「よかった!感動した!」で終わらせてはいけない!そこから学び、一歩を踏み出すことが重要である!『人を助けるすんごい仕組み』(西條剛央著)
2012/04/22 15:45
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まなたけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書の内容に鳥肌がたちました。
そして「この本は日本人に希望を与える本ではないか!」と思いました。
本書の構成を時間軸で区切ると、大きく2つに分けることができます。
前半は、ふんばろう東日本支援プロジェクトがスタートした経緯、そしてその活動をまとめた「ふんばろう東日本支援プロジェクトのスタートからの変遷と活動のという「過去の経緯」。
後半は、組織運営のノウハウの開示やポスト3・11への提言といった「未来に向けた視点」です。
先に「この本は日本人に希望を与える本ではないか!」と書きましたが、そう思った理由は2つあります。
理由の1つ目は、「人はリミッターを外すと、こんなにも大きな力を発揮するものか!」と感じさせる内容だからです。これは、前半の「過去の経緯」の部分を読むと、強くそれを感じます。
宮城県出身の著者が震災後に支援物資を届けに南三陸町乗り込みました。しかし、そこで見た光景は悲惨なものでした。そんな光景を目の当たりにした著者は呆然とすると同時に強い決意がみなぎってくるのでした。リミッターを外した瞬間です。
「すべてを失っても前を無効としている人がいる。何も失っていない僕らがやる気になればなんだってできるはずだ」
本当の勇気とは何か、僕は初めてわかった気がした。
そのとき、自分の中のリミッターは、カチリと音を立てて、完全に外れた。
未曾有の事態には、未曾有の自分になるしかない。
できることはすべてする、その瞬間、そう心に決めたのだった。
(本書より)
リミッターを外した人間の力とは、本当に大きいものです。ボランティア活動を行ったことがない著者が数人の仲間で始めた「ふんばろう南三陸町」は、数日の間に「ふんばろう東日本支援プロジェクト」に拡大し、数々のプロジェクトを運営していくまでになりました。著者の魂が入った言葉がツイッター上に発信されたからこそ、共鳴する多くの人が現れ、それが日本最大級の支援組織に発展していったのではないかと思います。
我々の思考の中には「現状維持バイアス」がかかっており、その結果、変化を好まない行動を取りがちです。しかし、「リミッターを外し、現状維持バイアスをつき破ったとき、人は大きな力を発揮する」ということを著者は示したのです。
「意思が未来を切り拓き、未来が過去を意味づける」(本書より)と著者は述べておりますが、我々も目的に焦点を合わせ、そこに何らかの「意思を持って初めの一歩を踏み出したとき、それが大きな波紋の一歩になるのではないか?現状はさまざまな困難が待ち受けているかもしれないが、乗り越えることができるのではないか?と読者に感じさせる力を本書は持っております。
理由の2つ目は、「これは今後の日本の組織のモデルになるのではないか?」と思えたことです。
「組織の硬直化」はあらゆるところで言われていることです。震災後に支援おいても、行政の「前例主義」、「要請主義」により、支援物資が被災地に行き渡らず倉庫に眠ったままという事態が発生いたしました。これは「組織の硬直化」の最たる例です。そしてそれは、「時事刻々と変化していく事態に対応できずにいる現在の組織の姿」を露呈したのです。
先日読んだ『2022―これから10年、活躍できる人の条件 (PHPビジネス新書)』(神田昌典著)に、このような記述がありました。
ライフサイクルの末期の組織とは、アメリカ人が経営しようと、中国人が経営しようともどうしようもなく硬直化・官僚化する。似たようなものだ。
私たちの課題とすべきは、日本人のビジネスパーソンの能力を上げることではない。いままでの「会社」における仕事の仕方を変えないまま、どんなに頑張ってもライフサイクルの末期は末期。どんなに汗をかこうと、どんなに自分に厳しくしようと下り坂を上り坂に変えるためには努力ではどうしようもない。
