シミュレーション(=机上演習)で対米戦争が「敗戦」に終わることがわかっていながら・・
2011/08/16 10:22
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投稿者:サトケン - この投稿者のレビュー一覧を見る
今年(2011年)は、日本が大東亜戦争に突入してから70年目にあたる。70年前の昭和16年(1941年)8月16日、それは奇しくも敗戦からちょうど4年前であったが、じつはシミュレーション(机上演習)によって、敗戦が必至であることが明らかになっていたのだった。
本書は、このシミュレーションが行われた「総力戦研究所」と、そこに集められた若手官僚たちの体験をノンフィクションとして描いた作品である。
英国をモデルにして内閣府直属の機関として1940年(昭和15年)に設立された「総力戦研究所」。省庁事のバラバラな意志決定主体では、第一次大戦以降に主流となった「総力戦」を戦い抜けないという危機感のもとに設立されたのがこの「研究所」だ。
翌年4月に集められたのはキャリア10年程度の軍民の中堅官僚たちと民間人であった。官僚からは、陸軍、海軍、大蔵省、内務省、外務省など、まさに国家を背負っているエリート中のエリート。民間人からは通信社や日本郵船など財閥の中核企業から集められた。同じ釜のメシを食い、同じ授業を受け、同じ体育の授業を受け濃密なコミュニケーションが図られた。派遣元の官庁に戻った際に、連携プレイをとることが期待されていたからだ。
理想主義に走りがちな20歳台の学生でもなく、経験知にみちた40歳台の中年でもない、まさに現役バリバリの年齢の30歳台前半のエリートにとって座学は面白いものではない。このためあらたに導入されたのが、「模擬内閣」による「総力戦シミュレーション」であった。これは参加者たちにとっては面白かっただろう。ある意味ではロールプレイングですらあるからだ。
軍事の戦術研究ではあたりまえの図上演習が、「総力戦」という国策の研究に応用されたのは画期的な試みであったらしい。そしてあらゆる予断を排して、客観的な数字に基づいてシミュレーションを行った結果が、なんと「日本敗戦」だったのだ。
しかしながら、シミュレーション結果は、政策の意志決定に活かされることはなく、「つくられた数字」を根拠にして開戦に踏み切った日本は、シミュレーション結果とほぼ同じ軌跡を描いて最終的に破綻してしまう。 さまざまな証言と資料によって復元されたその内容は直接本文を読んでいただきたいが、このくだりを読んでいくと、まさに何ともいえない気分になる。それが1941年(昭和16年)8月16日のことだったのだ。
本書が単行本として出版されたのは1983年。その当時の日本の統治機構の問題点についてもきちんと言及しており、いま読んでも古さをまったく感じさせない。しかも、昭和16年当時の東條英機首相について、一方的に断罪するような姿勢をいっさい見せない著者の公平な視点にも感服する。
本書の主人公たちと同年齢の30歳台の人間には、とくに読んでじっくり考えてもらいたい作品である。この本を書いたときの著者も36歳だったのだ。かならず問題意識は共有できるはずだろう。
多くの人に読まれるべき本
2017/07/17 18:31
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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
総合戦力研究者など、自分の知らないことがたくさん書いてあり、大変興味深く読ませて頂いた。ぜひ多くの人に読んでいただきたい。
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第二次世界大戦が起こる前、起こったとき、東条英機を含めた日本政府が考えたことを、当時の30代のエリート達を通して描いている歴史物。
何より印象に残っているのは、戦争に負け、裁判にかけられた東条英機が、天皇を助けるために嘘をつき、天皇を助けることができそうだという状況になって詠んだ、
肩軽し これで通すか 閻魔大王
という歌。
彼はもちろん自分が死刑になることはわかっていたが、そんな状況で天皇を助けるために冷静に発言をし、助けることができたとわかった途端、自分の運命に満足する。
当時日本がやったことに間違いは多々あったが、
それでも少しこの本を読んで、日本を誇りに思えた。
この本は、自民党の石破さんが菅首相に詰めいったときに紹介された本でもある。
最初は読みづらいが、途中からのめりこんで読んでしまった。
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日本の敗戦、予測されていた。
回避出来たなら、どれ程良かったか。
合意形成型の日本人の悪いところ、時間掛けても変わらない。
ある意味、ドコモとソフトバンク
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総力戦研究所というものの存在を知らしめるだけでなく、東條英機の置かれた立場、なしたことを客観的に知ることができてよかった。
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三十代の筆者が、三十代の内閣による総力戦シミュレーションの史実を描いている。自分も今、三十代。歴史認識の視点を増やすとともに、意思決定のプロセスにおける情報収集と数字の取扱いに対する気持ちを新たにした。
とくに、戦前のシミュレーションに注目して実際の歴史と比較していることで、戦前、戦後という区切りではなく、登場人物の人生のつながりが描かれている点が興味深い。
