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紙の本
只管、不思議不思議のオンパレード
2022/03/04 12:44
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:岩波文庫愛好家 - この投稿者のレビュー一覧を見る
下巻を読了しました。
精神医学や精神病理学といった要素に加えてミステリ要素があり、普通に読み進める事が出来ましたが、奇を衒った感は否めませんでした。また最後のオチ(と言えるか怪しいですが)は、う~ん、と首を捻ってしまいました。ちょっと成り立たないのでは・・?と感じました。
ただ奇を衒う、という面では三大奇書と言われるだけに、比類が無く、独創的な内容となっています。ただ巷間に言われるような『発狂』はしませんでしたが・・。
上下巻を読了しての総括的な印象として、やはりもう少し全体的に判然とさせた方が良かったと思います。敢えてそれをせずオブラートに包む事が狙いであればそうとも言い切れないでしょうが、一歩間違えば結局何を伝えたかったのかの焦点がぼやけたり、登場人物の確定性みたいなものが判らないままでは、消化不良気味となってしまいます。
電子書籍
力作だけど
2018/11/16 23:50
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:美佳子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
下巻で「狂人開放治療」だの心理遺伝の実験だのの中心にいる「呉一郎」なる人物の家系の男に出る気狂いが1000年以上の昔のご先祖が作った死美人画の巻物によって引き起こされていた、とか呉一郎の母(と彼女が所有するとされた巻物)を巡って若林博士と正木博士が争った過去などが正木博士の遺書および告白によって明らかにされて行きます。下巻では新しい展開がどんどん提示されるので、上巻のような苦痛もなくどこに物語が辿り着くのかハラハラしながら一気に読み進めることができました。2年前の呉一郎の母殺し、そして大賞15年の呉一郎の従妹にして許嫁のモヨ子の絞殺とその母八代子に対する暴行が、呉一郎の先祖呉清秀の因縁に端を発したもので、呉一郎にその因果な巻物を与えて発狂を促した人物は誰であったかというのが後半の謎の焦点となるのですが、この謎は結局のところ白黒はっきりとは片が付いておらず、また「狂人開放治療場」が閉鎖されるに至った事件の本当の原因も未解明のまま、さらに「わたし」の記憶も完全に戻ることなく、自分の時間差認識であるところの「離魂病」なる病の症状を自覚するに留めて話が終わってしまい、これぞ「奇書」たる所以なのかと納得できるようなできないような何とも言えない読後感を残します。
当時話題となっていたフロイトの精神分析や夢分析、リビドーに関する理論などがふんだんに取り入れられ、犯人なき犯罪だの暗示による犯罪だのと血筋に現れる狂気をブレンドした非常に興味深い小説ですが、現代の精神医学に通用するものが恐らくただの一つもないところがこの力作をちょっと哀しいものにしてしまっているような気がします。