我々の映し身としての彼女たち
2016/05/29 09:52
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
アフガニスタンの現代を生きた二人の少女。不義の子として生まれ、戒律や因襲の中で人間扱いをされずに育った少女マリアムは、15歳の時に初老の男に嫁がされる。やがてソ連の侵入、シャーが退いて親ソ政権樹立、ソ連撤退に伴い軍閥による内戦で、かつて詩人に輝く千の太陽と謳われたカブールは破壊と荒廃に晒される。爆撃で家族を失った少女ライラはマリアムの夫の第二夫人となる。やがて夫も戦火で財産を失い、生活は苦しくなっていく。そしてタリバンの支配の時代が始まり、また終わる。
過酷で混乱した時代であったというだけでなく、従来の平和な時代から女性に対するの人権が無視されている社会が、我々の社会と並行して存在していることへの無常感がある。彼女たちにとって、結婚によって一人で外出することは許されなくなり、人前では顔も全身も覆わなくてはならない不自由さは、反面で妻として尊重されているしるしでもあった。共産主義者は女性にも教育の場を与えた。戦闘さえ無くなれば他のことは我慢ができる。そういった反面の相はまず一つの見方だが、また彼女たちを抑圧してきたものは、現代に至る以前の先進国社会でも存在して来たものでもある。数世紀をかけて解放されて来た女性の歴史を、彼女たちは2、30年ほどに時間に圧縮した早回しに、一つの生涯の中で経験しているということになる。アフガニスタンを描いた作品であると同時に、我々の文明の歴史を描いた物語でもあるのだ。
そんな環境の激変にもその都度順応していける彼女たち、実際にたしかにそうだったのだろう。差別、無関心、戦争、あるいは密出国の失敗などで、幾度もの危機に会って、それらをしたたかに切り抜ける。一方で男達は、イデオロギーや信仰、愛国心、憎悪、誇りといったものを守ろうとして、武器を取るまでいかなくとも精神的には戦いに挑み、その挙句に死んで行くように見えてしまう。むしろそれは敵というよりは、時代の流れに立ち向かっているだけではないだろうか。
そうして男達が得体のしれない何ものかのために、逆らい得ない大きな動きの礎となっている間に、女達は生活のため、なにより子供のためにひたすら生き延びる。たぶんそれが世界共通の歴史の実態であるのだと、縮図でもあり、また今この同時代に起きてもいることの一つの典型として、この国の激動が教えてくれているのではなかろうか。
戦火と暴力の中で生きる女性たち
2015/05/06 13:44
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投稿者:弥生丸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み進めるのがつらく、胸を揺さぶられました。共産党政権、ソ連軍の撤退、内戦、タリバン支配。激動のアフガニスタンで人生を翻弄される人々の物語です。
富豪の庶子として生まれ、望まぬ結婚を強いられるマリアム。教養高い両親の元に生まれ、戦争の影に怯えながらも平穏に暮らしていたが、両親の死により人生が一変してしまうライラ。二人の女主人公を軸に、物語は展開していきます。
小説冒頭の献辞「アフガニスタンのすべての女性に捧げる」が、読後、心に沁み通ります。平和の尊さと幸福の意味を訴える小説です。
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アフガニスタン人筆者によるアフガニスタン女性二人の話。因習、歴史、文化、戦争、政治、色んなことが絡み合って動いていくアフガニスタンで、「実際に」生活を送る人の様子にすごく臨場感があった。少しアフガニスタンが自分の中で近くなったと思った小説だった。こんな人たちが暮らしてて、その人たちがこんな風に苦しんで、こんな風に翻弄されているんだ、と。
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良かった。かの地で起きた歴史的なさまざまなことについて「実際の」「客観的な」事実について私が知ることは、永久にないのだろうけれど、この物語の中に生きた二人の少女について、私が知り、心を動かされたのは事実なんだと思う。