繰り返すが、ライフサイクル末期で重要なことは、古き価値観を手放し、新しき価値観を創造すること。壁で包囲された窮屈な世界にこだわるのではなく、壁がない自由な世界に飛び出すことを選択しなければならないのだ。
(神田昌典著『2022―これから10年、活躍できる人の条件 (PHPビジネス新書)』より)
恐竜が滅亡したのは、環境の変化に対応できなかったから。変化に対応できない硬直した組織は衰退の一途をたどる。これは、過去の歴史を見ても明らかです。
今回の「ふんばろう東日本支援プロジェクト」の組織の優れたところは「無形の型」にあります。
融通無碍の水のような機能体であることによって、戦局(状況)に合わせてここぞというポイントに、こちらの戦力を集中させられればいい-
(本書より)
このような「一戦必勝が可能な組織」を走りながらも作っていったからこそ、変化の中でも数々のプロジェクトを運営することができたのだと思います。
目的に共鳴して集まり運営された「ふんばろう東日本支援プロジェクト」、そして変化に柔軟に対応できる「無形の型」の組織運営は、今後の日本の社会において大きな参考モデルになるのではないかと思います。
最後に、私が本書を読んで強く思ったことを書きます。
本書は本当に鳥肌が立つほどの凄い本でした。しかし、「よかった!感動した!で終わっていいのか?」という疑問です。「よかった!感動した!で終わらせてはいけない。そこから学んだ何かを自分たちの行動につなげていくことが重要ではないか?」と読んでいくうちに強く感じたことです。
簡単にリミッターを外すことはできなくとも、本を読んで学び、それが小さな行動に結び付けることによって、それは大きなムーブメントにつながることもある。本書は震災支援のプロジェクトについて書かれた本ですが、それは我々の日常の生活に生かすことができると思います。
「意思が未来を切り拓き、未来が過去を意味づける」(本書より)
本書を読みっぱなしで終わらせない!小さなことでも、何かできることを行動に結びつけて行きたい。それが「未来を切り拓く意思」であり、「意思が未来を切り拓くことにつながっていく」ことだと思うのです。そして、「その契機になれば!」というのが本書のメッセージですから。
-君の助けを必要としている人がたくさんいるよ。
-いまやらなければいつやるんだい?
-いまこそ君の力を発揮するときだよ。
-うまくいくように見守っているよ。
もし、そうだとしたら、東北は、日本は甦るに違いない。-すでにこれだけ多くの人が何かに「呼ばれて」動いているのだから-。
そして本書を読んで、少しでも心が動いたあなたも、何かに呼ばれているのかもしれない。あなたがその心の声に耳を傾ける機会になれたら、本当にうれしい
(本書より)
できることから始める
2020/07/04 11:24
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
行政では行き届かない、臨機応変な支援に感心します。SNSの発信力を活かした、これからのボランティアの在り方も見据えていました。
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献本御礼。
心理学者で哲学者の西條さんが震災でおじを亡くし、故郷東北が危機に瀕しているのを見て、現地でたくさんの支援活動を始める。「ふんばろう東日本支援プロジェクト」と名付けられたそれは、お役所仕事的に救援物資が山積みになり、しかし必要とされる人に届かない現状認識から始まり、電化製品の提供やメンタルヘルスまでツイッターなどソシアルメディアを駆使した形で提供される。ビジネス・モデル的な方法原則から構造構成主義に代表される哲学的な思弁を交えた活動の記録。まっすぐに走りつづける著者の生き様が赤裸々に記録されている。読むと体温1℃くらい上がります。
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一気読みした。圧倒された。希望と勇気をもらった。しばらく余韻に浸る。
後程振り返りながらレビューをまとめよう。
