非現実世界のミステリー
2022/09/26 23:22
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ねったいぎょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
レトロな雰囲気が漂うミステリー小説の短編集です。科学の知識を使ったトリックは、この時代は珍しかったのだと思われます。非現実世界の中の話という感じの短編もあり、それはホラー的要素もあります。トリックを真剣に考えて読むという感じではなく、物語を楽しみながら読み進めるという感じですね。
投稿元:
レビューを見る
『日本SFの先駆者』、海野十三の奇想探偵小説集。
黄金期の探偵小説が持つ雰囲気の良さもさることながら、江戸川乱歩や横溝正史と違うところは、科学的なトリックを多用しているところ。この辺りが『SFの先駆者』と呼ばれるだけある。
探偵役の帆村荘六は明智小五郎に代表される『超人的な名探偵』の系譜に繋がるキャラクター造形で、所謂『探偵小説』を読み慣れている読者にはとっつきやすいタイプと言える。本作の持つ雰囲気の良さは帆村のキャラクター造形によるところも大きい。
余りミステリではモチーフにならない麻雀を扱っている『麻雀殺人事件』と、奇想天外なトリックが正に『奇想ミステリ』の『爬虫館事件』、怪奇小説じみた雰囲気が漂う『俘囚』の3作を推したい。
投稿元:
レビューを見る
ちくま文庫の怪奇探偵小説傑作選〈5〉海野十三集―三人の双生児を分冊して、再刊したもの。ちくま文庫版も持ってますが、もちろん買いました。内容はもちろん素晴らしいです。
投稿元:
レビューを見る
探偵、帆村荘六モノのミステリー短編集。ああやはり戦前のミステリの持つこの独特の空気感がイイですねぇ。
アンソロなどで単発でしか海野作品を読んでこなかったので、こうしてまとまったのが手に入るのがありがたい。当時の最先端の『科学』と(麻雀やらトーキーやら)モダンな『風俗』が絡んでどの作品も甲乙つけがたく魅力的でした。
帆村の飄々としたところが『探偵』らしくてとても好みw
来月出る2冊目も楽しみですね。
投稿元:
レビューを見る
科学知識を駆使した奇想天外なミステリを描いた、日本SFの先駆者と称される海野十三。鬼才が生み出した名探偵・帆村荘六が活躍する推理譚から、精選した傑作を贈る。麻雀倶楽部での競技の最中、はからずも帆村の目前で仕掛けられた毒殺トリックに挑む「麻雀殺人事件」。異様な研究に没頭する夫の殺害を企てた、妻とその愛人に降りかかる悲劇を綴る怪作「俘囚」。密書の断片に記された暗号と、金満家の財産を巡って発生した殺人事件の謎を解く「獏鸚」など、全10編を収録した決定版。解説=日下三蔵
投稿元:
レビューを見る
「赤外線男」とか「人間灰」だとかタイトルだけで既にドキドキする 目を剥く型破りの科学トリックが盛り沢山で、「そんなのアリ!?」と思わないでもないものもあるが、鬼気と妖気に満ちた物語世界の情調の為に納得させられてしまう 女性の登場人物にやたらと艶っぽい美人が多いのも面白い
投稿元:
レビューを見る
幅広いバリエーションに富んだ作品集。これだけあれば、必ず1つくらいは気に入るものがあるのではないだろうか。私は「省線電車の射撃手」が結構気に入った。青空文庫でほとんどが読めるので、そこで読んでみるのもおすすめ。
投稿元:
レビューを見る
海野十三氏の作品が沢山青空文庫になっていることは知っていてもどの作品から読めばいいかもわからないし意外といつでも読めると思うと読まないもので…そんなところへの書籍化は嬉しかったです。文章は想像したほど古臭くはなく読みやすいです。時代を感じさせるものも悪くないですし、「俘囚」や「赤外線男」のような行き過ぎと感じるものも十分楽しめました。「振動魔」「人間灰」のような化学的で怪奇的なものは特に好みです。人により好みは分かれそうですが私はとても好きだったのでもっと早く出会いたかったです。
投稿元:
レビューを見る
戦前の帝都東京を舞台にしたミステリー短編集。
昔の小説という感じはさすがに否めないが、雀荘の雰囲気、恵比寿や目黒ですらうら寂しい感じ、井戸に旦那を放り込んでしまう感じ、会話のテンポ感など、随所に漂うレトロ感や当時の空気感が何とも言えず味わい深い。
投稿元:
レビューを見る
横溝正史を読み、繋がりのある海野十三へ。名前は有名ですが読むのは初めて。
横溝正史と海野十三について。
当時雑誌「新青年」の編集者だった横溝正史が、海野十三の原稿を他の人に「校正しておいて」と渡したらその人は原稿をまるっきり書き直してしまったらしい。そのため海野十三っぽさはまるで無くなってしまったんだが、時間もないし、申し訳なく思いながらもその書き換えたものを発表した。しかも当時公務員だった海野十三がペンネームを使っていたのに、うっかりと本名を雑誌に載せてしまったんだそうな。個人情報、著作権ってもんが全くない 笑