マリアムとライラが、この表紙のように並ぶことはないけれど、確かにこれは、「二人の少女」の物語なんだと、後半部分を読みながら感じた。
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読んで良かった。
約半世紀に渡って、アフガニスタンで女性が置かれた過酷な状況について、どんなノンフィクションよりも雄弁に伝えているのではないかと想像する。同じ名前の女性が同じ場所に実際にいたわけではないはずだが、マリアムとライラに自分の人生を重ね合わせられるアフガニスタン女性がたくさんいるのだろう。
とにかく重い。
マリアムとライラに、そして彼女たちの子どもたちにも共通しているのは、幼い頃からそれが当たり前の状況の中で成長しているということ。まだ判断力のない幼い子どもたちにそのような思いをさせないために、大人はもっと思慮深くなければならないと思った。
重い話だがラストはとても感動的な余韻があった。
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今話題のアフガニスタンを舞台とした小説。
厳格なイスラム社会に生きる女性にとって、夫の存在は物凄く重要であり、小説のようなDV、モラハラの夫に当たってしまうと、ツラい人生を送ることになるということがよく分かった。
しかも多くの女性は自分で夫を選ぶことはできないし、結婚してしまうともう逃げられない。
ツラいシーンが多かったもののストーリーとしても展開が多く、訳が良いのか読みやすかった。
物語を通して共産主義政権からタリバン政権に至るまでのアフガニスタンの歴史や文化を学ぶことができる。
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昨今の情勢を受け、アフガニスタンに生きる人たちのことを知りたくなった。爆撃、難民、タリバン。。ニュースで聞くだけではぼんやりしてしまう、想像の範疇外のアフガニスタンのことを知るためにまず、あえて私にとって身近な小説という媒体を選んでみた。
この小説は、国連で難民支援のために働いていた著者によるもの。この小説には、政治情勢の変遷とともに主人公たちを取り巻く環境の変化、そしてその影響をどのように受けているのかが、ありありと描かれていた。
当たり前のように描かれる衝撃的な日常風景に、展開される主人公達の処遇。まずこの国のもともとの姿にもものすごく本当にびっくりした。でもその全ての驚きの根底には、日本を含む地球上のみなが心の奥底に持つ人間性そのものがあるということも強く感じた。
そして戦況の悪化、国内の混乱。。息をするのも忘れるほどにその世界を疑似体験した。
民間人の殺害、街の爆撃、流れ弾、処刑。
ニュースなどで聞くだけだとぼんやりもやがかっていた現実は、想像よりずっと突然起こることであり、あまりに無惨で、悲しすぎるものだった。
アフガニスタンの悪夢のような混沌の中でも、人は何かを食べて寝て子供を育て、各自の人生を、生きていかなくてはいけない。
しかし、女性にとっては、あまりに過酷で理不尽な環境だ。食べ物がないのに仕事もできない、ひとりでの外出すら許されない。
でもこの小説を通して、私が何よりも恐ろしかったのは戦争ではなかった。きっといつの時代にもどこにでもいる、ひとりの男性の人間性だった。
この小説は、過酷な運命に翻弄され、自らの運命を甘んじて耐え忍ぶ(きっとこの世界中にたくさん実在する)女性の生涯を、美化することなく描ききった。
結婚生活、妊娠出産、育児。
どれも真っ直ぐではないけれど、私にも通じるテーマばかりだった。
人の心は同じなのだと思った。
風景や心情の描写がとても美しかった。
私は主人公マリアムのことを生涯忘れない。
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人を想う強さ、愛する強さに心打たれました。アフガニスタンでタリバンが政権を奪取した2021年。改めて注目されてほしい作品だと思います。
信仰や文化のため男尊女卑的な考えの残るアフガニスタンを舞台に、二人の女性が歴史や文化、そして暴力に虐げられながらもわずかな希望を信じ、強く生きようとする姿を描いた作品。