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震災後に半ば病的にツイッターを追っていた頃、リアルタイムでその立ち上がりを目撃していた「ふんばろう東日本プロジェクト」。この本ではプロジェクト立ち上げや成長の経緯のほか、巨大な分散型組織への成長を支えた組織論や今後の激甚災害に際する支援体制についての提言が込められている。代表の西條剛央さんは早稲田のMBAで「構造構成主義」を唱える教員。この方法論がプロジェクトの成り立ちに深く関わっていたのだと思えた。
印象的だった一文。
「時間を止めて固定的に考えると、一人ひとりの力はあまりに小さく無意味なもののように感じてしまいますが、時間というファクターをいれて考えるとそんなことはないとわかります。僕らだけですべてを完成させる必要はないんです。僕らが少しでも進めておけば、そこを出発点として、子どもたちが、次の世代がさらに進めてくれる。」
自分一人で出来る事など限られているし、もう少し広げて自分たちの世代という括りで考えたとしても、世の中が劇的に良くなる事などないということが正確に認識されている。けど、それが決して諦めとしてではなく、負け惜しみや強がりでもなく、明確なビジョンの中にポジティブに位置づけられている。よく語られる「微力ではあるが無力ではない」ということにも通じるんだろう。
このところ富士登山についていろいろ調べていて、そこで行き当たった考えと通じるものがあった。
「富士山の山頂を目指すのに体力があるかどうかは関係がない。ちっぽけな人間という存在における個体差など問題ではないくらい、自然の存在はあまりに大きいからだ。しかし逆説的に言うと、体力が有る無しに関わらず、人間は工夫や努力や心持ち次第でそこに到達する事が出来る。自分には特別な能力などないという正確な認識と、それに絡み取られずに真摯に頂上を目指す姿勢は、一点の曇りもなく両立する。」
人並みはずれた能力を持つ西條さんやコアメンバーが、ある時期に身も心も全て投じたことでこのプロジェクトの屋台骨が形作られた。が、それだけでここまでの実績が作られたとは思えない。仕組みを作った人たちは間違いなく凄い仕事をしたと思うけど、凄い実績が残せたのは、その仕組みに、日常をちょっとだけ踏み越えた市井の人たちの想いが大きなうねりとなって流れ込んだからだ。
西條さんは巻末で、プロジェクトがここまでの実績をあげられた事を「多くの人が「呼ばれて動いた」結果だと思う」と結んでいる。
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もし、「今、読むべき本」というものがあるのならば
私は間違いなくこの本を選ぶ。
2011年3月11日のあの地震に何か思うことがあったのなら、
ぜひともこの本を読むことをおススメする。
とはいえ、作者の西條さんが学者さんということもあって、
かなり、本らしい本に仕上がっていて、
うっ…と躊躇してしまう人も多いと思うので、
そんな人は、「ほぼ日刊イトイ新聞」の
コラムを読むことをおススメします。
インタビューなので、こっちのが読みやすいです。
うん。そして、とりあえず“ふんばろう東日本支援プロジェクト”
が何であるかを知ってください。
そして、それがどんだけ、すんごい成り立ちをしたのか
知ってもらったら感動すること間違いなしです。
たった数人の何かしようの気持ちが、わずか一年足らずで、
あらゆる境界を超越して人を組織を動かした。
国内だけに留まらず、世界に誇るモデルとして、
どんどん発信していって欲しいと思う。
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本書はまず著者西條さんの「ふんばろう東日本支援プロジェクト」の経験を時系列で追う。次に、「第三者」である糸井重里さんの投げかけに応える形でもう一度「ふんばろう」のシステムを振り返る。さらに、「ふんばろう」の運営上で悩んだ点を整理し、解決に導いた手法を率直に語る。最後に、「ふんばろう」の活動を通じて得た提言が何点か語られる。全体の構成がすばらしく、引き込まれるように一気に読んでしまった。西條さんとは、昨年10月に北海道大学で開催された「情報ネットワーク法学会」で一緒にパネリストとして参加した際に知己を得ることができた(本書P286に言及されている)。静かで熱い彼の人柄がこの良書を生み出したのだと思う。そして、ここで語られていることは災害時対策ということだけではなく、地域の抱える課題をどう解決していくのか、その際にソーシャルメディアをどう活用することができるのかということも考えさせてくれる。
