紙の本
さすがの筆致!面白い!
2011/12/08 11:22
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
時は昭和39年、日本は敗戦から二十年近くが経ち、翌年に控えた東京オリンピックに人も街も湧きかえっていた。そんな折に起こった、警察要人宅の爆破事件。犯人は過去に連続爆発事件を起こしまだ捕まっていない「草加次郎」を名乗る声明文を警察に送りつけた。その後も爆破事件は続き、その犯行声明文は、東京オリンピックでも爆破事件を起こしてほしくなければ、8千万円を用意しろという物。もしオリンピックで爆破事件など起これば、警察の信用どころか日本の国際社会における立場は地の底に失墜する。果たして犯人は本当に草加次郎なのか、警察の威信をかけた犯人捜査が始まる。
ただの「爆破事件捜査」がテーマではないのが、本作品の面白い所。警察の捜査が描かれる節と、一人の東大大学院生「島崎国男」の日常生活が描かれる節とが、交互に進んで物語を紡いでいく。国男は兄をオリンピックの工事中になくし、代わりに自ら「プロレタリアート」を経験するという意味も含めて、非常に過酷な飯場仕事に従事する。その辛い日々の中で、民主主義に対する疑念、憤りを募らせていく。国のあり方、未来の日本のあり方、にさえ疑問を抱くようになっていくのだ。だが国男の人となりや行動を見ても、反国家的思想を抱いて、恐ろしい犯罪を起こすような人間には思えない。非常に知的で優しく、誰からも好かれるような優男。果たして、国男が爆破犯なのか・・・。段々と募っていく疑念、交錯する人間模様と思惑。国家を揺るがす脅迫事件の幕開けと共に、本当の国あり方を考えさせられる。
以前より卓越した筆致を持っていると感じていた奥田氏をして、「これが現時点の最高到達点」とまで言わしめた本作品。文章のうまさ、構成のうまさはさすがとしか言いようがない。一体この後どう展開していくのか、下巻も非常に楽しみである。
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近年の歴史上、エポックメーキングな出来事は様々あったが、確かに東京オリンピックは“もはや戦後ではない”に本当の意味で一区切りつけたイベントであった。
思い起こせば、当時の日本は、まだまだ貧しくはあったけれど国の成長を自分のことのように自負でき、誰もがバラ色の未来に夢を馳せることが出来た時代であったのだろう。東京オリンピックは、そんな時代の、私も小学生で聖火リレーを見に行った覚えがあるけど、象徴的なイベントであったと思う。
さて物語、そうした時代の中、出稼ぎの兄の死をきっかけに“祝福を独り占め”する東京や国家に対し疑問を抱き権力に抗する闘いに目覚め始める島崎国男。
爆破事件がおき犯人を追う警察と、そのひと月前からの島崎の動きが時間をずらしてカットバックして描かれる。あっという間に変貌していく街の様子やそこに暮らす人々の高揚した気持ち、それとは対照的な東北の寒村とそこから出稼ぎに来た飯場の人々の様子が精緻に描き分けられ、雨が降らない東京の天気のヒリヒリした感じとともに、こちらの胸に突き刺さる。
いや、これは面白い。その時代に書かれたドキュメントのような文章に懐かしさも相俟って、下巻の展開に乞うご期待。
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これは面白い!時間が前後する流れで描かれるが、そこがまた面白くて読み進む。今の日本のベースがこの時代にあるのを感じながら読んだ。すぐに下巻にとりかかろう。
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東京オリンピックに沸く昭和の東京での出来事。
長編ですが、なんかいい感じ。
はまって読んじゃいました。
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上下まとめてレビュー。
これまで奥田さんの作品に総じて高評価を送ってきただけに、今作は残念と言わざるを得ない。
まず、高度経済成長期の描写がくどい。
もうちょいさりげなく当時の空気を出せるはずなのに、当時の流行語を並べとけばそれっぽくなるだろ的なやっつけ感が漂う。
物語の構想自体は、スケールも大きくて好きなんだが、結末が見えている以上、終盤に尻切れ感があり、こちらも残念。
それでも、「様々な立場の男達の戦い」という点では熱くさせてくれるところもあり、やはり好きな作家さんであることは変わらない。
次の作品も読みますよ。
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昭和39年、東京オリンピック寸前の東京が舞台。
昭和30年代の世相や風俗などが事細かく描写されていて、東京オリンピックを全~然知らない私らの世代でも、物語世界にすんなり入れます。
オンタイムで当時を知る世代の方々には、どうなのでしょう?当然分かり切っていることの説明が多すぎて、逆に鬱陶しかったりするのでしょうか。
詳細は下巻にて。
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上巻までの感想。
奥田英朗の他の小説では破天荒な登場人物が出てきておもしろくしてくれるんだけど、この小説ではそういう人物は出てこない。笑いはない。完全に純粋なミステリーを目指した作品な模様。ただ、その割には話の深まりもなく、単純な話の割に長い。
下巻でどうなるか?