お金持ちの主人とお手伝いの間の子として生まれ、現在は母と二人で粗末な小屋で暮らすマリアムが、何回りも年の離れた男と結婚させられ、さらなる悲劇に見舞われるまでを描いた第1部。
女性の教育に対しても理解を示す父と、戦線に旅立った兄たちを想う母を持つライラ。兄の方ばかりを気にかける母に複雑な思いを抱きつつも、初恋や父の教えに胸をときめかせるライラにアフガニスタンの内戦の影が忍び寄り……
そして第3部でこの二人の女性の人生が交わります。その理由というのも、男性は女性の所有物という男尊女卑的な考えの元で、女性の人格や自由なんてものは一顧だにされない。マリアムにも邪険にされ、孤独を極めるライラに兆した変化。それはマリアムの心情も変え、やがて二人は本当の母娘のような強い絆で結ばれていく。
この二人の関係性をめぐる変化、ライラの希望を持つ姿、マリアムの心情の変化、絶望の中でも女性の母性というか、優しさ、慈しみの心というものが描かれているようで本当に心打たれました。でも悲しいもので、この先このままではいかないだろうな、という思いもどこかにあって、幸せと不穏さの中で揺れているまま、ずっと読み進めている感覚はずっとあったかもしれない。
二人に訪れる希望、そして絶望。アフガニスタン、とりわけ女性をめぐる環境の劣悪さというものをまざまざと感じさせられ、そして迎える結末は……
ものすごく哀しい話ではあるけれど、それでもここまで女性の強さ、とりわけ人を想い、愛する強さを感じた小説はあまり記憶にありません。クライマックスは目頭が熱くなりました。でもそれは単なる感動という言葉では言い表せない。もっと神聖で心に染み入る何かが、胸の中にじわじわ広がっていったように思います。
作品の歴史は9.11後のテロとの戦いでタリバン政権が崩壊したところで終わります。しかし現実はフィクションのようにはいかない。2021年アメリカ軍撤退後、アフガニスタンは瞬く間にタリバン政権が復活しました。タリバンは女性の教育の機会の保証、また前政権やアメリカ軍協力者に対しての報復の禁止をうたっているものの、報道を見る限りではそれも信じられる状況ではなく……
アフガニスタンだけでなく全世界で、作中の二人の女性のように虐げられ続けている女性たちがいるかと思うと、本当に胸が痛くなります。自分にできることは想像し、祈ることしかできません。この作品のラストのような世界が訪れることを改めて、切に思いました。
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本当によくできていて、大いに泣いたし、未来が少し明るくて慰められた。
アフガニスタンの70年代から今を生きる2人の女性の物語。
アフガニスタンに共産主義者居たんだという驚きや、どのように情勢が変わっていったかよく分かるし、その中で翻弄されていく女性達の痛みや苦しみがひしひし伝わる。
遠い国の話だが、そんな彼女達の感情に共感できる事も多く、人間の普遍的なものを辿っていく小説でもある。
昔は、各国の小説はそれぞれの文化や歴史の差異を読んでいたが、今は見た目・境遇がちがっても本質的には同じだ、という同質性を読む時代、らしい。それだけ多様化してグローバルな時代になったということなんだろう。
所々に出てくるアフガニスタンの山岳地帯や料理の美しさ。今はなきバーミヤンの上に登って人や家畜が暮らす様子を眺める静かなひと時。
沢山の苦しみと確かな愛。
今の情勢ではとても足を踏み入れることはできないけど、いつか美しいアフガニスタンを見てみたい。
カーレド・ホッセイニは自らも医者であるからか、タリバンに支配されてる中でも必死に女性を助ける医師や、生まれてくる子供に罪は無いことを繰り返し書くなど、命の尊さと平等さ、人道的な事を入れていて、それが悲惨な状況を少し和らげてくれている。
とっても良い小説を読んだ。他の作品も読みたい。
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アフガニスタンの歴史を年表で見ながら読みたい本。マリアムの運命には涙が出てきた。同じ作家のカイトランナーも是非読みたい。