ねがい みんなのレビュー

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投稿者：toku　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

　みやこ高校新聞部の恐怖体験談として圧倒的な恐怖を描いた『恐怖』
　霊感を持つ少年と守護霊の、悪霊や悪人との闘いを、ヒーロー漫画風に描きつつ、グロテスクに描写した『神の左手悪魔の右手』
　永遠の美を追い求め、その喪失を恐れる女優の、恐るべき計画と親子愛を描いたサイコホラー『洗礼』
　など、楳図かずおは、さまざまなテイストのホラー漫画を世に送り出してきた。

　どの作品も異なる恐怖が楽しめるホラー漫画なのだが、心を揺さぶる情緒豊かな恐怖を描いた作品が多い。身の危険を感じさせる恐怖というより、心の琴線に触れる恐怖という印象を受ける。そのため、ホラー漫画にもかかわらず、深い満足と感動の余韻の得られるのが、楳図ホラーの魅力である。

　収録の短編７編のうち、表題作【ねがい】は、単純な物語ゆえに、深い悲しみを伴う恐怖が堪能できるホラー漫画。
　この作品には、捨てたはずの木偶人形モクメが生を得て戻ってきた恐怖と、友達として作ったモクメを捨ててしまったという少年の悔恨と悲しみ、そして少年に捨てられたモクメの切ないほどの悲しみが、満ち溢れている。無表情なモクメには、悲しみの表情が浮かんでいるようにさえ見え、ラストシーンでは、少年とモクメの悲しみが圧倒的な勢いで流れ込んできて、ホラー漫画なのに心が苦しくなるほどである。
　そのように彼らに感情移入してしまうのは、少年やモクメの行動に、自分でも同じように行動してしまうだろうという共感があるからで、そう考えると、ここに描かれている恐怖は、我々の普段の行動によっても起こりうるかも知れない。

　ホラーではないが、一人の老人と、老人を見たこともない少年の交流を描いた【Rojin】も魅力的な作品。
「ぼくもロウジンとよばれたい！！」
２０歳までしか生きられない世界に生きる、五歳の少年のこの言葉が、非常に深く印象に残るのは、現代社会において生き急いでいるという思いと、多くを経験してきたロウジンの魅力に強烈な光が当たてられたように感じたからだろう。

【収録作品】
ねがい、DEATH MAKE、絶食、Rojin、プレゼント、蛇、鎌。