紙の本
若さを失った者の小説
2008/02/25 09:27
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:カワイルカ - この投稿者のレビュー一覧を見る
外国文学の主人公には印象的な名前が多い。日本文学では漱石の小説の三四郎ぐらいしか思い浮かばないが、外国文学となるとジュリアン・ソレル、エンマ・ボヴァリー、アンナ・カレーニナ、テス、ハックルベリー・フィン、ギャツビー、ジキルとハイドなどがすぐに思い浮かぶ。これらは名作の主人公の名前であるだけでなく、典型的なキャラクターをあらわす代名詞のようになっている。
この作品の主人公ドリアン・グレイもそういった名前のひとつである。悪魔に魂を売って永遠の若さを手に入れた美青年ということになっている。この名前の響きには確かにそういう妖しい魅力がある。ドリアン・グレイの代わりに彼の肖像画が年をとるというところがこの作品の魅力の核心にあるのは間違いない。が、今回新訳(作品の雰囲気を損なうことなく読みやすい訳文に仕上がっている)で再読してみると今まと違った面が見えてきた。
ドリアン・グレイは友人のバジル・ホールワードが描いた自分の肖像画を見て、自分が若さをいつまでも失わず、代わりに絵の方が年老いていくなら魂だって差し出す、とつぶやく。肖像画を見て自分の若さと美しさに気づいたのだ。だが、20歳そこそこの若者が、自分が年老いてゆくことに不安を感じるものだろうか。自分が20歳の頃は、年老いた自分など想像できなかった。そういうことを考えるのは若さを失いかけてからだろう。
年譜を見ると、この作品を書いたときのワイルドは36歳。まだ中年とは言えないが、絶対的な若さはすでに失っている。この微妙な年代にこの作品が書かれたのは偶然ではないだろう。ドリアン・グレイの若さに対する執着は20歳の若者の発想ではなくて、若さを失いつつある30代後半の者の発想なのである。
というわけで、どうしてもドリアン・グレイと作者のワイルドを重ねたくなる。この小説の終わりのドリアン・グレイは38歳でこの作品を書いたときの作者と同年代である。ワイルドはこの後、41歳の時に同性愛の罪で有罪となり投獄されている。二年後に出獄するが、その三年後には病気と貧窮のうちにパリで亡くなっている。ワイルドが自分のその後の人生を予感していたのかどうかはわからない。しかし、作家としての絶頂期にすべてを失うというのはなにか小説じみている。これは自伝的な小説ではないが、作者の心境を読みとることも可能なのではないかと思う。
紙の本
ピーマンのドリアン
2023/04/01 22:13
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
金持ちで美貌の青年・ドリアン(でも、中身は空っぽで、本当に男前だけの男)、快楽主義者のヘンリー卿(この男の屁理屈のせいでドリアンは純粋な男でなくなっていく)、そして真面目な画家バジル・ホールワード(真面目過ぎて暑苦しいかも)、3人のそれぞれに違う性格を持つ青年たち、私としては誰一人として友人にはしたくない人たちばかりだが。ドリアンは結婚を約束していたシヴィル・ヴェインを些細な理由から冷たくあしらうようになり彼女に別れようと告げる、それを苦にした彼女は自殺してしまう、バジルはドリアンに猛省をうながすが、ヘンリーは逆に彼に対してそれが一番よかったのだとそそのかす、どちらの言うことに従うかというともちろんヘンリーで。ドリアンって、本当に・・・
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「花」をモティーフにした行が多いです。
ワイルドの極彩色な、ヴィジュアル的なヴィジョンが読んでいて、目の前に浮かびます。
『退廃的』と言われますが、そこにはワイルドの芸術観・美について書かれているようです。それを考えると、むしろ『耽美的』に思われます。
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中学生のとき、図書館で借りて読み始めたものの、挫折したヤツ。あれは岩波文庫だったっけ? 新訳になって、完読できるのか!? 読み終わった! なるほど。
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サロメの人。
普通に面白かった。
普通に筋が通ったお話。
形容詞が妙に回りくどいのは
翻訳しちゃったからかなあ。
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モデルは若いまま絵だけが老いていく、という話を聞いたことがあったのですが、これがその元ネタだったんですね。
以前読んだ『飛ぶ教室』が人間の素敵な部分を書いているのだとしたら、これは真逆の部分を描いています。人間の弱さや執着、どろどろした感情が満載。その狂気じみた様子までびんびん伝わってくる。
