紙の本
19世紀のドイツの作家による怪奇小説です!
2020/05/11 09:00
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、19世紀のドイツの作家、音楽評論家、画家、法律家と数々の分野で活躍したエルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマンの傑作小説です。彼は後期ロマン派を代表する幻想文学の奇才として知られている人物で、同書の「砂男」も彼の幻想文学の代表作として知られています。内容は、学生ナタナエルが幼児期から怖れていた砂男の影におびえ、しだいに理性を蝕まれていく様を描いたもので、レオ・ドリーブのバレエ『コッペリア』やジャック・オッフェンバックのオペラ『ホフマン物語』はこの小説をもとに作られていると言われています。同書には、表題作「砂男」のほか、「クレスペル顧問官」及び「大晦日の夜の冒険」の2篇がおさめられています。
紙の本
ホフマンの戦慄
2015/03/26 18:26
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:衒学舎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
バレエ「コッペリア」の原案である「砂男」は、しかし、明るく楽しい「コッペリア」と似ても似つかない程、不安に怯え戦慄に揺れる小説である。
元々、砂男は古くからヨーロッパにある伝説である、夜になって眠っていない子どもに砂を振り掛け、目を瞑った子どもは眠ってしまう、というものだ。この砂男のは、ただ眠らせる人というものから、二度と目が覚めなくしてしまう、というものまで、バージョンは多岐にわたる。
この「砂男」は、名士コッペリウスが実は砂男で、目玉を奪いに来る、という不安を持ったナターナエルの話である。前半はナターナエルと、友人ロータルや恋人クララとの書簡で構築されている。ここでは勿論、書簡の書き手の視点でしか述べられていない。後半はj講談師や見世物小屋の呼び込みのような口調で、事の顛末が述べられる。ここでは扇情的な言い回しが多く、はたして真実を述べているのか、と読者に思わせる。
結果として、コッペリウスは本当に砂男であったか否か、が読み終わっても読者は判然としない。
この読み終わっても宙ぶらりんにされる恐怖は、多少手法が異なっても、併録されている「クレスベル顧問官」「大晦日の夜の冒険」も同様である。
紙の本
読みやすい
2015/11/30 23:31
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ありんこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ホフマンについてのちょっとしたレポートを書くために購入したのですが、とても読みやすかったです。『砂男』はとても面白かったです。
投稿元:
レビューを見る
オペラ『ホフマン物語』の元になった、『砂男』『クレスペル顧問官』『大晦日の夜の冒険』の3篇を収録。
やはり『砂男』が何度読んでも好きだ。
検索してみたら岩波文庫は品切れで、現在、新刊で手に入るのは古典新訳文庫のみという現状らしい。うーむ……。
投稿元:
レビューを見る
ホフマンの中編?が三編。どれも少し不可解な話なのだけれどその怪奇な中身がなかなかよい。幻想的欧州を感じさせる。どれもなかなかで、また読み返したい。
投稿元:
レビューを見る
二十年前に読みたいと思って入手できなかった本が近年新訳が出てようやく読むことができたのだが、なぜ読みたかったのかはとうに忘れてしまった。
収録の三短編どれも事前にプロットを構想せず筆まかせに書いたことがありありとわかって興味深い。重要人物が途中で退場し何の音沙汰もなくなったり、一人称/三人称などのナラティブがころころ変わったりする。
投稿元:
レビューを見る
確かに「砂男」はのちの小説や映画のお手本にされたように、シンプルながら人の狂気がクールに描かれている。だが、嫉妬なのだろうか。器用な人が何でもうまくできてしまう故の、この人の書くことの執着が感じられない、などとひねくれた気持ちが浮遊した。が、後書きにて作者が痛風がひどく布団ソファーに鎮座したまま執筆するイラストが掲載されていて、萌えた。そして書くことの情熱も記載されていた。こんなにも「俺ってさこういう人だから」という押し付けが感じられず、作品の世界に集中出来ている物を提供するのはすごいですな。
投稿元:
レビューを見る
何度読んでも素晴らしい。長いと言われても私は言いたい!200年前ホフマンが怖さのあまり妻の手を握りながら書いたと言われるこの小説がどれだけ後世に影響を与えたか。美しいほどの不気味さはこれまで幾度と映像化されたが表現しきれなかった。畳み掛ける不条理は狂気なのか現実なのか。夜更かしする子供のところにやって来て目玉をえぐり取る砂男の話を聞いた幼少のナターナエルは夜になると父の書斎に来る砂男の足音に怯えていた。ある夜書斎を覗き見して砂男に襲われ父に助けられる。砂男の正体は弁護士のコッペリウスだった。父は惨殺されコッペリウスは姿を消し行方不明となる。十数年後、結婚し大学に通うナターナエルの前に再び砂男は現れる。妻の助言に一度は妄想を振り払い彼は砂男から望遠鏡を買う。そしてその望遠鏡でこの世ならぬ美貌の娘オリンピアを見つけ出会い不貞の恋をするのだが、オリンピアは自動人形だった。壊れたオリンピアのえぐられた目玉。発狂したナターナエルはその後回復するも病院の屋上であの望遠鏡を覗いて景色を見ようとすると…。この話を読んだフロイトは『不気味なもの』の中でホフマンを去勢コンプレックスと分析した。ホフマンは確かに普通ではない。幻視が見えたのだろう。どの話もそうなのだ。常識や理屈で話をまとめようとしない。だからこそ幻想と狂気が逆にリアルに爆発しているのだ。この200年のファンタジーとホラーは『砂男』を、いやホフマンを超えられていない。翻訳はエンデの『モモ』を訳した読みやすい大島かおりで読もう。
投稿元:
レビューを見る
ドイツ文学の講義で読んだ。
ラブドール、死ぬほど興味深い。
自分の都合のよいように相手を捉えすぎる盲目な恋愛の恐ろしさよ。狂気。現実とか生活とかサイドの女(クララ)を物足りなく思う気持ち。
ドイツ文学もっと読みてえ
投稿元:
レビューを見る
すごい面白かった。ホフマンはドイツ人の法律家だから、難しい言葉が並んだ長々とした小説なのかと思っていたら、とんでもない。
怪奇で、幻想的で、狂気的で、少しの哀しみがある小説。
小さい頃読んだ不思議で恐ろしい御伽の世界に迷い込んだよう。
3遍の小説で、1番好きなのはクレスペル顧問官。
気が狂っているようだけど実は中の芯がしっかりした人で、好きになるキャラ。
〝ふつう自分に奇矯なところがあっても、人に気づかれないように包み隠しておきますがね。その覆いを引き剥がされてしまっている人がいる。”
まさにそんな感じのキャラ。
砂男は怖い。ぞくっとする。若い青年(お金持ちで許嫁もいて、幸せそのものにみえる)の内面が分裂し、気が狂っていく物語。ホフマンさん、怖いよ!
こんなに面白いとは。三島、坂口安吾が絶賛したというのも頷ける。
投稿元:
レビューを見る
『砂男』を再読。
近代文学におけるジャンル小説の先駆けでありながら、まごうことなき傑作怪奇小説。
好きな小説10個挙げろって言われたら絶対挙げる。
恐怖の積み上げ方が上品。
ナターナエルと作者ホフマンの距離感が絶妙。
主観的な物語を描きながらも、客観的にロマン派を脱構築する。
ホフマンにとっての至上への希求は、狂気への道筋。
ヒッチコックの『めまい』は絶対これを元にしてる。