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紙の本
文句あるかよ、あるわきゃない
2007/02/20 23:21
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
ブラックと言えばこれほどブラックな話はないわけで、それ以上の論評も無い。うーん、もう言えねえですよ。
まあとーにーかーくー、妻の浮気相手を殺害して逃亡中の男が美女の誘いに乗って陥った先の見えない迷路は、瀬戸内海にある、若者がみな離島してしまって老人だけが残る岩根島という小島に辿り着く。この島こそが、悪霊が棲んでいるとしか思えない奇怪な島だった。鼠と蛙の合いの子のような生き物は、生化学か生物学の暴走か、謎の背景にはグロテスクな欲望の存在を窺わせる。そして死闘の末に、巨大な陰謀の真相に近づいていく。
だがそんな社会派風設定は、島の老人たちの強烈な個性で皆吹っ飛んでしまう。個性というのでは表し尽くせない底知れなさ、それこそ主人公が悪霊と見たのであるが、考えてみれば失礼な話だ。彼らの内面の屈折を計り知れず、行動原理を理解できないとしても、老いて頑固で狡猾で依怙地で節制が無くなっていく人間に何か文句があるのかと。ただし息をもつかせぬスピードで、ヒタヒタと迫る恐怖だけに心を奪われてしまう迫真の展開により、読み終えた時には愕然となる仕掛けだ。怖い、理不尽、だが本当に残忍なのは誰なのか、誰もそれを告発したりしない。ただそれは復讐の機会を待って、僕らの前に黙って横たわっている。読んで時間がたつほどに、世間を取り巻く得体の知れない無気味さにじわじわと押し包まれてくるような作品。
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