分厚い本だけに時間はかかったのですが、タイトルにもなっているドリアン・グレイから目が離せませんでした。
ところで、新しい訳のせいか(解説にも書いてありましたが)、前半なんだかとてもBL臭がプンプンするんですが(笑)。
でもそこまで情景を読み取りやすくなった古典新訳文庫はやっぱりすごい。
そしてなんだか話の感じが似てるなーと思ったら作者のO・ワイルドは『サロメ』の人だったんですね。納得。
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09.05.13
ワイルドならではといった感じのドリアンの描写。
ヘンリー卿はすごくイギリス人キャラっぽくていいね。
個人的にはアラン・キャンベルがすごく気になったのに全然書かれなかった・・・
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話の構成自体は非常にシンプルで面白かった。若さを渇望するドリアンの願いは叶えられ、自分の変わりに肖像画が醜く変化していく。しかし変わらない外見とは対照的に、ドリアンの心は醜く変化する。この小説では美=若さと主張している。若さこそが美であり、老いは醜い。この主張は以前読んだ三島由紀夫の小説と共通するものがある。
しかし、美を追求する事と同性愛との関係は疑問である。
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新訳で、新潮社のものよりも読みやすい。
人間の本質を問う内容に、100年以上前の小説でも古さを感じませんでした。
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The basis of optimism is sheer terror.やっぱりひねくれ者の言葉ばっかりが私を動かす気がする(笑)
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ある貴族の美青年は少しも年をとらなく、いつまでも美しいまま。しかし、代わりに彼の友人が描いた彼の肖像画が年をとっていて……。ぞくぞくする話。芸術家なのに常識人のバジル・自分の興味欲望に忠実なハリーと様々な友人がいる中で、誰も真実には気付かない恐怖。老いて醜く変わっていく肖像画。しかし、主人公が耽溺していく背徳的な美はやはり美しい……。
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バイト先の先輩に貸してもらった本。
時々ストーリーが無くなっちゃったような気がしたけど、とにかく人生だの美だの若さだのについてのワイルドの考えとかがよくわかりました。
美しいドリアンの狂気じみた様子に、怖いようで惹きこまれる。
若さと老い、美しさと醜さどちらも目の当たりにした彼の心境が切々としていました。
さすがは、名作です。
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昨年8月に舞台みて、それからすぐ読みはじめたのに、1/3くらいでとまってなぜか放置してた…。
3日前くらいに読みはじめて、今度はさらっと読めてしまった。不思議。
舞台とはシビルヴエインの弟の死に方以外はほぼ同じ内容でした。
でも舞台の方が純粋な青年がヘンリー卿から悪影響を受けたっていう要素が強かった気がする。
小説のドリアンは自ら道をはずれていってしまった感じ。
オスカーワイルドっていう著者も興味深いです。
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素晴らしい。
ワイルドの哲学がハリーの詭弁がドリアンの美貌が狂気があらゆる芸術が心の奥に根を張って一瞬で虜にされた。
そもそも物語が単純に面白い。世界中で愛される理由がよく分かる。
この小説そのものが完成された芸術作品!
そして、“芸術とはみな、きわめて役に立たないものだ。(序文より)”
完璧過ぎる作品。
死ぬまでに必ず原文を読む。
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容姿美しい主人公、ドリアン・グレイが、一人の男性と出会ったことをきっかけに思想的に影響され、それまでとは打って変わった生活に溺れていきます。
どんなに非道な事をしても、年を重ねても、その美しい容姿を失わない秘密を隠している主人公―その秘密がいつ暴露されてしまうのかという緊張感の保たれた物語展開と、上流階級のきらびやかな社交界のシーンで挟まれる思想に関する登場人物のやりとりが知的で、そしてスリリングでとてもおもしろかったです。
新訳版ということで、こなれた流麗な文章が大変読みやすく、一気に読んでしまいました。
借りて読んだのですが、手元に欲しくなった一冊です。