かけがえのない7編
2017/04/11 04:54
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
「キャッシュ」では仮想空間のなかで愛し合う人々が描かれている。ひとりひとりの人間に役割があり、代役などいないことが伝わってくる。
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他の小林泰三の作品を読んだことのある人は違和感を感じるかもしれない。ホラーの要素がまったく無いのである。けれど、この作品は十分に面白いと思う。小林泰三にホラーだけを求めている人はがっかりするのかも知れないけれど、SFとしてはすばらしい作品ばかりだと思う。
『時計の中のレンズ』
場所によって重力が変化し、砂時計にレンズがくっついた内側のような奇妙な世界に住む移住民の移動を描いた作品。
重力の変化や地形の特徴の描写が面白かった。
『独裁者の掟』
二つの超長距離を移動する宇宙船同士の争いを描いた物語。
非常に悲しい運命を自ら背負い、過去の悲劇を思いながら独裁者として敵の宇宙船を乗っ取ろうとする独裁者。
和平を申し込みに来た父と一緒に敵の宇宙船へ乗り込み悲劇に会う少女。
二人の関係が明らかになる瞬間は泣きそうでした。
『天国と地国』
空と地面の重力が反対になった世界での物語り。
解説にかいてあったのだけれど、この世界での空に向かう力は9.65m/(s^2)である。地球の重力が9.8m/(s^2)であるからほぼ同じと見ていい。
このような細かい設定がされているのは小林泰三ならではだろう。
『キャッシュ』
はるかかなたへの有人飛行をする人々のバーチャル世界での話。
超長距離の有人飛行になぜバーチャルが必要なのかもしっかりとした説明がなされていた。
そのシステムの異常によって、バーチャル世界が崩壊を始めており、有人飛行が危機にさらされる。
そんな世界で唯一探偵をしている主人公が騒動に巻き込まれる話。
『母と子を旋る冒険』
抽象的なSFだなと感じた。
登場人物の名前や関係が面白かった。
宇宙を自由に飛びまわれる種族が広大な宇宙を調べて回る中の一片。
『海を見る人』
場所によって時間の進み方が違う世界での少年と少女の物語。
時間の進み方が違うことで、少女に起こった一瞬の不幸を少年が延々と見続ける。
時間の進み方の違いがよく説明されていて、難しい概念なのだろうけれど非常に分かりやすかった。
『門』
「タイムトラベルで過去へ行くことは不可能だ。その証拠に今の我々の周りに未来から来た人が居ないではないか。」といった話がある。
それに対して、この物語を読むことである一つの答えを見出せた。
主人公と大姉、艦長の関係がタイムパラドックスを生じさせないための要として良く描かれていた。
全体に小林泰三としては新しい純粋なSFとしての面白さがあり、グロテスクではなく美しい作品だった印象を受けた。
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あまりにも優れたものに触れたときにも、人は感動して涙を流すんだなぁってこと、この作品集を読んで知りました。
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小林泰三は角川ホラーにも面白いのたくさんあるけど、やっぱりこれがいちばん好き。
ロマンティックなSFです。
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小林ワールドが全開です。
あ、これはとてもいい意味でです(笑)
でも小林ワールドは”好き”か”嫌い”かどちらかだろうと思います。
癖が強いので。
一つ一つのお話が、彼の独特な語り口、の効果もあるのでしょうが、切々と胸に響きます。
小林泰三が恋愛を書くと、どうしてこんなにも論理的に人を思えるんだろうって。
青いまま熟した果実なイメージです。
そしてなにより、物語と物語の間を結ぶ間に入れられた小さな話が、独立したかに見える一つ一つの物語を繋いで大きな輪の中に組み込んでしまう。
その壮大さに脱帽です。
何度も読み返した本です。
大好きです。
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小林泰三さんの作品を読んだのは久しぶりでした。積読本の中からなんとなく取り出してみた。
恐ろしく賢い人が書いているだけあって、SFシーンの描写は凄まじく難解な専門用語が書かれているように見えるのに、何故か理解出来てすらすらと読めるという怪現象が起こる。
表題作は本当に素晴らしかった。とても穏やかな時間をすごせました。
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専門用語がたくさんで物語の設定の理解が難しい。
世界の存在の仕方とか、文章で説明されてるけど
いまいち像が結べない。
しかしあえて注釈をつけたり、
この世界に置き換えたようなものの言い方をせず、
この世界はこういうもの、というスタンスが却ってよかった。
砂時計型のくびれの部分に凸レンズがはまったような歪んだ
円筒形世界、そこに住むぬれもの細工(人間含む動物のことを
指すらしい)、かたもの細工、やわもの細工(この二つは説明一切なし)
とか、
山から浜に降りるにつれ時間の流れがゆっくりに
なり、物質自体も平べったく引き伸ばされる世界、とか、
重力が外から内ではなく、内から外に向かう世界、
ここでは足の下に満天の星空が広がり、人は地表から
ロープでぶら下がり宇宙服を着て生活、
地面の内側には、地面に足をつき、頭を天に向けて
生活できる伝説上の国があると言われている、とか。
そんな世界が7編も!
