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投稿者:じゅんちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
推理小説を久しぶりに読んで満足しました。なかなか、推理があたらない、詳細な時代考証、人間模様、ラブロマンス、ひとつひとつ楽しく読むことができました。
実際にあった名画盗難事件を軸に著者の個性が創る一級の文芸ミステリー
2012/06/04 00:24
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投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「作家はいわゆる純文学で書けないものを推理小説に書くことがある、とだけいっておこう。」
これは大岡昇平氏の言である。『事件』で第31回日本推理作家協会賞を受賞した大岡昇平は古くからの推理小説ファンで、自分でもなんどかこのジャンルにチャレンジしてみたものの及第点がとれなかったのだそうだ。この受賞は意外だったらしのだが、それでも
「やっと一人前になれた形である」
と鼻高々であった。氏、69歳のことである。
高樹のぶ子氏の作品は読んだことがない。芥川賞作家で、現在芥川賞選考委員の最長老66歳、恋愛小説の名手といわれている。恋愛・性愛の純文学系作家がミステリーにチャレンジするというのだ。しかもである、「このミステリーがすごい」の今年度ランク入りを宣言したというではないか。怪奇幻想小説家の皆川博子氏が本格探偵小説『開かせていただき光栄です』をびっくりするぐらいの出来栄えで成功させている。皆川氏は81歳だ。作家は高齢になると推理小説に手を染めたくなるもののようだ。
そんな興味の延長から手に取った作品である。1968年、京都国立近代美術館で実際に起こったロートレックの名画マルセル盗難事件の真相を追う推理小説であるが、ドキュメンタリータッチで描かれたものではない。予想外のスケールに発展する謎解きであり、なによりもミステリアスなムード満点で、主人公の不安心理が映し出す怪しい雰囲気がいかにも恋愛小説のベテランらしい独特の味わいを見せている。
時代は現在である。36歳、独身の新聞記者・千晶は神戸で一人暮らしをしていた父を癌でなくした。冒頭の父を回顧する千晶の複雑な心境が丁寧に描かれ、また意味のある伏線になっている。父も有能な新聞記者であった。だが千晶は日の当たらない職場で鬱々としている。母を全く知らず、転勤の多い父とは距離のある生活だった。同じ職業を選んだものとしての対抗心、男である父と娘の葛藤、エレクトラコンプレックスめいた微妙な女心である。
思い出をたどりながら遺品の整理をしていた千晶は父が病床にまで持ち込んでまで追求をし続けていたマルセル盗難事件の取材ノートを発見する。犯人とおぼしきものから父宛に送られてきたマルセルの絵葉書。
「デュークへ
闘いは終わった。あとわずかで時効成立だ。あなたの負けだ。哀れな吠えることも出来ない。惨めな負け犬。予期しない方法で、わたしは姿を消し、生き返るだろう。
シミひとつないマルセルより」
どうやら父は真犯人の手掛かりをえながら、結局は犯人との闘いに敗れたようだと感じる。一言もこれを語らなかった父が、しかしなぜこの取材記録を千晶のために残したのだろうか?
1968年マルセル盗難事件。1975年、7年後の時効直前にこれが某新聞社に届けられたことで、発見される。犯人の捜査は迷宮入り。1975年、千晶の誕生。そして2011年、千晶は父の亡霊に導かれるように、1968年、1975年の京都の闇に溶け込んでいく。
残された謎を追って訪ねる、フランス・アルビのロートレック美術館(トゥルーズ=ロートレック伯爵家の館を改造したもの)での体験もちょっと幻想的な妖しさがゴシックロマン風で著者の個性が際立っている。
伏線がいきわたっているのであまり解説はできないが、リアルな迫真力で引っ張るものではなく、知らなかった父という人間の人生を発見していくムードで読ませるミステリーである。
千晶の恋愛模様が挟み込まれるが、全体の沈んだ風景にそぐわないどちらかというとコミカルなタッチで、30半ばの独身者男女の恋愛とはこういうものかと思う程度であり、私にとってはむしろないほうがよかった。
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1968年12月といえば 何といっても府中の3億円事件。 個人的には地元だったので、もうその話題ばかりで このマルセル盗難事件が起きたなんて少しも知らなかった。毎日新聞連載中は 1-2回読んでみたことがあったけど 途中だったので良く分からなかった。やはりこの事件が1968年の 同じ窃盗事件で未解決で事項を迎えたという事を知った時に、無性に読みたくなった本。この著者の書物は初めてだったが、すんなりある懐かしさを持って入ることが出来た。
最後までミステリアスで あのダビンチココードを思わせるような係累探しも
興味深い。またロートレック展で マルセルに日本に来てほしいな....
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ミステリーであり恋愛物でもある。新聞記者である千晶が持ち前の探索能力を生かして、父の残したノートをもとに死んだ母の謎に迫る。ありえないようで、あるかもしれない父母の愛の形に納得できるかどうかが、この物語の好き嫌いを分けると思う。
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実際にあった絵画盗難事件をもとにしたミステリー。
高樹のぶ子特有の、どこかフワフワしてとらえどころのない文体が、更なる謎の深みに連れていってくれます。
最後のどんでん返しの応酬には、かなりパニック。あれもこれも繋がっていたなんて…!
