フンボルト 自然の諸相 ──熱帯自然の絵画的記述 みんなのレビュー
- アレクサンダー・フォン・フンボルト, 木村直司
- 税込価格:1,320円(12pt)
- 出版社:筑摩書房
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自然の姿を画像としてとらえ、その由来・背景を科学的に分析していこうとする学問の入り口を体験できた
2020/12/27 12:12
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投稿者:大阪の北国ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
「地球上の風景や生物の営み」を記述した7つの論文と詳しい注釈などから構成された本である。しかし普通の紀行文や旅行記ではない。その内容を理解するためには、いくつかの予備知識が必要である。私も手に取って読んでみたが、一読しただけでは何をいわんとしているのか理解に苦しむ個所が多かった。本書のまえがきと解説に訳者の木村先生の詳解が付されてはいるが、それでもこの著者の言わんとしていることを理解するのは難しい。
予備知識その一は人類学の権威、岩田慶治先生が書いておられる次のことを理解した上で本書を読むと徐々に意味がわかってくる。
【土地には起伏があり、山脈があり、表情があります。そうした土地の皺や山川のアナロジーを探り観相学という方法を駆使して自然の忌みを解読しようとしました。(山や川や岩石、火山など)一つ一つの事物を解釈し理解するだけではなく、(全体を)見ることによって自然の表情がそのまま研究者にその意味を伝えてくれるということです。】
【フンボルトは今日の植物学者とは違って、外から見た植物の形態によって植物を分類しています。つまり種煮よって分類するのではなく、ヤシの木のような形だとかバナナのような形だとかによって分類するのです。次にその配置を研究します.それによって、例えば山では高さにしたがって植物分布の垂直の秩序が見られることが明らかになります。植物ばかりではありません。火山もばらばらにできているのではなく、地層の割れ目にそって配列されていて、其処から溶岩が噴出してくるということが明らかになります。】この岩田先生の論文を読んだ時、初めてこの著者が言わんとすることがおぼろげながら理解できた。
予備知識その二は訳者の木村先生に甚だ失礼ながら、最初は逐語訳過ぎて文意が伝わってこないのかとも思ったのだが、ドイツ語原典をみてみるとなるほど確かに原典もその通り書いてある。著者の当時は「難しいドイツ語で書く」ことが学術論文の一つの気風でもあったとのこと(かつて私も本邦の哲学者の記述を読み、何で簡単に言えることをわざわざ分かりにくく言うのかと立腹したことがあったが、そういう時代もあったのだろうと変に納得した)。
「万物を創生したのは神である」という「神」、いや「教会」の教えに反するという理由から進化論の発表をためらったダーウィンよりも40年も前に生まれた著者が、地球上の風景を科学的論拠に求めて説明しようとしたことに対して当時の社会が如何なる反応を示したのか、興味は尽きないところである。
東西ドイツを分断していたベルリンの壁が物理的に破壊されてわずかの後、かつての東ベルリンにあった著者兄弟の名前をいただいた大学に私も学籍を取得して入学した。森鴎外氏はその大学の先輩である。そんなことからも、これからも著者の軌跡を辿って行きたいとの思いを新たにしている。
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