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紙の本
『地下鉄(メトロ)に乗って』〜せつなくてかけがえのない愛のかたち
2006/09/27 23:04
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:考える木 - この投稿者のレビュー一覧を見る
しみじみとしたせつなさと温もりを心に残すファンタジーだ。
主人公の真次とみち子は、真次の兄の命日を機に、地下鉄や夢から、戦前、戦後、東京オリンピックの頃など様々な時代へとタイムスリップを繰り返すようになる。タイムスリップした時代での体験は、親と子という関係を通じては、けっして垣間見ることすらできなかった父や母の姿を次々と教えてくれる。やがて、親から子へと流れる時の流れの中で、彼らはひとつの真実にたどりつく……。
読み進むにつれ、浅田の織成すビビッドな表現とダイナミックな展開にぐいぐいと引き込まれていくのを感じる。骨太で力強いうねりを持った物語だと思う。
ひとの人生とは、つまるところ、ひとのこころの中に降り積もっていく時間の記憶の中にある。すなわち、人生とは自己というフィルターを通して記憶された時間の集積だということだ。
その時間は、あくまでも社会や家庭のなかでの個の役割を通じてしか手に入れることができない、ごく限られたものにすぎない。つまり、その時間の中の登場人物は、親は親として、友は友として、敵は敵として……自己との関係を通じて、必ず現われる。
しかし、真次とみち子は、真次とみち子という人間としては、けっして手にすることのできない時間を、タイムスリップという手段によって共有するようになる。辿りついた時代では、自分は自分であるのに自分でない。自己の意識を持ちえたまま、他者の役割を演じることができる。
この時間というものが極めて個人的なものに過ぎないという認識、そして、いつも正面からしか見たことがなかった時間を、側面や裏面から見る役割をタイムスリップに与えた視点は、使い古されたようにみえて新鮮だ。
親子でしか分からないことがある。けれども、一緒に暮らすだけでは絶対にはかり知ることができず、語られることで初めて発見されることもある。そして、親子ではけっして覗き見ることのできない、他人としてつきあうことで初めて見えてくるひととしての姿もある。
タイムスリップを通じて、自分たちを取り巻く境遇がどんどん見えてくる。親としての姿しか知らなかった父や母のひととしての姿が見えてくる。自分の中に親の血が脈々と息づいているという実感、そして、たくさんの大きな愛に自分が支えられているという実感で、真次の見る現実は、タイムスリップを経験した後、大きく変化する。物語のラストでは、それは、真次のこころの中のもやもやとしたものを晴らし、いきいきと現実を生きる大いなる力となっている。
この物語をどう受け取るかは、ひとそれぞれだと思う。わたしにとっては、父と子の物語である以上に男と女の愛の物語としての印象が強く残った。真次とみち子の2人のこころがシンクロしてたどりつく、せつなくてかけがえのない愛のかたちは哀しくて儚いようで、繊細な輝きをもって温かい。このファンタジーの何とも表現しがたい読後感は、このかけがえのない愛のかたちへの想いなのだろうと思う。
(私のブログからのTBに失敗したので書評とさせていただきました。)
紙の本
時代色が美しい、ほろ苦いSF小説。
2006/03/01 16:17
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:由季 - この投稿者のレビュー一覧を見る
物語は、小さな衣料会社に勤める営業マン(主人公)が、ふとしたはずみでタイムトリップを体験し、兄の死によって更にバラバラになってしまった家族の過去に向き合うことにかる。
自殺した兄、反目していた父、そして愛人のデザイナーみち子。
地下鉄に乗るたびに、過去へつながる出口へと向かい、自分の知らなかった事実を目にする。
やがて、思いもよらない結末をたどっていく…。
つまり、タイムスリップして過去に戻る。バックトゥーザフューチャー系の物語です。
そして、読み進めていくうちに頭に浮かんだのは、重松清の「流星ワゴン」。
その本を読んで、別の本を思い出されるなんて作者からしたら不愉快だろうけど、思い出さずにはいられませんでした。
しかし、流星ワゴンと決定的に違うのは、タイムスリップするたびにどんどん昔に遡ってゆくことと、過去で何かしらのアクションをしたことで、大きく歴史が変わっていってしまっているということ。
タイムスリップするたびに、色々なことが明らかになり、現在に通じる細い細い糸のようなモノが見えてきたりする。