ICTは道具に過ぎない。しかし、その道具の持っているポテンシャルの高さには刮目せざるを得ない。そして、「ふんばろう」は水平的に広がる人と人のつながりを生み出すプラットフォームだと感じる。そのつながりは個と個がつながり、ボトムアップ的な直接民主主義を生み出すという力の大きさを感じさせる。ぜひ一読をお薦めしたい。本書の印税全額と出版社であるダイヤモンド社の売り上げの一部は「ふんばろう」を中心とする東日本大震災の復興支援活動に寄付されるとのこと。
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「ふんばろう東日本」
この取組みに私が出合ったのは11月末
秋になってからも自分なりには細々とできる支援やボランティアは
していたけれどやはりどこか他人事になりつつあった。
リツイートされてきた「冬物家電支援」を知り初めて必要な支援が
届いていない地域や方々がいることを知って驚きが隠せなかった。
募金で出来る事はわずかだけれど、東京でわずかの時間ずつでもお手伝いができるのも知り、登録したけれど使っていなかったfacebookから自分ができる範囲でポツリポツリとお手伝いさせている。
取組みの現場はすごく熱くて機能的。
普通ボランティアの現場は馴れ合いになったりボランティアなんだからって雰囲気が漂いがちなんだけど、そんな感じは微塵もない。
後から参加した私はずっと不思議だった。
この本を読んで謎がとけた。
まず西條先生が熱いだけでなく、しっかりした理論の元組織を作っていったからだと思う。
色々な知恵がつまった良書、是非手にとって頂きたい1冊。
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目からうろこだ ーーーー
本屋でずっと気になっていた本をようやく読んだ。
タイトルに惹かれたのは言うまでもなく、
それ以上の何かを感じた。
読んでみてハッとした。
自分が見ていた世界があまりにも狭いと感じた。
ふんばろう東日本支援プロジェクトの存在も知らない、
Cure East Japanの存在もしらない。
「赤十字とかの義援金はすぐに被災者に届かない」
という話を聞いていたのにも関わらず、
なぜ届かないのか、その仕組すらわからない。
本書の考え方は非常にシンプル。
でも、実際に実行するのには勇気もいるだろう。
多くの人の努力と熱意があったからこそ実現したプロジェクト。
僕らはまずはこの事実を知ることから始めなきゃいけない。
まだ何もわかっちゃいなかった。
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この本は、読んでいて何度か泣きそうになった。それは、すんごい仕組みとかそういうことじゃなくて、単に津波の惨状と、そこに生きる人たちの姿に対して。そういう現実を伝える書としても読みごたえがあった。
この本の著者は、「ボランティアの経験がない」と謳ってはいるけど、モノスゴイ実力を持った人だ。視点が鋭く本質をついている言葉が多い気がする。ひらりんが付箋貼る箇所が多かったのも、ひらりんには言葉にし切れなかった概念や考え方が、ちゃんと言葉になっていると感じたからだと思う。
震災の現実を教えてくれたこと、フラットな組織論と運営手法の新しい形を見せてくれたこと、どちらも重要なことで、読めて良かったと思う。
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私がふんばろうを知ったきっかけはAmazonで被災地へ直接援助するシステムでした。こんな方法(欲しい人へ欲しいものを)ができたらいいと考えていたので、とても嬉しかったです。
「そこに方法がないなら、作ればいい」
その方法にたどりつくまで、そして同じ思いの人たちがどんどんつながっていくまでが、読みやすくかかれています
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陳腐な言葉かもしれないが、本当に感動した。