横溝正史は海野十三に対して「大変ご迷惑を…」と大いに反省しているが、海野十三は横溝正史に感謝の弁を述べているので、当時の書き換え・代作当たり前の大らかさも感じる。
横溝正史と海野十三は個人的にも繋がりが深い。困ったときにはお互いに援助仕合い、戦中戦後の助け合い関係が感じられた。
そして海野十三はかなりの軍国主義者だったようだが、読んだ感じではそんな感じなかった。
さて、こちらの短編集は素人探偵帆村荘六(ほむら そうろく・シャーロック・ホームズを捩った)による事件簿。
副題が『名探偵帆村荘六事件簿』であり、海野十三の科学知識を駆逐したミステリーというので本格推理小説かと思ったが…読んでみたらこれはトンデモ科学のトンデモミステリーだった笑・笑・笑
なにしろ「科学」というのが、「肉食動物の胃液を集めた容器に死体を入れて溶かす」とか、「死体を凍結させて細かく砕く」とか、「内蔵と同じ形の容器を作り、ある振動を加え、人体へと共鳴させて、内蔵破壊する」、「赤外線でないと見えない怪人」が出てきたと思ったら「薬により目が赤外線が見えるようになった」人も出てきたり 笑
しかし警察の捜査も「銃痕の入射角度により犯人の位置を捜査する」という概念もなく、それを指摘された担当刑事が一生懸命数式を作るとか、血痕についても「血液型などというハイカラな考えはなかった」という時代。そんなときに「入射角度」「赤外線」というのはハイカラな推理小説だったんだろう。そして理数系の方にこの短編集で書かれている科学犯罪、例えば「自動ピストル発射装置」が理屈の上では可能なのかを分析していただきたい。
さらに、どの犯人も動機はどうでもいい扱い 笑。連続殺人を「変態殺人」「殺人淫楽者」、盗みを行った男が死んだのだが何を盗もうとしたかは書かれていない、などなど。
日本の探偵小説の初期は、動機だとか、なぜ探偵が犯人だと気がついたのかとかは重要視されなかったんですね。
こうなったら読者としては物語そのものと、当時の庶民生活を楽しみましょう。
『麻雀殺人事件』
帆村荘六の目の前で麻雀の客の一人が毒殺された。帆村荘六は意地をかけて解明する。
…犯人目星をつけたのが「怪しくないから」っていいのかこれ 笑
『省線電車の射撃手』
省線電車内で女性が射殺される。銃痕の入射角度を指摘された担当刑事は、計算式を作って犯人の位置を捜査していく。
…捜査担当刑事が、指摘されるまで��射角度なんて考えてもいなかったとか、それを確認するのも担当刑事だというのが時代ですね。警察組織にはいつから科学捜査専門ができたんだろう。
『ネオン横丁殺人事件』
お座敷で殺された主人。隣の座敷にいた妾の証言には矛盾があるが、殺人不可能なようだ。
帆村荘六は「自動ピストル発射装置」を解明して…。
『振動魔』
不倫相手が妊娠して困った男が、科学の力によりこっそり堕胎させようとする話を男の知人が語る。不倫する二人も問題だが、この語り手がかなり嫌らしい。
『爬虫類館事件』
動物園で園長が行方不明になった。園長は肉食動物の餌になってしまったのだろうか?
『赤外線男』
女性殺人犯は、赤外線を通さないと見えない「赤外線男」なのか!?
…ダリアという女が出てくるんだが、この時代に洋風の名前での純日本人で大柄で開けっ広げで男性と洩ザック・バランな関係になる、って、なかなか面白い人物だ。このダリアの結末もなかなかに面白い。
『点眼器殺人事件』
帆村荘六は怪しい依頼人に誘拐されて、誰にも知られずに殺人事件を解明するように言われる。そこは近頃社会を騒がす秘密結社の総本山だった。
…社会を揺るがす秘密結社というのが、戦前の日本の不穏さを感じさせる。
『俘囚(ふしゅう)』
こ、これは…かなりキモチワルい。
研究室に閉じこもり悪魔の実験を行う博士。そんな変態陰険陰湿身勝手夫に嫌気が差している妻は、夫を井戸に落として殺したと思ったのだが…。
この実験が相当気持ち悪い。語りは夫である博士を殺した(と思っている)妻で、蓮っ葉な感じなのだが、嫌な夫(本当に気持ち悪い嫌なヤツです)を片付けてスッキリすると思いきや、鏡に映る自分の顔に「自分は殺人者になったんだ」と悶える描写などとてもうまい。
終盤相当キモチワルいが、この妻の蓮っ葉さが潔くもあった。
『人間灰(にんげんかい)』
西風の日に従業員が行方不明になる湖沿いの工場があった。湖を漕いでいた男は、気球に気がつく。そしてなぜか血塗れになっていた…
『獏鸚(ばくおう)』
たまたま入手した暗号は、社会を揺るがす秘密結社によるものなのか。
暗号解読物なのだが、映写機とか日本語や英語の発音を利用しているなど、当時にしては最先端科学だったんじゃなかろうか。
…暗号の「獏鸚」と聞いて、獏と鸚鵡を背中でくっつけた怪物?を想像するってどういう発想だ。この本の表紙がその「獏鸚」です。