かなり分厚い本ですが、東京、京都、パリをまたいだ大がかりな物語に一気に引き込まれました。
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ちょ~っと長すぎるかなぁ。
ミステリの割にハラハラドキドキ感もあまりなく
あまり入り込めなかった。
出だしの実家の整理のところなんかは
いい感じだったんだけど惜しいなぁ。
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新聞記者の娘が父の遺したノートから自分のルーツを辿っていく。
ロートレックのマルセルにまつわる物語。
ミステリー仕立てで謎めいているので私には読みにくかったが、力作であることはまちがいない。
絵画の真贋をめぐる話としては原田マハの『楽園のカンバス』もおもしろかったが、この作品もテーマは同じだ。
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高樹のぶ子さんの作品は初めて。文章は丁寧に書かれているが、読みやすかった。所々、人生についての教訓めいたフレーズも挿入されている。それがストーリーと見事にマッチし、何とも言えぬ絶妙の味を出している。
登場人物の性格が明確でわかりやすい。オリオさんの存在は大きく、主人公の揺れ動く気持ちが、巧みに表現されている。
全体の構想もしっかりしているし、意外な展開を最後まで楽しめた。
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京都とフランスを舞台とする華麗な感じのミステリーだった。
有名絵画の裏にはこんな話もあるかもしれない。
新聞記者の父親の仕事に向き合い、同じ新聞記者の娘が段々ひも解いていく様が面白かった。
ちょっと中途半端な恋愛storyが話の流れを中断する用にも感じた。
母親との再会という最後はちょっと意外な展開だった。
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期待しないで読み始めて、予想外の面白さでした。
昨年の毎日新聞連載小説。実に読み応えのある作品でした。
作者の今までの作品と、少し雰囲気が変わったかも。一種の推理小説の要素もあり、作者お得意の男女の機微もあり、ラストのどんでん返しは驚きでした。もう一つの舞台として登場するパリ、作品のテーマであるロートレックの絵、など、さすがの表現力、描写力。満足。
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去年1年間、朝日新聞で連載されたもの。
1968年(昭和43年)12月、京都国立近代美術館で開催されていた「ロートレック展」に
フランスから借りて展示されていた「マルセル」(時価3500万円相当)が無くなった。
盗難から3日後、額縁だけが発見されたが、「マルセル」は見つからず。
時効成立後の1976年1月、個人から届けられたが、時効のため真相を追究することができず、
貸出し元だったアルビ美術館に無事戻ったが、犯人・その盗んだ目的は解明されぬまま。
この実際に起こった絵画盗難事件をもとに、書かれたミステリー。
新聞記者の父が他界し、遺品の整理をしていて見つけたこの事件の取材ノート。
娘の千晶自身も新聞記者なので、その内容に興味を持ち、父の後を追い始める。
そこで運命的に出会った京都とパリの人たち・恋愛・千晶の出生の秘密・・・
千晶は様々な事実を突きつけられ、混乱しながらも解明しようとする。
ミステリーなので詳しく書けないけど、とっても読み応えがあって、おもしろかった。
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1968年(昭和43年)に、京都国立近代美術館でロートレックの「マルセル」が盗難事件に遭う。数日後、額縁だけが見つかる。時効成立後、「マルセル」は発見されるが、犯人は見つからず事件は迷宮入り。
本作は、この実際に起こった事件をベースに作られた小説。
主人公の千晶が、私と同い年なのに親近感が湧く。
また、額縁が見つかったとされる疎水沿いの小径も、おそらくあそこのことだろうと想像がつく。
そして最後に、千晶とお母さんが背中合わせで対面するオランジュリー美術館。太陽の優しい光が差し込むモネの睡蓮の部屋。私が大好きな美術館の一つ。
ストーリーも確かに面白かったけれど、私は何やら懐かしいものに再会した気分を味わった。
岡崎の辺り、そしてパリにもまた訪れたい。
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作者初のミステリー。テレビで「このミス」をとりたいとおっしゃるほど、作者の思いが入った力作だったと思います。
実際の未解決事件をベースにしたことは読後知りましたが、特に違和感なく話の運びはスムーズでした。主人公の恋愛面は何となくふわふわした感じでしたが、ミステリーとしては最後まで読ませる作品になっていると思います。
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実際にあった絵画盗難事件の知られざる一面、そして真相は・・・という壮大なミステリー。ストーリー展開の早さ、意外さにページを繰る手が止まらなかった。
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絵画盗難事件を追う新聞記者のキャリアウーマンが主人公で舞台が東京、京都、パリに飛んでラブストーリーもあるミステリーなんですが、どうも言葉に引っかかりを感じてなかなか入り込めませんでした。抱きしめられると、マヨネーズのチューブみたいに余計に涙が飛び出す。とか、焼いて剥いたネギみたいに、ぐずぐずになっていく。とか、喉の奥にワカメが引っかかって取れない気分。って表現に違和感を感じてしまいました。「甘苦上海」を読んだ時もそう思ってやめたのかも…。