「家族」を描いてきた鷺沢萠らしい作品集。彼女の自死が惜しまれる
2005/08/02 06:46
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
鷺沢萠の三作品をおさめた短編集。
表題作「さいはての二人」:美亜の父は米軍人、母親は日本人。その美亜は父親ほども年の違う朴さんと飲み屋のバイトで知り合う。朴さんは在日朝鮮人。そんな二人の短く切ない恋の行方は…。
「約束」:東京の美術専門学校に通う行雄。アパートの隣室の幼子サキと知り合って彼女の絵を描くのがいつの間にか日課となる。サキが行雄に対してお願いしたひとつの約束があった…。
「遮断機」:OL笑子は東京・下北沢にある小田急線の踏み切りの前で、幼い頃から自分を可愛がってくれたおじいと久しぶりの再会を果たす。笑子はその日、死んでしまいたいと思うほどの出来事に遭っていた…。
鷺沢萠はエッセイ集「私の話」(河出書房新社)の中で「一般的な意味で使われる『家族』を作るのには失敗し」たと記しています。それでも彼女は、父がいて母がいて、そして子供がいて、という『家族』とは異なる、赤の他人同士の深い絆を描くことにこだわって小説を書いてきた作家です。家族とは「血のつながり」ではなくて、疲れたときに「帰る場所」。そのことを様々な物語で読者に提示してきました。
本書収録の三編はどれもまさに鷺沢萠らしい作風です。世間一般の家族以上に、互いを慈しみ、信頼し、手を携えていく他人たち。ことに「遮断機」は幻想的な展開を通して、親兄弟以上の『家族』の存在を静かに語りかけてきます。
「生きてりゃさあ、誰にだって、そんな日の一日や二日、あるもんさあ」(164頁)と語りかけるおじいの言葉が胸に響きます。擬似家族ともいえる人々との温もりの間に流れる時間が、いつしか辛い日々を笑い話に変えてくれる。人生とはそんな粋なものです。
本書の中で「人間は馬鹿な上に、毎日生きていかなければならない」(87頁)と綴る鷺沢が、その言葉を実行しなかったのは返す返す残念でなりません。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:岩澤ちこり - この投稿者のレビュー一覧を見る
表題の中篇、他二編(「約束」「遮断機」)の短編が収められた作品集です。
普通の人々の普通の生活の中にある迷いや陰を上手く描き出した作風にとても好感がもてます。
本書の裏書の内容紹介では「著書最後の恋愛小説集」を銘打っていますが、個人的には恋愛小説集という印象は受けませんでした。
三篇を通して描かれるテーマは生と死、家族と血の意味。
そして、自己同一性の確認です。
登場人物たちは皆どこかに心に痣を抱えた人ばかりです。
痣はもしかすると一生消えることはないかもしれません。
それでも、彼らは腐ることなく自らの運命を受け入れ、強く、しなやかに作品の中で呼吸しています。
作中描かれる風景はどこか懐かしさを感じさせ、トーンの暗いの作品集でありながら、その読後感はとても暖かなものです。
個人的に短編「遮断機」は派手さはありませんが、素晴らしい作品だと思います。
どうしようもない日々疲れてしまった夜に読みたい一冊です。
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どれも美しい話。それだけに終わりかたがひっかかる、とくに表題作は。途中までは素晴らしいのに残念。美しいままで終わってほしかったです。
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どこか尋常じゃない人じゃないと、こんな作品はかけないと思う。若いのにね。
生きてたらお話してみたかった。
私は、何をやってもソコソコだから笑
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鷺沢萌さんの本を読んだのはこの文庫が初めてです。
素敵な名前だなって前から気になっていたのですけどなかなか本まではたどりつかなくて・・・そんな時訃報をきいてビックリ!!
