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紙の本
この本を読んだ中三長女が言った「この本て、ジョーダン?」まさに遊び心いっぱいの脱線医学無駄知識。でも、ありがたいことに、これを読むと美術品も病気も身近なものに思えてくる
2004/01/11 19:22
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
いつも書店で「し」の棚をみるたびに篠田節子の新刊が出た、と糠喜びさせる作家がいる。『常夜灯』『聖母の鐘』『法王庁の避妊法』『烏鷺寺異聞』『空の石碑』、ま人によって見解の相違はあるだろうけれど私にとっては、いかにも節子さんらしいタイトルなのだ。しかし、そこにあるのは節子ではなく達明の名前である。これはペテンだろう。慶隆一郎の隣に峰隆一郎の本を置かれた時の喜びと失意に匹敵する。ま、これは篠田達明にとっては全くの言いがかり。
で、この本はその篠田達明が実は医師である、ということを証明するような本なのだ。いや、先に断っておこう、私は篠田節子の本は出れば読むようにしているけれど、達明の本を手にするのは初めてである。だから、この本の広告を見たときも、読み始めても、同姓同名の他人だとばかり思っていたのである。
で、あまりの達筆、軽妙洒脱な文章に、もしかしてと著者案内をみたら、私がいつも気にしながら遠ざけていたご当人だった。そう、この本、読みながら「また、センセー、冗談なんかいって〜!」と思わずいいたくなるくらい、お医者様のおふざけムード満点なのだ。
先生の診断を受けるのは29人の有名人ばかり。それはそうだろう、肖像画が残っている無名の人なんてのはあんまり聞かない。で、全体は五章。第一章「あの「名作」に隠された“病い”」ではモナ・リザ、宮本武蔵、ヴィーナス、それに見返り美人と菩薩像が入るというのが、うーん、もう、センセーである。
第二章「壮絶なる戦国武将たちの肖像」では秀吉、家康、信長、光秀、謙信。第三章「贅沢病ぞろいの平安・鎌倉」は道真、道長、清盛、西行、定家。第四章「江戸っ子たちの“生活習慣病”」では、源内、三馬、馬琴、お岩? なにそれ、また患者さんの笑い狙い? もう。第五章「西洋からの“病気のカルテ”」ではロートレック、ドラキュラ、ミロのヴィーナス、セザンヌなどなど。
患者さんの方もわけありの人ばかりで、やはり印象的なのは「菩薩像に見る少女の脊柱側彎症」だろうか。兵庫県の鶴林寺にある銅作りの観音菩薩の姿勢から、病気を言い当てるのだが(当っているかどうかは、とりあえずレントゲン写真でもとるしかないかもしれない)、自分だけの診断ではこころもとないと医者仲間に相談をする。それに答えるほうも、ほうだが、それならば法隆寺の秘宝救世観音などは拒食症ではないか、エジプトのミイラは乾燥肌ではないのか、くらいは言ってもいいのではないだろうか。
ミロのヴィーナスのおなかの辺りの写真を見ながら、お医者さんたちが「これは妊娠線ではないか」などと議論するのも楽しい。いっそドラえもんの絵を囲んで、頭が大きすぎるとか、ガンダムSEEDでしょっちゅうシャワーを浴びる姿を見せるナタル・バジルール少佐は露出狂だとか騒げば、かなり若いなあと思うのだけれど、そこまでの脱線はしない。
でも、全体に漂う遊び心は楽しい。これなら、小説の方も読んでみたいという誘惑に駆られる。でも、そっちのほうは案外マジメで堅かったりして。うーん、センセーである。
紙の本
肖像画から分かる驚くべき事実!新潮新書の中でも出色の歴史エッセイ−
2003/10/27 00:42
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投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近、医療や建築家、古書店、主婦業などを兼業しながら、その分野の知識を生かした作品を発表している作家が増えている。本書『「モナリザは高脂血症だった』も医者にして作家の篠田達明が、肖像画や絵画などから窺われる歴史上の人物の性格や疾病を医学的視点から論じた興味深い読み物である。扱われている人物は、古代から近現代まで29人、日本史と西洋史の人物がバランスよく取り上げられている。この中から、「モナリザ」、「明智光秀」、「アレキサンドロス大王」の項を少し紹介してみよう。
「モナリザ」。言うまでもなくダヴィンチの描いた肖像画である。この絵画をよく見ると、左の目がしらに黄色いしこりがあり、これは何かということを巡って昔から様々な議論がある。著者はそれを「高脂血症」と診断する。「高脂血症」とは耳慣れない言葉だが、これは長年栄養価のある油こいものを摂り過ぎると、余分なコレストロールが黄色いしこりとなって肌の各所に出来、とりわけ肘や瞼によく生じるものらしい。そうすると、飢餓に民衆が苦しめられていた当時、モナリザは恵まれた生活を送っていたことになり、年齢としては30〜40歳代の熟女と推測される。もっとも、目じりの黄色いしこりは単なる出来物という説もあり今も議論は続いている。それにしても、画家の目は目もとの小さなしこりさえも見逃さずに描いていて、その透徹した描写力には今更ながら驚かされる。
「明智光秀」。教科書や歴史書などで見かけるハンサムに描かれた光秀の肖像画である。著者は、光秀の目元に注目し、目つきが細く近視者特有の特徴が浮かんでいるとし、近視のために主君の信長の微細な表情を読み取ることが出来ずに不興をかうことも多かったのではないかと推測している。また、近視の人は遠くを見る場合は焦点を合わせようと顔を顰めることもあり、この点も信長から「可愛げのない奴」と思われたのではないか。一方、秀吉はおそらく目もよく見え、主君の一挙一動がよく分かり、機敏に対応出来たのではないか。
このように著者は言うのである。光秀と秀吉の運命を分けたのは、視力の良し悪しであったとは、面白い見方と思う。
「アレキサンドロス大王」。一般に大王の姿は、敵将ダレイオスを打ち負かしたイッソスの戦いを描いたモザイク画が有名である。ここでは、大王は長い髪を靡かせ敵将に迫る凛々しい青年武将として描かれている。また、往年の名優リチャード・バートンが主演した大王の映画を思い浮かべる方もいるであろう。本書で取り上げられているのは、リュシッポスという同時代の彫刻家が作成した大王の像である。この像を見ると、大王は斜頚を患い、常に頚を傾けているように見える。プルターク英雄伝を開くと「大王は軽く左の方へ頚を傾ける癖があった」とある。当時の文献や彫像が同じ症状を指し示しているので、この英雄の斜頚はまず疑い得ないと著者は診断する。これは、美丈夫で均整のとれた肉体の持ち主という従来のイメージを覆す刺激的な見解である。しかし、宮廷の陰で自分の斜頚を嘲笑う廷臣たちを尻目に、有りのままの姿を平然と刻ませた大王はやはりスケールの大きい人物であったと思われる。あれだけの大帝国を築き上げたのも、戦上手もさることながら人間的な度量もあったに違いない。
以上印象に残った話を少し紹介したが、他にもこのような興味深い話が多く載せられている。昔のことなので、はっきりした記録も残っていないこともあり、いきおい状況証拠を積み重ねた推論が多くなっているが、著者の見解は複数の情報をつき合わせて展開されているので概ね納得できるものになっている。文章も平易で、時には難解な医学用語も混じるが、論旨は明快である。新書にしては情報量も多く話の意外性にも富み、作家らしい人間観察も随所に挿まれ出色の内容になっている。
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