人って人のためにこんなにも一生懸命頑張れるものなんだと、改めて教えられた。そして、そんな風にできる人がこんなにもたくさんいるんだということが嬉しかった。
被災者の体験や著者たちが現地で見聞きしたものはやはり壮絶で、いろいろなメディアで語られてきたことばかりだが、何度聞いても涙を誘う。想像でしか寄り添えないが、そんな想像だけでさえ、彼らの状況を思うと胸が締め付けられそうになる。
ただ、本作はそれだけではない。
それを「大変だ」と眺めているだけでなく、一人でも多く一秒でも早く、とにかく「被災者を支援する」という目的のために、行動したその記録だ。
今の「状況」がどうで「目的」は何か、それさえ見失わなければ、いくらでもあらゆる事柄は確実に前に進んでいくことが出来るという、この支援活動の中核となった著者の考え方は、構造構成主義と名付けられた著者の研究テーマなのだそうだが、ボランティア活動のみならず様々な場面で非常に役に立つ。シンプルで誰にでもわかりやすく、たった今からでも実践できそうなのが実にいい。
言われてみれば当たり前のことなのだが、目からうろこの思いだ。
この辛い体験があったから今の自分があると、そこまで来た自分を誇らしく思えるように、ちょっとでも前に進めるように。
人と人のつながり。出会いの必然。
私にできることは何だろう。
本当に、勇気と希望をもらった。
あっという間に読み終えました。必読です。
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組織運営や本当に役立つ支援を必要な時にどのように実施していったかについて詳しく書かれていて、とても参考になった。現場に行って、自分の五感で感じたこと、得た情報を元に状況と目的 から有効性の高い方法でプロジェクトを実施する。自分で確かめた情報から、目的はおのずと導かれる。 ただし、有効な方法を考える出すのは難しい。被災された方々が震災前のように自立して生活を送るための条件を整えること、この目的からぶれることがなかったから、このプロジェクトは行政ができなかったあらゆることを実現できたのだろう。
加えてソーシャルネットワークの力も、改めて実感した。
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P2P(Peer to Peer)という言葉があります。主にIT用語で、PCなどのクライアント端末同士で情報をやり取りするという概念であるが、それを被災地支援などのボランティア活動に活用するとどうなるのでしょうか。
筆者は「構造構成主義」という彼自身専門の知見を活用して、固定的な方法が役に立たないようなまったく未知の状況に対して有効な方法を組み立てていく「ふんばろう東日本支援プロジェクト」という被災地支援ボランティア活動を進めています。
ふんばろう東日本支援プロジェクト
http://fumbaro.org/
西條剛央さんのBlog
http://plaza.rakuten.co.jp/saijotakeo0725/
ほぼ日刊イトイ新聞「西條剛央さんのすんごいアイディア」
http://www.1101.com/funbaro/index.html
たとえば「重機免許取得プロジェクト」は、瓦礫除去やインフラ建設に必要な重機免許を被災者に取ってもらうことで、仕事づくりを進めていこうというものです。まずは民間寄附ベースの働きかけがあったからこそ、その後に厚労省の職業訓練の仕組みに繋がりました。
陸前高田市の自動車学校は、多くの自動車が津波に流され、震災直後には自動車免許を取りにくるような人がいない状況で存亡の危機にありましたが、この動きによって地元の名士としてのボトムアップに協力できるようになりました。
「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える」というような支援の仕方は被災地において重要ですが、同じく過疎や高齢化に悩む中山間地にとってもこのスキームは応用できると感じました。
実際に、家庭や仕事の都合で都市に住んでいるけれども、我々の活動を支援したいと言ってくれる方はたくさんいらっしゃいます。日々現場で汗を流す人間がもっともスゴイという風潮は現場至上主義に陥りがちですが、その活動が長く続くためには後方支援体制を充実させ、資金や物資を意志とともに集める必要があるのです。
