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岡崎京子が活躍していた頃、多分看護学校で勉強していたわたしは、彼女のことをまったく知らなかった。日本漫画史にとって重要な人らしい、でも小説はどうかな
2004/04/16 20:44
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
漫画家岡崎京子の初めての小説集。筑摩書房の「PR誌ちくま」に1995〜1996年にわたって掲載されたもので、カバーイラストも自身の作品集『うたかたの日々』から採られたものらしい。最近、極端に視力の落ちた私は、たんにアイボリーの地の紙に白いところがあるなあくらいに思っていたら、ミュシャを思わせるとでもいったらいいのだろうか、もっと品のある女性のヌードイラストがあって、びっくりした。
で、150頁ばかりの、ちょっと美術関係のものではないかと思われる造りの本には、14もの短編が収まっていて、ちょっと好きなのが目次の頁の紙の色。これって、何ていえばいいのだろう茶にちょっと朱を混ぜて、小豆色風にして、それに紙本来の持つ黒味みたいなものが透けて見えて。それに白抜きのタイトルと黒字の頁表示。
いや、本当はもっと技が細かくて、本を開いたときに白いきき紙、あて紙があって、その次にクリーム色の紙、その裏が朱色で、目次とタイトルを入れただけのちょっと濃い目の小豆色が対の頁で、それをめくると見開きの、先述の目次頁、そして再び右に朱、左に濃い目の小豆色頁と、楽しくて、これだけかと思ったら次は目次と同じ色になって、左側に紙質を変えた白い紙に真っ赤な花びら。そして小説が始まるけれど、そのタイトルページにうたれた文字の色が、目次頁の紙の色。本文の頁や章番号も同じ色で、これだけで十分に堪能してしまう。
この洒落た装幀は祖父江慎、編集は清水檀、制作は日下部行洋(平凡社)とある。小野不由美『くらのかみ』の装幀も祖父江慎だが、そのベクトルの向きだけでここまで異なるデザインができる、そう思うだけで感動である。調べてみると、木原 浩勝/中山 市朗 『新耳袋—現代百物語〈第八夜〉』、京極 夏彦『どすこい(仮)』、赤塚 不二夫『天才バカボン (1) 』もそうで、祖父江慎はデザイン界、とくにブックデザインの世界では有名な人で、コズフィッシュとの関係まで分かってしまった。
とまあ、いつになく脱線が続くのは、この本のブックデザインの秀逸さもあるけれど、実は岡崎京子のこの作品集、極めて説明しにくいのである。たとえば、これを漫画で見せてもらったら、私は絶対に肯く。わけは分からないなりに、つげ義春の作品を楽しんでしまうように納得することができる。解説だって、夏目房之介さんほど上手くはなくても、コマ割りや絵そのものでやる。
でも、それが漫画ではなく文字で描かれるとなると、逆に難しい。理に落ちる話ではないのである。筋を追う物語ではないのだ。私の大好きな笑いも、ない。眼前に何かが浮かび上がるということもない。散文一本槍、詩や和歌などを大の苦手とする私には、岡崎の小説を表現する術がないのだ。
ただ、表題作の「忘れる」ということを中心に据えた人間関係、蛇と自分の家族の淡々とした生活「蛇」、バスで靴を片方落としてしまった私が病院で「靴を盗む」、痴話喧嘩で自分の片目を抉り出した女の「……とまあ、そんなとこ。(You know)」タイトルだけで読者を混乱させる「森の中/二人の兄弟/孤独な王様/王妃たち/赤ずきんちゃん/その他」は、その直後に「赤ずきんちゃん」と「森の中」という作品があるだけに???となる。
うーむ、これって白紙回答になるのを避けるために、無理やり思いついたことを書いている学生時代の答案に近いかもしれん。赤点覚悟で出しちまえ、あとは温情、温情である。ちなみに我が家のコミック、アニメ大好きなりたて高校生長女は、私などより深く読み込んで、「私、このひと好き」といっていた。既に子供は親を超えた! これを親ばかといいます。
はは、書評ではなく本評であったなあ…