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この作品に出てくる人々は、誰もが一人きりで生きている感じがする。でも不思議と、満たされていない感じはしない。
一人ひとりが苦しみながらも、自分の生き方や、他者や遠くの灯りとの距離を意識して、それらに満たされているような温かな雰囲気が漂う。
愛憎渦巻く作品や生き方もいいけれど、こういう心の持ちようのほうが、個人的には好きだし心地よい。
詩情あふれる素敵な作品で、これから、たまに本棚から取り出してお気に入りの台詞やシーンを読み返すような、大切な一冊になりそう。
新潮のほうは読んでいないけれど、この空気感は、新訳のおかげなのかもしれない。昔から読もう読もうとずっと思っていたけれど、今になって読んでよかった。
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「人間の幸福が、自由の中にあるのではなく、責務を引き受けるなかにあるという逆説」(あとがきより。)
どこまでも静かで、
そして厳しい、
夜間郵便飛行の物語。
美しさは、厳しさの先にあるものなのだろうか、と思いました。
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厳しく時には断固たる手段をとるリヴィエールが、内面では常に自問自答しながら己の職務を遂行してゆく姿に、上に立つ者の苦悩と仕事に取り組む本質を見た。彼のやり方には反発もあるだろうが、それでも部下が従っていくのは使命感や厳しさの先の労働の強い喜びを知っているからなんだな。
楽な方へ流れやすい自分の甘さがとても恥ずかしくなる。そんな自分への戒めとして定期的に読み返したい。
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雲海のシーン、北海道でみた夜の雪景色を思い出した。闇にある白の明るさ。
暗闇に目がなれた飛行士に一面の雲海はどれほどの明るさだったのか。
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淡々とした緊張感の美しさ。
その幕切れはあっけない。
空を飛ぶということが、困難で孤独な挑戦だということを
改めて思い知らされます。
ロマンチックで自由で高揚感のある冒険であるとともに、
厳しい自然環境に立ち向かい、常に命がけで操縦桿を握っているのだと。
南アメリカの夜間郵便飛行を襲った嵐の一夜。
暴風雨の中、懸命に飛び続けるファビアンの姿は、
自身もパイロットだったサン=テグジュペリの最期を重ねてしまって
何ともいえない喪失感がありました。
一方、リヴィエールは冷徹な仕事人間でありながら
いつもパイロットの無事を祈り続けていて、仕事に誇りを持っている。
難しいな。
悲しいけど気高い話だと思う。
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図書館で見つけて借りた本。
サン・テグジュペリという名前は知っていたが、読んだのは初めて。
郵便運送用の商用飛行機が、他の輸送手段との競争に勝つために、当時(1930年代?)まだ安全性が確保されていなかった夜間飛行を行っていた。
飛行を管理する、運送会社の社長の心の葛藤と、夜間飛行に挑むパイロットの心理描写が素晴らしい。
さらに、パイロットの視点で書かれた飛行中の描写、嵐が来る様子、嵐の中を飛行する描写も、緻密で惹きこませる。
解説にも書いてあったが、「高い完成度」をそなえた、「ただならぬ設計力」がみてとれる作品である。
嵐の中を飛行する最後の30ページは一気に読ませる。
読み終わった後に、名作に触れた満足感が残った。
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まだまだ夜間に飛行機を飛ばすのは危険が伴う時代で、その中で飛行機を飛ばし続ける社長の苦悩や、命がつきかけて自然と対峙する飛行士の孤独など、手に取るように描かれてます。
厳しいけれども、失敗してもその歩みを止めずに進めることが、勝利につながるのですね。本当に厳しい世界。
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「星の王子様」の著者サン・デグジュペリの短編小説。命を賭して任務を遂行しようとする者の孤高の姿と美しい風景を情景豊かに描く。
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粗筋もなんも知らずに読んだら最終ページで叫んだ。衝撃の結末。本の厚さがまだまだあったのでちょっと楽観視し過ぎてました。(残り1/3が「序文」と解説)