ソーシャルメディアがこれだけ発達した社会においては、現場にそこに必要な物資やリソースを定量できる人がいれば、多くのことが自動的に進むようになります。交流が生まれれば、そこに新しい支援事業が立ち上がるのです。
被災地と日常、都市と田舎、、と信念対立を生み出しがちの活動に対して、構造構成主義が非常に役に立つことが分かりました。人を助けるすんごい仕組みは、人を動かす確かな仕組みなのです。
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amazonの欲しいものリストを利用して
被災地に救援物資を届けた、というニュースは見たことがあった。
この本は、演劇集団キャラメルボックスの製作総指揮、加藤さんが
呟いていらっっしゃったので、興味を覚えて手にとって見たのだが
あの仕組みを作ったのがこの先生だとは知らなかった。
一面に広がる瓦礫。
その中で唯一原色で明るい色を放つ「ふんばろう」という黄色い看板。
子供たちが救援物資の中から選んで、喜んで遊び
空に飛んでいくシャボン玉。
どれも、実際に現場に行って現実を見てきた人だからこそ描ける
印象的な光景だと感じた。
被災者でありながら支援者になる人もいる。
人それぞれの資質や生き方、やれることの違い。
大局を見られない人間は、現場を重視し
それ以外のことを軽んじることが多々あると思う。
実際自分も、ボランティアなどの活動をしていて
そのような言動を取る人間に苛々することは
正直言って少なかったのだ。
そんな、わかっている人には当たり前のはずのことを
『現場だけじゃない。後方支援だって大事』
とあっさり、理解して書き記しているところが凄いと思った。
twitterでファンから言われたからと言って
マネージャーを通すなどでなく
直接電話をしてくるGacktさんも、凄い人だと感じた。
Amazonはもっと早くから打診していたのに
行政は動かなかったのだと言う。
結局はこの先生と組むことで活用されたのだから良いのだが、
読んでいるだけで歯痒い。
他にも東大阪が支援を岩手県庁に断られて
折角の物資が大阪市に余っていた儘になっていたなどの話もあった。
現場の行政が仕訳に手が回らないからという理由で
支援を断ってしまうのだ。
筆者は冷静な筆致で、まるでひとつの学問のように
淡々と事実を書き記している印象だが
後半に多少書いてはあるけれど、実際活動していて
本当に腹が立つことなど、きっともっとたくさんあっただろう。
岩手に断られた支援物資について
東大阪の市長と30分あまり携帯で話しただけでまとまり
当日中に配送することができたのだという。
トップ同士だと話が早い、とされているが
決める力(権力としても決断力としても)のある人で話すことが
特にこうした支援のような、速さも求められることについては
本当に重要だと思う。
半年たっても支援物資が19万箱
山積みのままだった県もあると言う。
食料品などは腐ってしまったとニュースでやっていた。
そんなことでは、支援したいと思う人も減ってしまい
誰にとっても良いことなど何一つないのに。
兎角効率が悪い。
国や自治体で集約し、被災地の県→市町村→避難所→避難者
という手順を踏むことが前提になっており、それ以外は断るという結論が先。
理由をつけたりたらい回しにして話が進まない。
筆者がふんばろうの仕組みを被災者に伝えるだけでも
と���診しても、それるすらしてくれなかったのだそうだ。
行政自ら紹介して問題があったときの責任回避の為なのだ。
前列があれば従ったとそのせいにもできるが
それが無いからできない。
行政が何故そうなのか、問題点がわかりやすく整理されていると感じた。
『建設的な提案は創造的ゆえに難易度の高い行為だが、
提案を否定すること自体は、
前述のような紋切り型の台詞を並べるだけで簡単にできることだ』。
だから、ノイジー・マイノリティが生まれ、それで情報操作もされてしまうのかもしれない。
都の保管していた放置自転車を被災地へ、という話も
いくら被災者に渡さないと意味が無いと説いても
自治体までしか送らないと頑なな担当者だったという。
しかし筆者が猪瀬さんに相談したら一発で話がついたのだと。
