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純文学作家は死ぬまで「未完成」です
2011/08/12 18:13
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:analog純 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この『日蝕』で芥川賞を受賞した作家ですね。つい最近と思っていたら、もう10年以上も前になるんですね。『日蝕』が芥川賞を取った時のことを少し覚えていますが、三島由紀夫の再来と騒がれていたように思います。
まずその『日蝕』を読みました。この筆者の作品としては初めて読むものでした。わずか一作を読んだだけですから、充分なことは分からないのですが、分からないなりに感じたのは、失礼ながら「三島由紀夫の再来は、ちょっと三島由紀夫に気の毒じゃないかしら」というものでした。
うーん、私は何か読み違えているんでしょうかねー。
三島由紀夫に比べたら、少々小振りの「張り子の虎」と思えてしまうんですけれどねー。少し前にマイブームだった、エンタテインメント系の「ファンタジーノベル大賞」の小説群の方がいいようにも思えるかなー。(ちょっと言い過ぎかなー。)
で、続いて『一月物語』を読みました。『日蝕』の次に書かれた小説だそうで、なるほど「姉妹編」という感じの小説ですね。でもこの小説についても、なんといいますか、「本物の小説のうねり」の様な物はあまり感じられませんでした。泉鏡花のパロディ、なのかな。
で、一読者として、私も色々考えたんですけれどね。一つ思った事は、「文体の発見」という事であります。この作品は、例えばこんな文体なんですね。明治三十年、主人公である二十四歳の青年詩人・真拆が奈良の山中を彷徨っている場面です。
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地に積もる幾年を経たとも知れぬ腐葉土が、甘酸の微妙に溶け合う湿った臭気と、虚しく逆らおうとする弾力とを伴って、踏み締める度に、死肉を下に敷くような、不快な錯覚を催させる。うねるような起伏に足を取られて、不如意な力が加えられる時には、殊に、朽ち遣らぬ条枝が、蹂躙される骨子のような音を真拆の蹠に響かせる。
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これはやはり、筆者にかなりの力がある文章であることは確かですよね。この文は『一月物語』からの引用ですが、デビュー作『日蝕』も同種の文体です。
そもそもどんな文体でデビュー作を書くかは、案外に、さほど難しい話ではないのかも知れません。そんなに選択肢がないだろうこともありますが、迷ったところで、その時の筆者自身の「身の丈」以上のものは、結局選べないからであります。とすると、文体を選んだのか、文体に選ばれたのか、なかなか微妙なところがありますね。
そして、この筆者はこの文体でデビューしました。ただ、この文体を選んだ(文体に選ばれた)ことについては、きっと思いの外に筆者の今後の方向性に強く絡んできます。特に、際だった特徴を持つ文体などでデビューしてしまうとそうです。
(宇野浩二の小説を読んだ時に、私はそんな事を考えたんですが、あの小説家も極めて特徴的な文体でデビューし、そして彼はそのこと自体と「格闘」しましたね。)
で、そんな作家の後の経過ですが、その文体では書けないものがある事に、作家は次に気づきますね、必ず。そこで、フォームの改造をします。そしてその時期は、いずれそう遠くありません。
しかしその前に、もう一度だけ、デビュー時の文体の力を計っておきたい。それが、この作品ですね。
例えば、村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』の前の『海の向こうで戦争が始まる』。
例えば、村上春樹の『羊をめぐる冒険』の前の『1973年のピンボール』。
いずれも、そんな文脈の中ででも読む事のできる作品だったと思います。
さて、この筆者は、少し前に立て続けに話題作を発表なさっていたと思います。一つはインターネットをテーマにした作品で、もう一つは、私は寡聞にして内容すら知らないのですが、「ドゥマゴ文学賞」を受賞なさった作品がありましたね。
存命中の純文学作家の面白いのは、「力作」から次の「力作」まで、たとえかなり長い雌伏期間を経ていても十分許されるところではないかと、私は思っています。
現存純文学作家は死ぬまで「未完成」です。
すべての現存純文学作家同様、いよいよ平野氏の文学の開花期の始まりなのか、それとも文体も含めてまだまだ迷走・雌伏期間なのか、全く予断を許さないのがとても面白いところですよね。
日蝕
2022/07/25 14:50
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:gaco - この投稿者のレビュー一覧を見る
内容が難しそうだったため、発売されてからかなり年月がたってしまいましたがようやく購入し、読了しました。
2話掲載されていますが、どちらとも独特な世界観がありました。
人間の心理を哲学的に描写した格調高い文学作品。
2019/12/28 10:11
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
人間の心理を哲学的に描写した格調高い文学作品。よって、即物的思考優先の私には不得意分野であり、判るようで判らないという消化不良の故、評価は低くならざるを得ないのが残念です。『一月物語』の方が面白く、4点でも良いくらいでしたが・・・・・。
『日蝕』; 日本語で言うと古典語ともいうべき文体で綴られた文章は、あたかも中世ヨーロッパの古文を読む雰囲気を醸し出しており、如何にも格調高い古典文学作品の風格を感じさせる。しかし、内容的には哲学的過ぎ、私の嫌いなキリスト様思想が強すぎ、結局何を言いたかったのか判らずじまいでした。そういう意味で、読んでいても面白くなかったのが最大の欠点。何か酷く時間を損した気分。また、200ページは短編というには長すぎますね(面白くないから尚更長く感じたのでしょうね)。これが「芥川賞」とは信じられないです。 3点
『一月物語』; 幻想的・幻惑的作品。古文調と現代文調を混在させることで、幻と現とが徐々に混じりあい、最終的には幻想世界に誘われていく。また、主人公:真拆の思考を哲学的に描写していくことで、個人の中での幻と現との融合が伝えられる。正に格調高い文学作品と言いたいが、即物的な私にとってはやはり狐につままれた感を免れない。読み始めて直ぐに作品の性格が判ったので、騙された感は無いがやはり私好みとは言えない。という理由で、結構楽しんだけど、やはり評価としては低くならざるを得ないです。残念。 3点