あと一部ジブリだった。あのシーンをジブリ絵以外で想像できない自分が悩ましい…
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名作でした。でも、一風変わった小説ですね。
でも、名作でした。感動してしまいました。
1931年に出版されたフランスの小説です。
「星の王子様」で有名な、サン=テグジュベリさんの小説。出版時31歳。
この人は、フランスのお金持ちの貴族(元貴族なのかな?)の家柄の生まれだったんですけど、
いろいろあって、とにかく飛行機乗りであることに情熱を燃やして、
空軍で従軍し、
最後は第2次大戦中の1944年に空軍として偵察飛行中に地中海に落っこって死んじゃう、という人です。44歳でした。
何度も墜落とか事故とかで、死にかけて怪我をしても、なおかつ、飛びたかった人なんですね。
そんな、世界中を飛びながら小説家でもあった人が、書いた小説です。
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舞台は南米です。
郵便を飛行機で配達する、という事業が始まった頃です。
そういう事業をやっている会社が主な舞台です。
そこでは、飛行機乗りたちが、毎日、危険を伴う飛行をしています。
夜間飛行という行為が始まった頃です。
そして、ある信念を持って、その事業を推し進めている社長さんがいます。
毎日、飛行が無事に終わるたびに、ほっとしています。
とある飛行機が、夜間飛行に出ます。
予想を超える悪天候に遭遇。
結局、行方知れず・・・つまり墜落、死亡してしまいます。
社長さんは良心の呵責もありますが、やはり信念をもって夜間飛行事業を進めます。
おしまい。
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それだけのお話なんです。
これがすごい。
何がすごいかっていうと、なんといっても、文章です。
まず、飛行士たちの感じる、飛行中の世界観。
これがまた、なんとも凄まじく美しく、魅力的で、かつ死の匂いが漂う危険が、ざらざらとした手触りで伝わってきます。
そこには、自然の偉大さがあり、そこにひれ伏しながら挑みたいニンゲンの業みたいなものが濃ゆく、たちこめています。
こればっかりは、そういう飛行をしたテグジュベリさんだから書けたんですねえ。
そして、かなり戦略的に、最小限のざっくりした文章で綴られる、社長さんの人間的魅力。
雑に言えば人情も義理もわきまえているけど、クールに厳しく生きている。
その信念はなぜか。
仕事というもの、事業というもの、ニンゲンの進んでいくという行為、それが最後にはいちばん尊いのだ、という。
それは、決してみんなが納得する信念じゃないと思うんですね。
それに激しく摩擦して逆走する奔流のように、遭難した飛行士、そして社長を訪れるその妻。
社長は、反論はできない。そういう、人の命、人の幸せという温もりに対して、ただ頭を垂れるのみです。
でも、事業はやめない。
なんていうのか・・・老人と海、の老人みたいな。白鯨の船長みたいな。
賛同されなくてもいいけど、この病んだ無口で厳格で愛されていない社長には、すごい魅力が小説上描かれています。
この人物は、テグジュベリさんが努めた航空会社の上司さんがモデルのようです。
テグジュベリさんは、その上司さんが大���きだったようです。
そういう魅力なんです。とにかく文章なんですね。
うーん。なんて言っていいか。娯楽的な物語作りがシステムとして作られている、ハリウッド映画と比較して、フランス映画のような佇まい。
どぎつい娯楽的要素があるわけじゃないけど、とにかく品のある、洒落た雰囲気。色気、知性、描写なんですね。
でも、じゃあ感性だけでダラダラ書かれたものじゃなくて。
ほぼ二日弱くらいの時間推移の中で、ほとんど飛行機内とブエノスアイレスの社屋内だけ。
研ぎ澄まされて無駄のない描写と、さりげなく、でもえぐり込むような心理描写。
映画で敢えて例えればブレッソンの香り・・・そういうシャープさなんだけど、ルノワールのような大らかな人間らしさの物語でもあります。
この場合の人間らしさっていうのは、「愛を信じる」「最後は良い人」とか、そういう内容ではなくて。
人間の弱さとか恐れとか震えとか、執着とか焦りとかこだわりとか。そして、多分、ニンゲンしか持てない、ある種の、見えない頂きに向かって登りつめていきたい意思みたいなもの。
それが溢れんばかりにゆったりと渦巻いている小説でした。
とても素敵で、そして適切に短い。訳文もすっと読めて。さすが光文社古典新訳シリーズ。
