磯崎憲一郎氏の小説世界が堪能できる一冊です!
2020/06/27 10:33
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、作家の磯崎憲一郎氏が著した傑作2篇と保坂和志氏との記念すべき初対談が収録された一冊です。『肝心の子供』はデビュー作で文藝賞を受賞されており、『眼と太陽』は芥川賞候補にもなった作品です。文藝賞をとった前者は、ブッダとその妻ヤショダラの物語です。またブッダとその息子のラーフラの物語です。さらにラーフラとその息子のティッサ・メッティヤの物語でもあります。加えて、ブッダの隣国のマガダ国王のビンビサーラとその息子のアジャータシャトルとの物語とも言えます。同作では、父親と息子の関係が重要なテーマになっています。「目覚めても彼はブッダだった。川岸近くの葦のなかに一羽の白いサギがいた。すると一瞬、するどく首を回して、くちばしを百八十度まで開いた桃色の口腔の奥まで見せつけるというひとつながりの動作だけで、焦点とそのまわりの背景を反転させてしまった。もちろんありえないことなのだが、一羽の鳥の口の中に、冬の朝の渓谷というこの空間全体が入り込んでしまったかのような、そんな馬鹿げた印象をブッダに与えた」という文章で物語が始まります。なかなか読み応えのある作品です。ぜひ、ゆっくりと示唆深い磯崎憲一郎氏の世界を堪能してみてください。
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文藝賞受賞作「肝心の子供」と受賞後第一作「眼と太陽」、そして保坂和志との対談を収録した贅沢な文庫本。
「肝心の子供」はブッダから始まる三世代を描いたと帯に書いてあるけれど、年代記みたいなものではない。ブッダ周辺の五十年の時空に網を投げてひっかかったものを描いて作り上げたような、流れやストーリー展開がキモの作品ではないけれど、読了してから考えると断片、断片だけではない何かを感じる。あと、時間、場所がすっ、すっと移動するところは映像で表現できないというか、小説でしかできないことで、小説を書くということに意識的な作家だと感じた。と、単行本で初読の時は思わなかったことを思った。
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果てしない時の流れを感じる文体は『肝心の子供』からそうだったのか。途切れない命の積み重なり、あるいは永遠なる命の流れ。川が流れるのと同じように、命も流れていく。そして、それがブッダであるかラーフラであるか、またティッサ・メッテイヤであるかは大きな違いではない。誰も皆、同じ命、太古の昔から続いてきた命であることに変わりはないのだから。
最後に収録されていた対談の内容は、あまり良く分からなかった。小説家ってこんな難しいことを考えているんだ、ということで。そして、二人の話が本当にかみ合っていたのかどうかも疑問。それは単に私が内容を理解できていなかったからか。
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読んでいる最中,映像が頭に浮かぶ小説と頭に浮かびにくい小説があり,その大半は映像が頭に浮かびますが,本書は映像が頭に浮かばないものでした。読んでもするすると頭の中を通り過ぎる感覚でした。また,ブッダ,ラーフラ,ティッサ・メッテイヤと続く三世代の物語で,全く親近感がありませんでしたが,人間としてブッダを描く筆者の想像力はすごいものだと感じました。
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肝心の子供(文藝賞)
眼と太陽
第44回文藝賞
著者:磯崎憲一郎(1965-、我孫子市、小説家)
対談:保坂和志(1956-、山梨県、小説家)
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肝心の子供、なんでブッダをモチーフにしたのでしょうか。眼と太陽、なんでいきなりアメリカの女と寝たがるのでしょうか。読み進めていきたい何ものかが欠如しているので断念。
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大人より子供の話の方が面白いのは当然だから、ブッダの話はラーフラへ移り、ラーフラの話はその息子に移っていく。そして実際、面白い。風景も面白いし、ふと頭をよぎる気づきも面白い。その流れの中を1本貫いているのはどうやら妻であったり母であったりするらしく、特にヤショダラが水田に苗を植えている風景は素晴らしく心に残る。