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東京オリンピックに向かう東京の華やかさと、それを支える地方出稼ぎ者との明暗が非常にうまく描かれている。
日付が交差してよませるプロットは個人的には好きでは無いけど、テレビ感覚で読み進めていけばいいのかも。
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ところどころの描写から、高度経済成長期の日本の様子がよくわかる。ストーリーもなかなか面白い。下巻も早く読もう。
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久しぶりに小説が読めた。
昭和の空気感が丁寧に描かれていて、見たことないはずの景色やかいだことのない臭いををうっすらと思い出せそうな気がしてくる。
序盤、まだ物語が散らかっていて読みにくかったけれど、上巻終盤には徐々にスピードアップして核心に近づいている手応えがある。準備は万端といった感じ。
出来事の展開はなんとなく想像つくから、彼の心の変化を楽しみに読みたい。
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時は昭和39年。アジア初開催となるオリンピックを控えた日本では、その舞台となる東京が戦後の復興と共に劇的な変動を遂げていった。
オリンピックに備えた新たな施設や交通機関。瞬く間に諸外国と渡り合えるだけの繁栄と、オリンピックムードに盛り上がる活気の裏では地方からの出稼ぎ労働者が過酷で理不尽な労働を強いられていた。
そんな出稼ぎ労働者であった兄の死を機に、島崎国男は東京と地方の格差に疑問を抱くようになっていく。
ややスローペースで物語は進行していくのだが、その分、島崎国男に芽生える疑問や心情の変化が丁寧に描かれている。
同時に、オリンピック開催当時を知らない世代としては、その時代の世相がリアルに描写されていてるので非常に興味深く読み進められる。
ただ、まだ作品としての盛り上がり感には欠けてるような気がするので、下巻へ期待!!
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犯人は誰だ!ではなく、犯人と警察の追いかけっこがとても面白い小説です。
主要な登場人物の背景が明らかになっていくごとに感情移入が強くなっていきます。
続きは下巻で!
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物語の最初はミステリー風だが、時々刻々と展開していくストーリーのエンターテイメント性に引き込まれた。作者は東京オリンピックの頃はまだ小学生にもなっていない年齢だろうが、細かく具体的な描写が臨場感を作り上げていく。早く下巻が読みたい!
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2011/10/30。奥田英朗作品は好きなので、上下巻のこの長編はすごく期待して読みました。期待を裏切らず、すごく面白かった!!
時代は昭和39年、東京オリンピック開催直前の東京が舞台です。秋田の貧しい農村出身の東大大学院生が、出稼ぎで肉体労働をしていた長兄の死をきっかけに変わってゆく・・・。最初はミステリ的に始まり、途中から犯罪サスペンスのようになります。
犯人を追う警察目線と、犯罪を起こしていく大学院生目線、すこし時間をずらして交互に進行するのがまた良くて、とくに下巻は一気読みしてしまいました。
この小説の魅力は時代背景の描写。豊かになってゆく東京と、貧しい地方との格差。東京オリンピックのために急速に進められる競技場や交通機関の建設は、出稼ぎ労働者の過酷な肉体労働によって支えられている。労働現場で起こるいくつかのエビソードによって、主人公の大学院生が考えを固めてゆく過程に引き込まれます。
いまは地方にとって東京は昔ほど遠い存在ではなく、格差も経済面についてはそんなに無いと思うけど、わたしも東北の農村出身で祖父は出稼ぎ世代なので、非常に感情移入して読みました。この小説を面白く感じるのも、田舎から東京に出てきたからかもしれないですね。
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私の生まれる前の物語だが、国・地域・文化・文明を表されていて、情景が浮かぶ作品だ。
東京オリンピックを題材にして面白く書けていた。やっぱり奥田作品は面白い。