最後まで面白がってページをめくっていただければ十分だと思っています」
――今作は「こんな人に読んでほしい」といったイメージがありますか。
「これは恋愛小説ですが、恋愛が苦手な人にこそ読んでもらいたいという気持ちはあります。私自身もそうですけど、恋愛は苦手でも恋愛小説は好きという人ってたくさんいると思います。恋愛が苦手というのは、世間の恋愛観を押し付けられている気がして、それなのに自分はその価値観に従って恋愛できていない、どうしよう……などと考えてしまうから。そういう人に向けて、恋愛の多様性をこの小説で示せたらいいですね。本のつくりとしては、各話の途中に多肉植物の美しい写真も入ります。そちらも楽しんでいただければうれしいです」
ボーイミーツガールの極端なもの
山崎ナオコーラ (著)
出版社:イースト・プレス
“恋愛は苦手だけど、恋愛小説は好き”なあなたに贈る、心に柔らかい刺を残す連作短編小説集。人気多肉植物店「叢」のサボテンの写真と山崎ナオコーラのラブストーリーを収録。『honto+』連載に書下ろしを加えて書籍化。年齢も性別も境遇も異なる男女が出会い、恋をし、時には別れを経験する。
山崎ナオコーラ(やまざき・なおこーら)
作家。1978年生まれ。2004年、会社員をしながら書いた『人のセックスを笑うな』が第41回文藝賞を受賞し、作家デビュー。著書に、『浮世でランチ』『カツラ美容室別室』(以上、河出書房新社)『論理と感性は相反しない』(講談社)『この世は二人組ではできあがらない』(新潮社)『昼田とハッコウ』(講談社)など。最新作は『ボーイミーツガールの極端なもの』(イースト・プレス)。目標は、「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」