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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
留学先でできた恋人が日本にやってくる、という森鴎外みたいな事件が物語の背景にあり、そこから夫婦関係や父娘の関係、自殺、大病、病死、恋人との別れなどさまざまな「告別」があり、またそれらを総合した「告別」が描かれる。複数の時間を行ったりきたりしつつ、すこしずつ明らかになる状況に引き込まれた。
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「別レルコトハ何デモナイ。シカシ別レタコトノ記憶ガ甦ルタビニ、別レノ持ツ意味ハ次第ニ大キクナリ、人ガ愛スルノハ遂ニハ別レルタメデアッタコトヲ理解スルノダ。シカシソレヲ知ッタ時ニハスベテガモウ遅スギルノダ。」
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福永武彦はもうありえないくらい頭がいい。人間が生きることへの深い洞察、それを文章として組み立てる文学性、すべてを兼ね備えたわたしが最も愛する小説家。
告別は模索のあとがうかがえる。今までとは少し違った表現方法を用いて、次々と時系列がとんでいき、文学として深く大きくまとまった主題性は感じないけれど、生死についてのできる限りの表現がぎゅっと押し込められた感じ。このひとが問題として捉えていたことは深く深く、作品を越えても共有される。
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敬愛する作家、福永武彦の作品を久しぶりに読んでみました。
福永武彦は、どうしてこんなに愛について、端的に本質をついた、
しかも美しい日本語が書けるのだろう。
随分昔の作品なのに、その文体は私には今読んでもとても瑞々しく思われます。
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大好きな作家のひとりである福永武彦です。この作品はちょうど一年前くらいに読みました。彼の作品の中でも、かなり地味なもののひとつですが、そんなに読む人もいないんじゃないか、と思って選んでみました。福永武彦は、池澤夏樹の父親でもある人ですね。
福永武彦は、音楽をモチーフにした作品をいくつか書いていますが、この作品は、マーラーの「大地の歌」の終楽章をモチーフにしたものです。語り手「私」が友人・上條慎吾の告別式に出るシーンで始まり、「彼」(上條慎吾)の回想と「私」のシーンとを交互に重ねていきます。
福永武彦は、執拗なまでに、孤独と愛と死について書き続けた作家でした。結構複雑な構成をしている作品が多いのですが、この作品は、シンプルな構造になっていて、その分、作者の提示するものが純粋な形で表れています。数々の出来事を境に、徐々に徐々に死んでいく上條と、その上條を共感的に見つめる「私」の感情を、ほの暗い情感にあふれた文章で描いています。マーラーの曲の歌詞にあるように、「生は暗く、死もまた暗い」と。
本文から引用します。
「彼は苦しげに腹をさすり、呻き声を洩らし、そして奥さんを起こそうかどうしようかと考え、遂にはやはり起こさないでおこうと決心して、彼自身の孤独な思考の中へと戻っていくだろう。そして彼が考えることは、それ、——現に私が考えつつあるところのそれ、我々が生きていることへの恐れ、或いは生きていなくなることへの恐れ、それであるに違いないと私は考えていた。」
ちなみに、村上春樹が福永武彦に影響を受けたということはなさそうですが、扱っているテーマは、かなり近い気もします。
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表題作含む中篇2本。
『告別』は、告別式の話から始まり、少しずつ時系列を遡っていくトリッキーな構成で、死んだ友人が抱えていた孤独、愛についてを絡めて踏み込んでいく。作者のこういった先鋭的な物語手法は、今や巷に溢れながらも、非常に有効的で知性を感じる。個人的大傑作『死の島』の習作とも捉えれる本作、ボリュームもライトで是非多くの人に手に取って貰いたい。
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生と死を語るときにもっとも大事なのは、その語り手が何者であるかがはっきりとしていることなのではないかと思う。大切なことほど誰が言っているのかというのは重要視したい。
「告別」においては生と死に関する思考の中心にいる上条慎吾の存在を掴みきれぬまま読み終えた気がする。だからか書かれている言葉と思想に惹かれそうになっても、あと一歩近づけなかった。
小説の構成も独特だ。上条慎吾とその友人の語りが交互になって上条という人間を描くも、時系列がかなり複雑に行き来しているように思えた。
読んでいていちばん感じたのはこの友人がどれだけ上条慎吾の心から遠いかということで、そのこと自体に、人の心には決して近づけず誰しもが孤独を抱えて生きるというメッセージを受け取れはするのだけど、それ以上の意味を本作からは見出せなかった。この友人は作者自身を投影した者か、もしくは上条慎吾のゴーストと仮定して読んでいけば、物語の視え方が変わるだろうか。
作品としては二作品目の「形見分け」を興味深く読んだけれど、「告別」のほうが作者に近づける作品だという気がした。
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上条慎吾、というひとを追悼するために書いたのかな、と思うけれど、(モデルがいるのかどうかはわからないけど)そのわりには上条の魅力が伝わってこない。
何かを創り出したくて、できなくて、教師や評論をやっている自分を恥じている。異国で知り合った女性に惹かれ、でも家庭を捨てることはできず、どちらも傷つける。
外では、人たらしだったっぽい。
それと、終始、上条の妻のことが悪し様に書かれているのがとても気になる…
オ前ガソノ時本当ニ欲シカッタモノハ何ダロウ。 平和ナノカ、眠リナノカ、タダオ前ヒトリノ孤独ナノカ。
自死した娘に対しての、上條の呼びかけが、じわじわくる。結局は「孤独」についてのはなしなのかな。
「形見分け」の方がおもしろかった。
海辺の洋館、記憶喪失の画家。
画家とふたりで閉じこもることを選んだ「さっちゃん」。
ミステリになりそうな予感が好き。