サン=テグジュベリさん、他の小説も読んでみたいな、と。
脱帽、瞠目。
読書の愉しみに満ちた時間でした。
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たまたま読書会の課題だったのだが、
いまこの年齢で、こういう仕事をしていて、この本と出合えて良かったと思う。
『序』の中に、
「ここで描かれたのは、人間の幸福が、自由の中にあるのではなく、
責務を引き受ける中にあるという逆説である。」
とあるが、僕が感じ入ったのはまさにこの点だ。
ちょっと忘れそうになっていたことのように思う。
二木麻里さんの訳のほうが読みやすかったが、
堀口大学訳のほうが文学の香りがした。
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【本の内容】
南米大陸で、夜間郵便飛行という新事業に挑む男たちがいた。
ある夜、パタゴニア便を激しい嵐が襲う。
生死の狭間で懸命に飛び続けるパイロットと、地上で司令に当たる冷徹にして不屈の社長。
命を賭して任務を遂行しようとする者の孤高の姿と美しい風景を詩情豊かに描く。
[ 目次 ]
[ POP ]
新生活の期待と不安は、夜明けというよりは夜中に近い。
表題作に描かれる夜間飛行士たちにとって、街と星の明かりは単なる目印だけではなく、希望そのものだ。
だけど、嵐の夜だったらどうだろう。
今のように通信機器が発達しているわけではない時代には、嵐の中の飛行は恐怖でしかない。
また、地上から見守る者たちも戦っている。
気休めは言えず、飛行士たちが恐怖の幻想に飲み込まれないように厳しく当たることもある。
理解されることはなく、それに納得しなければならない孤独。
それでも飛ぼうとする男たちと、飛ばす男たちの姿は、飛ぶことに恐怖をあまり感じなくなった現代においても勇気を与えてくれる。
朝、目が覚めて、今日も頑張ろうという気持ちになれる一冊。
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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肌合いあわなかった。夜間飛行をする話かと思いきや、むしろその業界を開拓するために大きな苦痛をも甘受せねばならない社長リヴィエールの営業日誌というか、まあ企業小説のようなものなのか。リヴィエールの鋼のような意志と部下たちに対する圧倒的な厳しさ、そして優しさには父性が感じられて好きだし、その信条も好感もてる。
「ひとは追い込まなかればだめだ」
「苦しみと喜びが共に待つ、強い生にむけて追い込んでやらなければだめだ。それ以外、生きるに値する人生はない」
けどなあ……飛行のほうをもっと……
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救いのない絶望の中の神秘的な空に魅せられた。飛行機に伴う魅力と恐ろしさを感じたファビアンの一件。また、同時に描き出されるリヴェエールという厳格な仕事人の"冷たさ"と"高潔さ"にもにた態度は圧巻。
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「自分のしていることが善いことかどうか、わたしは知らない。人生や正義やかなしみの、その正確な価値もわかりはしない。
ひとりの人間の喜びにどのような価値があるのかも、知りはしないのだ。わななく手や、憐れみや、優しさの価値も……」
「生はあまりに矛盾に満ちている。およそ生きることに関するかぎり、なんとか折り合いをつけて努力していくことしかできないのだ……。命はそれでもつづいていく、それでも創られていく。滅びていく体とひきかえに……」(p.65)
リヴィエールのまえに立ちはだかっていrのはファビアンの妻ではなかった。生きることのもうひとつの意味だった。リヴィエールはただ耳をかたむけ、相手の気持ちに寄り添うことしかできなかった。その弱々しい声、これほどに悲痛な歌、だがそれは敵なのだった。仕事上の活動も、個人としての幸福も、すこしずつ分かちあえるようなものではない。つまり両者は対立することになる。この女性もひとつの絶対的世界の名において、みずからの責務と権利のもとに語っていた。(中略)彼女は自己の権利を要求していた。そしてそれは正当だった。リヴィエールもまた正当ではあったのだ。それでもこの女性のもつ真実にはとうてい太刀打ちできなかった。家庭のつつましい灯に対して、自分の側の真実はおよそ言葉にならない非人間的なものであると思い知らされていた。(p.97)