魔法が使えるとか、そういう違う世界じゃなくて、
世界の構造自体が全く異質、みたいな物語を
書いているのがすごいと思う。
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知り合いが「ハードSF読みたいならこの短編いいよ」と薦めてきた一冊。
様々な舞台や設定を元に生み出された短編集。一つ一つはまったく別物のように見せながら、最終的には一つに収斂していくという、よくあるパターンのひとつです。大好物です。
読み口はあっさりしていますが、分類はかなりのハードSF。実際に各短編に出てくる数値を計算してみると、かなり数式に忠実に世界が構築されていることが分かります。その徹底振りから著者が生粋の変態であることが伺えます。
関数電卓を片手に計算しながら読むと色々わかって面白いと思います。もちろんそこらへんを意識しないでも特に問題なく物語として読んでいけるのが、この本のウリでもあるのでしょうが。そういう意味ではまさしく「一度で二度美味しい」本といえるかもしれません。
個人的に面白かった短編は、「独裁者の掟」と「門」。
どの短編も、広がりすぎず狭まりすぎず、ほどよい後味でした。
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短編集。
「海を見る人」「門」を再読。
いくつもある箱庭的な世界観の中で、やはりこの2作品は素晴らしい。
「海を見る人」は、場所によって時間の流れが異なる世界でのひと組の男女を巡る物語。悲劇的な内容なのだけど、恐ろしいほど綺麗な結末に身震いする。
原因は結果となり、結果は原因となる。
そんな作品「門」は、壮大な世界観の片鱗を示しつつも実はとても純粋なラブストーリー。もしくは宿命の物語。
ハードSFと称されるとおり、その科学的描写の大部分を理解することはできない。でも、奇抜な設定は読者の想像力を刺激するに足るものだし、卓越した結末は読者の心を見事に射止めるものがある。
解りづらいから好みの分かれる作品だけれど、噛み締めるほどにその良さを味わえる作品です。
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ハードSFの短編集。
特殊な重力環境におかれた世界、屈折する時間と光、パラドックス、人工的な世界、破滅後の地球。濃い作品がぎゅっと詰まった一冊でした。
サイエンス・フィクションとしての重厚さもありつつ、恋があり苦悩があり、人間ドラマとしても面白いです。
ただ、視覚描写がぱっと読んですぐに浮かばず、首を捻りながら想像に苦心したような箇所が何回かありまして、そのあたりがもっとすっと自然に伝わってくる描写だったら、さらにもっとSF初心者へのウケも狙えただろうに、ちょっともったいないなあなどと、余計なお世話なことを思いました。
収録されている短編の中では、『天獄と地国』が切なくていちばん好きだったな。
遠い未来。人口が激減して、科学技術や知識も、進んだ部分もある反面、うしなわれた部分も大きい。人類が急激に衰退していく時代、いまの歴史や文明が、もうすっかり失われた世界。
人々の間で、現代とは異質の基盤に拠った理論や常識や、あるいはおとぎ話が、世界がはじめからそんなふうであったかのようにまかり通っているところが、なんていうか、SFの醍醐味だなあという感じがして、すごく好き。
『キャッシュ』は、コールドスリープしながら遠い宇宙を目指す移民団の話で、何百年もコールドスリープしている間に記憶が失われてしまうことを避けるために、全員で同じ仮想現実の中で生活している……という設定。ミステリ風の構成で、面白かったんですけども、なんだか上遠野浩平さんのナイトウォッチシリーズを思い出しました。……っていうかほぼ同じ設定です。
でも、どこかで別の作家さんの、ちょっと似た設定のお話を読んだこともあるので、似ているとかいうまえに、もしかしたらむしろSF界では一種の典型なのかな? シロートなのでよくわかりません(汗)
ともかく面白かった。
ツイッターで読了直後にぶつぶつ感想を呟いていたら、同じ方の『玩具修理者』をすすめていただいたので、先日読んでみたのですが、そちらもなかなか面白かったです。SFホラーでした。わたし、怖いのはじつは苦手なんですが、ややSF>ホラーな感じだったので、それほど怖がらずに楽しく読めました。そちらのレビューはまた後日。
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相当前に表題作と「独裁者の掟」だけ読んでて、今回ちょっと資料として「キャッシュ」を読んだ。前2作は読んでてイメージが湧かなかった部分も多かったけど、これは凄くオーソドックスな設定でSF耐性無くても面白い
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グロ描写控えめなハードSF。表題作と「キャッシュ」の読後感はとても好きだけど、やすみんノリノリすぎてカワイイ的な意味で「母と子と渦を旋る冒険」も相当好き。
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説明から絵を思い浮かべるのはハードルが高い。そこは難解だった。物語というのは物事の経緯、変化、因果関係のこと?で、動きがあれば読める。でも、情景の具体的な説明となるとテキストという表現方法は弱い。物語は時間が横軸になっているから、時間経過のない情景を濃い密度で描写するのは難しい。
とか思った。メモ。
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再読。表題作に惹かれたけど、読んでみたら二番めの「独裁者の掟」がストライクだったという思い出。
相変わらず私の頭では理解が追いつかないレベルのハードSFだけど、それを差し引いても面白い。壮大な世界観を予感させながらばっさり終わらせた「時計の中のレンズ」や「天獄と地国」も好きだし、「キャッシュ」の魔点システムなんか本気でプレイしてみたいし(間違いなく廃人になるけど)、「母と子と渦を巡る冒険」や「海を見る人」も今読んだら新たな感慨があったけど、個人的ベストはやっぱり「独裁者の掟」。
この短編集の中では理解しやすい設定だけど、話の構成が短編としてこの上なくシンプルでベスト。それ故に語ったらネタバレになるのでしゃべれないのが憎い。愛と勇気で世界を救う話も大好きだけど、わかりあえない人間がいる世界を救うにはこれくらいの覚悟が必要なのだとも思う。
緻密な世界観に目が向きがちだけど、よくよく考えてみればどの話も王道なボーイミーツガールの展開になっているのに気づく。ダークな話が多いそうだけど、やっぱり他の著作も読んでみようかなあ。
ちなみに気合いの入った解説やコラムまんがが載ってるので、文庫の方がオススメです。
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本格ハードSF
自分は理系なので苦手感なしによめたが、文系の人は読みにくいのかも。
最後の門が一番おきにいり。
泰三はタイムパラドクス系が最高