海戦を比較対照できるデータが欲しい。
2011/05/19 08:45
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浦辺 登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
前作、『海戦からみた日露戦争』の姉妹編とも言うべき内容。日露戦争での日本海海戦での完全勝利の印象があるために日清戦争は軽視されがちだが、近代的な海軍創設過程として日清戦争を見てみると興味は尽きない。
しかし、「海戦からみた」と題してあるように、海戦に限って解説がなされていればよかったのだろうが、日清間の対立構造の歴史にも踏み込んだために焦点がずれてしまった感がある。日清間の対立は単純に朝鮮問題だけではなく、諸外国と締結した条約には無いアヘン貿易を容認する項目が日清修好条規だけに存在しており、これが大きな外交問題として横たわっていた。本書では長崎事件に少し触れているが、治外法権を盾に長崎において清国兵がアヘンを吸引したことによる事件も起きている。さらに、日清戦争に至る経緯にはイギリス、ロシアを始めとする欧米列強の権益問題を抜きにしては語れず、日清間だけで外交交渉の経緯を辿ると、日本の帝国主義、侵略主義、軍国主義になってしまう。
読み手の立場としては、海戦だけにとどめておけば良かったのにと思ってしまう。そのことは、東郷平八郎が責任者として処分したイギリス船籍の「高陞号」事件においてもそうである。著者は外交文書や「アジア歴史資料センター」のインターネット資料を駆使したというが、この事件についての見解は多岐に渡っている。清国側は再三再四の投降勧告に応じるどころかイギリス人船長を人質にして投降を拒否し、さらに清国兵が日本側に射撃をしてきたとの報告もあり、東郷艦長の対応は「武士道」にも劣るとの批判は再検証の必要があると考える。さらに、「高陞号」事件以前から、清国は天津条約違反を犯して兵員を商人や官吏に変装させて駐留を継続していたともいわれ、日本側の対応を批判する記述には調査不足の感を抱いてしまう。
海戦からみた日清戦争と題しているが、清国の海軍士官はイギリス人、ドイツ人であり、自然、兵器も各国の兵器が混在していたことなど、もうひとつ踏み込んで比較対照しても良かったのではと思える。日清の事情に詳しいアームストロング社の代理人も日本と清国の人的、物的相違について明言しているので、そこも紹介すれば具体的な比較事例として面白かったのではないかと思う。
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日清戦争の評価として、日本と清国の開戦までの日清両国の海軍整備の状況を丁寧に追っている(第2章)。好著です。問題意識としての「日清戦争はなぜ開戦に至ったか」は単純な答えはないのだと思えた。
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もう何度目になるのか。ことあるごとに近代史を読み返す。
後世の人は必ずこう呼ぶであろう「日本の50年戦争の始まりの戦争」
それが、日清戦争である。自分より強大な敵と戦ったためか、あるいは日本の完勝に終わったためかこの戦争に関しては現在の判断からは「陰鬱さ」が欠如している。戦後教育の賜物で「No more戦争!」のような戦争忌避が全てある思想を持っている私でさえ、艦隊決戦でほぼ雌雄を決した黄海海戦はどこか牧歌的な雰囲気をかもし出していて古きよき時代であるかのように思える。最高速度14.5ノットでの戦い、隊列が横陣形と縦陣形の戦い、敵艦隊発見後食事をしてから戦闘開始という悠長さ。いかにも明治の若々しい力を感じる戦争であっただろう。
しかし、この本でもっとも重要なことは現在でもそのまま日中関係として成り立ってしまうということを描き出していることである。戦後、圧倒的な経済成長で世界の経済大国としての地位を築き上げた日本対20世紀末改革開放によって爆発的な勢いで軍備と経済体制を整え始めた中国のことだ。当時日本の最新艦の1.5倍以上の排水量を誇る清国の「定遠」「鎮遠」に対し、日本海軍は速射と軍の練度で戦いを挑んだ。だか、日本の三景艦「松島」「厳島」「橋立」に搭載されている三十二インチ砲はあまりに重量が大きすぎ、砲を横に旋回するだけで、船体が傾くほどだったという。一時間に一発しか放たれていない。それに対して、「定遠」「鎮遠」も負けていない。「定遠」が初めて主砲を発射したとたん振動で艦橋が崩れ落ち司令官の丁汝昌が負傷したという。
この本ではじめて知ったことだが、黄海海戦後の威海衛で日本海軍は世界で始めての水雷艇の集中運営で港内の敵艦を攻撃している。これは、まるで真珠湾への機動部隊の航空攻撃を連想させる。以前日本人は独創性がないとよく言われていた気がするが、すばらしい独創性があると思うのは私だけではあるまい。勝った戦争からは日本人のよさがにじみ出て、負けた戦争から日本人の悪さがにじみ出る。それでいい。そうして、学んでいけばいい。
いつだって日本人は必至で戦ってるんだと思える一冊である。
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一般的にはピックアップされにくい日清戦争の海戦をテーマにしております。
そのなかでも本書は「日清戦争は後の戦争にどのような影響を与えたのか」という事を主軸に幕末ー日清戦争終戦までの海軍の歴史を考察されております。
東郷平八郎等、後々の大戦で登場する人物の若い時代の事もかかれており、海軍ファンなら読んでおいて損はないと思います。
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国際社会の大洋に挑む明治海軍はいかに封建主義を乗り越えたのか?国難を覆した、「坂の上の雲」男達の組織論。
後世の感覚からみれば、勝ったのは当たり前の様に感じられるが、本書を読むと、苦難の上に勝てた事がわかる。
清国も開明的な指導者がいて優勢な海軍力を所持していた。しかしながら、日本が勝ち、清国が負けたのは何故か。著者は、ハードだけでなく、人材育成に力を注いだ事をあげている。
日清戦争での教訓を生かした事が、日露戦争の勝利につながったが、日露戦争の教訓を生かす事が出来なかった。
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艦船などの装備品の充足度に劣った日本が清国に勝てたのは,ほとんどが輸入品であった資材を実際に使用する兵士の質が,事前の教育で培われていたことが大きな要因だと結論づけている.妥当な見解だと思った.現代に当てはめて見ると,自衛隊の質はどうなのか,若干気になる.でも,軍事費に多額の血税を費やす時代は終わったと思うが,我が国の金の使い方には大いに疑問がある.
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日清戦争での海軍の重要性を初めて知った。
海軍のハードのみならずソフトの充実を重要視したこと。艦船の技術は世界的にも確立されて行く時期で、様々な失敗があったこと。清軍との威海衛海戦は、各国海軍に注目されていたこと。
一方、海軍の組織の問題が、1945年まで解決されずに終ったことも知った。