時代描写も抜群で、長いけど飽きないし、最後まで、泣きたくなるようなどんでん返しが続いたり。
これを影像化したらおもしろい作品になるだろうなぁ☆と思っていたら、なんとコレ今年映画化されるらしぃです(笑)
紙の本
「椿山課長の七日間」の対照的作品
2008/11/24 16:48
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
地下鉄(メトロ)に乗って 浅田次郎 講談社文庫
「椿山課長の七日間」同著者と比べて文章が重いです。
昔、異次元の世界へ行った夫が、電話だけは現実社会の家族と通じるというドラマを見たことがあり、本作品もそのパターンです。
地下鉄の営業とは関連のない物語です。地下を走る電車の車体に意識が集中しています。「椿山課長の七日間」の続編のようです。しかしそれと比較して文が硬い。対照的です。
作者はこの物語の結論をどこへもっていくのだろうか。わたしだったらどこへもっていくだろうか。「魂」という解決法にたどりつくのか。
小沼佐吉を中心としたこどもたちの物語ですが、そこには明治・大正・昭和を経た時代背景があります。
結末はとてもせつない。本作品と「椿山課長の七日間」は鏡となっています。対照的な記述法ともなっています。
紙の本
銀座を歩きながら読んでほしい本
2004/03/25 23:33
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:sagaga - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦前の銀座界隈の豊かさ、戦後の悲惨な状況下での貧困、
そしてその数年後に見事な復活を遂げる日本人たちを
尊敬と優しさと、懐かしさに満ちた言葉で描いた小説であり、
親子の再生と切ないくらいの無償の愛情を描いた秀作であると思う。
私は戦前・戦後の風景に実際に触れた世代ではない。
写真とわずかな書物くらいでしか知ることはできない。
けれど、毎朝通勤途中に通る和光に当時の面影を探し、
はるか50年以上もの昔へ思いをはせることはできる。
銀座4丁目交叉点を渡り、三越を横目に歌舞伎座方面へと歩いていく。
それらの建物は、遠い昔から銀座という日本を象徴する街をみつめ、
まるで記憶の守人のように威風堂々とした姿を現在に残している。
この小説を読んだら、それらを丹念に、注意深く観察してほしい。
きっとそこには戦後を生き抜いてきた人々の思いがあふれているから。
絶望しているときでも、きっと希望がわいてくる。
そんな街であり、そんな小説である。
銀座の街で小さな希望を手にしたら、帰りはもちろん、メトロに乗って。
紙の本
タイムトリップ、そして愛
2017/06/07 11:58
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:端ノ上ぬりこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
真次は営業で毎日地下鉄を利用しており、路線地図はすっかり把握している。ある日、同窓会の帰りにのっぺい先生に会う。兄の自殺した日の記憶が蘇る。のっぺいと別れてから、不思議な地下鉄の階段を登り、そこには見慣れぬ光景が。タイムトリップを繰り返すうちに、時代がどんどん逆行し、父や兄、母の知らなかった状況や性格や心の葛藤などないまぜになってくる。みち子との関係はどうなるのか。
タイムトリップは、考えさせられると思う。「流星ワゴン」もそうだったが、もし、あの時に戻ったならば・・・と今さらながら考えてしまう。せつなくて泣ける作品。
紙の本
地下鉄を出るとそこは過去!
2016/01/17 20:24
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
この小説は、地下鉄を重要な媒介にして、主人公が過去にトリップし、そこで主人公の父親が若かりし頃、戦後の困窮した社会で逞しく生きている姿と出会うというストーリー展開です。ここには、戦後の混乱期とその中で生きていかなければならない人々が描かれています。読んでいるうちに、どんどん引き込まれてしまいます。まさに、浅田ワールド大全開といった小説です。
電子書籍
書籍でも読み、電子書籍でも購入
2015/11/13 16:48
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mika - この投稿者のレビュー一覧を見る
浅田さんの読み応えのある長編。
時間がある旅行の時などに、集中して読み返したい一冊です。