紙の本
短編小説「魚船・獣船」と同じ世界を描いたSF超大作
2016/12/12 12:09
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コスモス - この投稿者のレビュー一覧を見る
上田早夕里さんによる長編SF作品。
「華竜の宮」と同じ世界を描いた小説が「オーシャンクロニクル・シリーズ」として刊行されており、本作品はそのシリーズの第2作目にあたります。
1作目は短編集「魚船・獣船」の表題作ですが、2作目である本作品は1作目を読んでいなくても充分楽しめるようになっています。本作品が楽しめた方には、是非読んでもらいたいです。
「オーシャンクロニクル・シリーズ」で描かれる世界は、ホットプルームによる海底隆起で多くの陸地が水没した25世紀。人類は未曽有の危機を辛くも乗り越え、陸上民はわずかな土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は〈魚船〉と呼ばれる生物船を駆り生活しています。
上巻の終盤で「アジア海域での政府と海上民との対立」以上に深刻な問題である、地球の絶望的な環境激変の予兆を〈国際環境研究連合(IREA)〉が掴んでおり、
この星の絶望的な未来が暗示されます。
下巻では、人類がこれら2つの問題解決に全力で取り組む姿が描かれます。だからこそ、人類が絶望的な未来を回避できるのではないかという希望を持つことができます。
これ以上書くと、結末を明かしてしまいそうなので、先が気になる方は是非読んでください。
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同じく、次作の深紅の碑文を読んで、文庫本かで再読。碑文の時にも思ったが、本作では碑文で詳しく語られる人類の主としての記録を伝えるべき建造された宇宙船や、ホットプルームに至るまでの人類の葛藤等はあっさりと語られるにすぎなかったことを再認識。ただし、碑文を読んでいるときには忘れてしまっていたことを思い出すことができ、両作品ともに続けて読めば更に、この世界観に浸ることができるだろう。碑文の際にも記載したが、ぜひ、同じ世界観で取りこぼしてるエピソードを含め、次回作を上梓願いたい。
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滅びゆく世界で人はどのように生きるべきか、というところから想うと、『渚にて』を読んだ時の感覚を少し思い出したりした。あれよりはもう少し、救いがあるような希望が持てるような感じだけれど。
青澄もツキソメもタイフォンも、己の信念を持っていて、より良く・人間らしい誇りを失わずに生きようとしているところが良かった。
どんな環境に置かれても、残りわずかの時間しか残されていなくても、結局今と変わらない愚かさを持ち合わせている人間は、だからこそ愛おしい存在でもあるのだろう。作者が人間へ抱くそんな気持ちが感じられた気がした。
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解説では日本沈没に触れていて、確かに、日本沈没における「日本人」というものを「人類」に置き換えたようなドラマが大きな物語として根底にあるストーリーではある。ただ、それは舞台装置であって、同じ舞台をもとに、時間軸上も含めて様々なポイントにフォーカスして、これからも作品が作られるっぽいので期待して待ちましょう。
その舞台装置側に関係するような伏線なのかな?と思わせる事柄が散見されますが、つまり、この話の中ではちゃんと回収し終わらないということなので、ああ、こんなこと書いたらネタバレですかね。一方、どうも主人公の内面を直接一人称で語らせることへの躊躇いか照れか判らないけれど、その「アシスタント」の一人称語りというのは、面白いし、今はまだSFでしかできない物語の書き方だと思うのですが、そういうことになるという経緯をすっ飛ばしているので御都合主義ではないかとの疑念を祓うには至らないという感じ。もっと前の時代を舞台に、本作ではさらっとすっ飛ばしたところの、環境激変に対して人類がどういう対抗措置をとってきたのかについて詳述する話も書いてくれたら嬉しいなぁ、というところですね。
きっと、ワクワクすると思います。
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上巻終盤から世界に迫る新たな危機が明らかになり、物語が新たな展開を見せる下巻。
愚直なまでに自分の立場を抱え込み苦悩する登場人物たちの様子は読んでいてとても切ないです。
スケールの大きさはやはり格別! 全地球を巻き込む危機に、各国の巨大組織がどのように動くのか、その動きに対し青澄はどのように動くのかという政治的な駆け引きも読みどころです。
最後は少しトーンダウンしたかな、という印象もありますがそんな中である意味印象的だったのがエピローグ。未来へ希望は残されたのかその後の地球はどうなったのか、いろいろと想像させられました。
すでにこの世界観の話の姉妹編の作品も刊行予定だそうです。そちらも気になるなあ。
第32回日本SF大賞
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海を舞台にしての、情報戦。
「華竜の宮」ってタイトル、同じ世界観の「魚舟・獣舟」をよんで想像していた印象とはイメージが違ったけど。
でもすごく好きな世界観だった。
その時代に合わせて身体までもを変えて生きている強さもかっこいい。
少し先の、絶望的な大災害にたいして大人たちがいろんなあがき方をするのもいい。
そして自分の中の正義をまっとうする、青澄の生き方が好きだ。
あとアシスタント知性体、私もほしい。
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小松左京の「日本沈没」の最新化し、地球全体に話を広げたようなSF小説
小松左京の「日本沈没」はそのとき最新の地球科学理論のプレートテクトニクスをベースにしていたが、「華竜の宮」のは、1990年代の観測技術の進化に伴い登場した新しいプルームテクトニクスという理論をベースにしている。
運命を受け入れながら、最善の道を探し、熱く行動する主人公
人類の善意を信じる作者の思いが伝わってくる。
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2012 12/11読了。有隣堂で購入。
地表の大半が海に没した未来で、人口知性のアシストを受けたりしつつもわずかな陸地で人の形を保って暮らす陸上民と、遺伝子操作によって従来と異なる特性を身につけ海で暮らす海上民。
その間で起こるトラブルと、その解決に奔走する外交官や、海上民のオサ、海上民ながら陸上民の下で働きつつ、海のために奔走する警備隊長たちの姿を描く、SF小説。
上巻末で明らかになった大異変に絡んでいよいよ主人公たちが奔走し、最後にはついに「プルームの冬」がはじまるところまでを描く。
SF小説でもありつつ、交渉小説というか、いかに無理難題の中でお互いの妥協点を見つけるか、というようなやりとりが多くてそっちも面白かった。
あと、主人公の1人・・・視点人物の一人だったタイフォン(警備隊長)が、多くのものを失いながらも俺は生きるぞ・・・的な展開になった、直後に魚雷で爆散していて「うぇっ?!」と意表をつかれたのが一番の印象。
甘くないなこの世界、っていう。
にしては青澄とツキソメは比較的ノーダメージで生き残ってたけど・・・。
この世界観で、本件後から「プルームの冬」到来までの期間を描く話を現在著者は執筆中・・・と解説に記述あり。
そっちは文庫落ちを待たずして買ってみてもよいかも?