ほんの少しの空き時間に小さな書店で見つけました。
どんな人かどんな文章を書く人かも知らずに読んだのですが文章に引き込まれました。
誰かと繋がりたいという人としての基本的な欲求。普通は家族で得られるその欲求が家族で得られなかった人が無償の愛をもとめてる。
恋愛の愛情ではなくもっと基本的な無償の愛を求めてる美亜がたどりついた究極の愛が朴さんだったんだろうな。
鷺沢さんはどんな愛を求めてどんな愛を与えようとしていたかを考えてしまいました。
切なくなる三篇でした。
ブックカバーの裏に『恋愛小説集』とありましたが恋愛小説ではなく『愛情小説』といったらいいのか・・・本当の愛情、無垢の愛、無償の愛を書いてる小説だと思いました。
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鷺沢 萠が最期に書いた恋愛小説。
アメリカ人とのハーフである主人公の美亜は、ホステスとしてのアルバイト先で韓国人とのハーフである朴さんと出会う。
「この人は、あたしだ…。」
との不思議な直観に導かれるように朴さんに惹かれていく美亜。
お互いの生い立ちを知るにつれ、二人の距離は次第に縮まっていく。信じる絆を何一つ持てない、さいはての二人が辿り着いた終着点とは…。
鷺沢さんが自殺したときの衝撃は今でも忘れられませんが、この作品を読了したとき、
「あ、鷺沢文学の完成形がここにあるな」
と感じました。集大成、という言葉がしっくりくる秀作だと思います。
不謹慎かもしれないけど、
「やることやってから逝ったんだな、この人」
とさえ感じました。
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鷺沢 萠という作家の本を始めて読んだ。
とても面白かった。
新しい出会いだと思ったんだけど、この方既に亡くなっているらしい。
私と殆ど歳が変わらないのに。
残念だな。
解説を読んだら、初期の頃の作品は少しカラーが違うらしいという事が書いてあったので、比較的最近の本を2冊手にしました。
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タイトル作も印象的ですが、やはりなんといっても"遮断機"。
初めて読んだとき、涙がぼろぼろとこぼれてきました。
鷺沢さんの追い求めた「家族の温かさ」ってこんな感じなのかなぁ、
と読者に思わせるような作品です。
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表題作他、「約束」と「遮断機」の二編。
表題作は、私の好きな感じの淡々とした恋愛小説。
他二編は死者との交流を書いた作品。
「約束」の方は私はちょっと「誰も知らない」を彷彿とさせられてやりきれない気持ちになりました…。
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アメリカ人の父親と日本人の母親を持つハーフの美亜。
父親は誰かわからず、母親も再婚により今は連絡をとっていない状態。
被爆2世の朴さんと知り合い、お互いの孤独を癒していく。
最後は朴さんの死で終わり、ミアに新しい命が授かる。
確かにアメリカの核爆弾が違う種類で2回も落とす理由は「試したかった」ということなんだと思う。
戦争は人を人として見ることはないんじゃないかな。
悪い悪くないというのではなく、価値観が破壊される。
人としてみてしまえば、全員の精神が狂ってしまう。
ありえない状況でありえないことが起こり、感覚を麻痺していく。
人間をコントロールするのって簡単なんだろう。
常に起こってしまったことに対してなにを言っても始まらない。
起こったことにどのように対処するか、そこが大事。
私は孤独ではない。
でも幸せでもないように思う。
感情なんて日々流動的で永遠に孤独な人はめずらしい。
面白かったと思う。
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最近山本文緒ばっかり読んでたので。
やはり鷺沢萌(字が違いますが)好きだなぁ。なんでいっちゃったのかなぁ。
新しい作品が読めなくて本当に惜しいです。
さいはての二人は、文体が本当に鷺沢さんらしくて好きでした。
そして"遮断機"。連れて行って欲しくなる事あるけど。まだだめなんだろうな。(2009.4.21.)
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「動物の仔のように身を寄せ合って眠る・・・」
「このひとはあたしだ」
この二つのフレーズが頭から離れない。
ろうそくの光のようなゆらゆらとした語り口が心地よく、また、どこか心許ない。
愛するものが別の生きものであるということのせつなさ、それゆえの愛しさ。
複雑に絡み合うルーツがもたらす、軋轢、許し。
元々ひとつであったものがたまたま分かたれて、、
別々のものとして生きている。
だけなのだという単なる事実と、そこに潜む非合理ななにか。
いてもたってもいられないような気持ちにさせる話。
あとのふたつの短編も秀逸。
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入手方法と時期: 購入・大学時代?
読んだ回数:3,4回
読了年月日(最新): 09.10.29
感想等は後日。
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平凡な家庭に生まれるってのは幸せなことなんだと改めて思った。
そうじゃない人同士って惹かれ合うものなのかな?
恋愛じゃなくて、もっと深い部分で。
そんな気がしました。
2話目の「約束」って話が良かったです。
心の中の穴を埋めてくれる人は、想像もつかないような相手だったりもするんですね。
(2005.10)
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読み返してまた、泣いてしまった。
出自にまつわる孤独を抱えて生きる主人公が、バイト先の飲み屋さんで、不思議と自分と似た雰囲気を持つ男性と出会い、惹かれあっていく。ただ、ただ、ふつうのしあわせを渇望する主人公の姿に、胸を打たれる。
鷺沢 萠さんの小説はどれも好きですが、このお話が一番好きです。
自分自身の孤独と向かい合い、ひとを愛するという普遍的なテーマが描かれていると思います。
それぞれに生き難い事情を抱えているけれど、それは誰かのせいではない、と誰も恨むことなく(いや、一度は恨んだかもしれませんが、その気持ちを乗り越え)、他者を愛せるという幸せを、そっとかみしめて生きている。
『さいはての二人』は、行き場を失った二人の悲しいお話ですが、最後にぽっと心が温かくなります。
最初に読んだのは4年ほど前ですが、あとがきで彼女が亡くなっていたことを知り、本当に悲しく、また泣きました。