行政の壁と、決定権のある人同士で話すこと、
すぐにやること、の重要さがこの一件からもわかる。
上から
メールはもう古い
ふんばろうのしくみは横のラインのつながりで
ある意味で直接民主主義に近い
という考え方はなるほどと思った。
『状況が違えば、いままで有効ではなかった
「一人ひとりが声をあげる」という方法が有効になることもある。』。
それが、新しい”民主主義”につながる。
こうした”活動”をするには、本当なら
話して信用出来る人とやれることが一番良いが
全ての場合でそれができるかと言えば難しい。
津波は波は見えず、流れる音と壊れる音、
ゴー パキパキという轟音と砂埃しか見えなかった
という生の声は、読んでいるだけで恐ろしい。
助けてくれという悲鳴が引き波の時に聞こえ
波が押し寄せ、またなくなると声が聞こえなくなる。
なんと恐ろしい現実なのだろうか。
仮設住宅の件も
完全抽選で避難者間に出来ていたコミュニティもばらばらに
別々の仮設住宅へ飛ばされ
当選連絡が来るも、間違いでしたの一言で取り消されることもあったと言う。
所謂”お役所仕事”。
何のために仮設住宅を建てるのか。
被災者の生活支援という本来の目的を見失っているのだ。
人助けに対して失望している人に対して
ニーチェを持ちだして話をするシーンは個人的に非常に興味深かった。
『理想主義から入るとそれが崩れたときに、
その反動で懐疑論やニヒリズムに陥ってしまう』。
成程と思った。
『一人ひとりの力はあまりに小さく無意味なもののように感じてしまいますが、
時間というファクターを入れて考えるとそんなことはない』
『僕らだけですべてを完成させる必要はない。
僕らが少しでも進めておけば、そこを出発点として、
子どもたちが、次の世代がさらに進めてくれる。強い意志は継承される』。
なんと力強く救われる言葉だろうか。
方法ありきではなく、状況と目的を見定めることで方法の有効性が決まる。
筆者の研究分野である学問を利用しての”人助け”。
運動をしようと思うと組織が肥大して、それを維持するために権力が生まれる。
よくあるボラ���ティア団体の陥る問題点だ。
批判や失敗も、5%は大目に見る。
心理学の統計の枠組みでは、5%以下の過誤は確率論的によしとしようという考えがあり
それに従ったのだそうだが
この潔さは素晴らしいと思う。
何をしても、批判してくる人は必ずいるのだ。
正しいことをする為に、状況と目的を見極める。
状況を知る為に現場へ行く。
目的を共用し、活動が目的からブレないようにする。
当たり前のようで中々出来ないことだ。
家電プロジェクトのとき、公平に配布できないとトラブルが起きるかもしれない
だからやめてくれと言われたそうだが
目的は被災者支援であって問題を起こさないことじゃない
と踏み切る英断ぶりが素晴らしい。
『価値とはユーザーが見出すことで、出す側が価値を創造できるわけではない』。
流石MBA、というところだろうか。
実際の経営者でこんなことがわかっている人は実は少ないのではないか。
『僕という飛行石を中心にみんなの気持ちがエネルギーとなり浮かぶラピュタ
力が合わさればとてつもない力を発揮するが、
バルスと言ったり飛行石の力が失われたり、エネルギーが無くなれば崩壊する』
非常におもしろいたとえだと思った。わかりやすいだろう。
多くの人が関われば関わるほど、組織というものは脆さも抱える。
日本地震学会が「地震学の敗北だ」と述べたことや
ヤマトホールディングスのエピソードなど
人に対して失望するだけでなく
まだまだこうした人たちもいるのだという希望も与えてくれる。
仮設住宅をトレーラーハウスにするなど
正直今の行政に任せておいても実現はしないかもしれないが
案としては十分実現可能なプランなども後半に書かれており
その辺りも興味深い点だった。
色々な組織や歴史を振り返ってみても
『個々人レベルでは、誰もがおかしいと思っているのに、
一部の利権などから社会や組織全体は反対方向に進んでしまう』
ことが確かにあると感じる。
幕末にも同じ事が言えるかもしれない。
そして今の日本は、その局面に再び立たされている気がしてならない。
目的を見失わず、状況と手段を整理して
ひとりひとりが動いていく必要がある。
人の限界も可能性も、感じさせてくれた本だった。