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時代と個人はどう繋がっているのか
2022/11/30 23:44
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
久々に読み返してみた。好きな作家の作品は購入時から始まり、折りにふれ読み返したくなるものだ。この感覚、本好きにはわかってもらえることと思うが、本作もそういった一冊だ。そのたび新しい発見があったり、現在の自分の環境や考えと照らし合わせてみて、異なる感想を抱いたりと、本当に本は長く手元に置いておきたいと思うものだ。
鎌倉中期の混乱期を生きた、宮廷女官の二条が語る自らの激動の半生を描いたのが原典だが、本書はその二条を彼女の生涯にわたる恋人であり、庇護者でもあった西園寺実兼からの視点で語るという趣向になっており、この設定により、作者の言うとおり、その視野は宮中にとどまらず、鎌倉、一般庶民、新宗教の勃興、さらには当時最大の危機であった元寇にまで及び、そのため社会の中の二条という広がりをもっている。
原典では二条が出家したくだりが欠落しているので、その動機が謎だが、本作では当時大きな支持を集めていた時宗を興した一遍上人との出会いが大きな原動力になっているところが新しい解釈だろう。
ひたすら自分の恋愛、生き方だけに没頭し、それに疲れ果てたときに新しい宗教に希望を見出すというのは、現代では危うい精神状態だといえるかもしれないが、この先の見通せない混乱の時代には、自分を変える一大契機になるのはある意味当然かもしれない。
実兼は常に冷静で、常識的、広い視野をもつといっても、その行動原理はやはり政界での権力闘争とそこでの利害である。そんな実兼が恋人としては付き合えても、その突飛ともいえる二条の行動や感情に不可解さを感じ、理解できないものとして、説教したり、的外れな援助の手を差し伸べたりするものの、まったく別の風景をみている二条にはその言葉は届かない。そして二条は、実兼や後深草院らを振り切り、前半生とはまったく異なる人生へと自ら歩みだす。
これこそが、二条という個と社会との結合なのではないだろうか。今までとは全くちがう世界を見たものでないとわからない生というものがあるとすれば、この転換こそそれだと言えると思う。
だが、最後まで捨てきれないものを抱えつづけるのも、また人間の真実だ。ラストの霊柩を裸足で追うシーンはまさに圧巻で、原典にも記されているのが、この『とはずがたり』が創作などではなく、彼女の生の叫びであったことを如実に示している。
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