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シミュレーションが実際とほぼ変わらない形で推移したというのはすごいな。
でも、そういう情報があってもトップがその情報をそのままの形で受け取れる状態にないと、
どんな情報も無意味になる。バイアスがかかった状態だと、どんなに意味のある情報も価値を失う。
石油の備蓄の試算についての話とか恐ろしいなあ。結論ありきで数字をいじるというのは。今でもありそうなものだけれどもね。
東條自身が支持した開戦論の渦を、自らが火消しに回らなければならない立場になって、
結局それを止めることができずに、自らがその決断をしなければならないという皮肉。
--気になった言葉--
コンピュータが、いかに精巧につくられていても、データをインプットするのは人間である、という警句と同じで数字の客観性というものも、結局は人間の主観から生じたものなのであった。(P190)
国務と統帥に二元化されたわが国の特殊な政治機構は、個人の力では克服できない仕組みになっていたのである(P223)
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決めることと決まることは違う。
とはいえ、まったく恣意性や偏りがない、正確で公正な判断をすることは難しい。
都合よく解釈できるデータを提供すること、都合よく判断させる材料だけを提示すること、そんなことに心当たりがなくもないなぁとか。
シミュレーションは、やるからには本気でやらないとね。
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総力戦研究所での戦争シミュレーションも興味深いが、戦争とは経済活動なのだということを改めて感じた一冊である。また独裁者との印象の強い東条英機首相が、実は日米開戦を避けるために苦悩していたというのも新鮮だった。
自分も会社という組織の一員であり、会社の舵取りを経営者に依存している身だが、この総力戦研究所のような将来分析をするプロジェクトは企業においても役に立つ、というか必須なのではないだろうか。そしてその精度をいかに高め、その結果を如何に組織として活かしていくかが勘所だろう。日本は結果を活かすのに失敗した。大変参考になった。
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石破さん推奨の本とのことなので、図書館で借りて読了。恥ずかしながら内閣総力研究所については「聞いたことある」程度だったので、非常に勉強になった。ただ、内容としては読むべき価値がある本ではあるが、ストーリーの構成が少々いったりきたりで、読みやすい本とは言えない。
巻末特別対談が勝間氏だったのが少し驚きだった(この分野にまで手を広げていたとは・・・)
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知らないことは恐いものですね。昭和16年の4月1日に開設された「総力戦研究所」なるものがあり、そこで官民から集められた若きエリートたちがしがらみもなく冷静に日米開戦についてシミュレーションをおなっていたと言う事実にまず驚かされます。
しかも、そのシミュレーションで出た戦争の経過は、「日米開戦すると、緒戦、奇襲攻撃で処理するが、国力の差から劣勢となり敗戦に至る」というものでした。結局は日本は負ける、したがって戦争は避けなければならないはずだったのが、どうして戦争になったのか。
戦争ありきで積み上げた数字やだれも責任のない決定など、このような出来ごとは今の時代も脈々と生き残っているん感じです。本当に歴史から学ぶということが重要なんだろうな。でも、学校で教える歴史は事実の連続でしかなく、反省という土台が作れていません。しかも、戦争そのものも、悪役を作って自分たちが被害者になる方が、今の立場を守れると言う雰囲気を作ると言うのは、あったんだろうなあと思ったりします。
いまこそ、この本の内容から学ぶことが多い時代ではないでしょうか。
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20110303読了
ハイパー面白かった。開戦は、イデオロギー的独裁的な決断ではなく、多くの人の希望観測的情報の集積で決まった。東条英機が開戦を避けるために登用された、という事実には驚いた。また読む。
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開戦前の夏に総力戦研究所が出した結果は敗戦。しかし戦争に突入して敗れる。この総力戦研究所がもっと前にできていて国内外の政治軍事の研究を行なっていればもう少し何とかなったのではないかと思う。ただこの国に宿る理性の外にある空気という得体の知れ無い何かがあるような気がする。それが今も続いているのが怖い。
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石破茂氏オススメの一冊。
どうやら、第二次世界大戦が始まる前に、日本がどうなるかシュミュレーションしたそうです。
そしたら、ああなってしまったという・・・話らしい。
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昭和16年夏(1941年=ヒットラーがロシアに侵攻した年)に、30代の青年将校が招集されて作れた総力戦研究所は、模擬内閣で日本は太平洋戦争に必敗すると結論を出した。4年後、現実は模擬内閣が判断したシミュレーション結果と重なっていく。なぜ、日本は戦争を止めることができなかったのか?
本書は、その答えと共に、事実・数字の重要性、情報の伝達方法、組織の構造/あり方を明示してくれる。そして、歴史から今の現実を照らして考えると、今までと違った角度で物事を捉えることができるようになる。自分の視野が広がると思う。