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イマイチ入り込めず、少し批判的な目線で見てた。プルームテクトニクス部分は面白いけど、遺伝子工学で改良された海上民っていうのが、今ひとつ掴みきれず。その辺は短編なのかな?ツェン兄弟も特に弟の扱いとかもっとなんかあっても良かったんじゃなかろうか。リリエンタールの末裔と、次作も読んではみようかと思う。
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主人公が外交官で『交渉』している場面がほとんど。まっすぐな主人公には好感が持てたけど、魚舟・獣舟とかアシスタント知性体とかの設定が中途半端というか嘘っぽくて、真面目な内容に合っていない感じがした。話が綺麗過ぎて…うまくいきすぎじゃないかな、、もっと登場人物の汚い部分も見たかった 。
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アメリカや中国のこと悪く書きすぎで、日本のこと良く書きすぎという気がしないでもなかったですが、著者の人類に対する愛情と信頼を感じられる作品でした。人類が滅亡に瀕したとき、本当に全世界が協力して危機に立ち向かうことができるのか、少々疑問な気もしますが、そうであって欲しいなと思いました。
ラストにアシスタント知性体のマキが言った一言にグッときました。
何も成果を出せなくても全力で生きること、それだけで充分じゃないか。そうそう仰る通り。
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上田早夕里「華竜の宮」読了。ツキソメのデータの件も含めて、物語全体がすべて計算され尽くされたうえで出来上がった作品ではないだろうと思う。まったく個人的な趣味としては、解説にもあるように魚舟と獣舟という設定が納得できず、ファンタジー的な雰囲気が少し得意ではなかった。
しかし、厳しい未来という世界観の中で、外交官を主人公にした「交渉による」悪あがきの姿に心を打たれた。特に、キーパーソンの皆が凄まじく真面目でありながら、利害も考え方も違うという状況で交わされる会話の一つ一つの説得力。
エンターテイメントとしては、ツェン・タイフォンの男気溢れる生き方に涙した。一方で影の薄い兄のリーについても、非常であり、熱血漢の弟とは手段は違えど、目的を共有している姿に納得した。また、青澄の上司である冷血な桝岡と外務大臣との交渉のシーンの迫力は、意外性を含めて興奮した!
主語を主人公の青澄ではなく、アシスタント知性体にしていたのも、エピローグにまできてひどく効いてくる。コピー可能で死をも恐れない存在であるソフトウェアを語り部にすることで、人間の営みが客観的に見える。し、ラストの青澄とのちょっとした再開シーンだけで、なんか満足してしまいました。
SF的な設定でありながらも、その本質は人類をかけた人々による「外交」のお話であるという本書。ここまで本気で言葉のやりとりを扱った小説は「ジェネラル・ルージュ凱旋」くらいしか読んだことがない。そして、規模感がSF的に大きいので、フィクションとしてはより面白い。文句なしに、傑作です。
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地球の環境変化を前に、青澄はどのような決断をするのか。
身体を環境に変化させる、というのは、イカになった某マツモト氏を思い出させたのだけれども、人類はそうした選択をするのだろうか。
世界観もしっかりしているし、文章も読みやすいのだけれども、青澄が読者に対しても一線引いているようで、どうにも入り込めなかった。
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この世界観は初めて。ハリウッド映画か、スピルバーグか…本を読んでこんなに見たこともない映像が自分の頭の中に広がったこと、なかったかも。新しい読書体験でした。とんでも映像の中に、青澄やツキソメをはじめとする登場人物やアシスタント知性体が、しっかりと生々しく生きているのがいいなぁ。終盤、ユズリハの中で繰り広げられたアクションなんか、もう手に汗握って読んでました。マキ好きだ。夢をつなぐあの終わり方、好きだ。
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何百メートルという海面上昇が起こった地球が舞台の、壮大なSF。SFといえば宇宙のイメージも強いが、これは地球にしがみつくことを選ぶしかなかった物語。大異変が起ころうが人間はやっぱり内輪の権力争いに明け暮れており、そのことに組織の内部から抵抗しようとする外交官の奮闘ぶりが描かれている。体を改造した「海上民」や進化したテクノロジーなど色んな要素があり、引っ張られるように読めた。ラストで人工知性体がこう呟く、「彼らは全力で生きた。それで充分じゃないか」。結果に関わらず納得できるまで行動することが大事だ、と読み替えると「生きること」に限らないもっと身近な行動規範としてのメッセージだと読める。