組織には組織の自律性がある。皮膚が与えてくれる世界観。
2008/03/13 21:17
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
皮膚組織も、情報を受け取り、化学物質を分泌したり電気的なシグナルを出している。最近の研究結果から「皮膚は脳と同じような性質を持つ、第三の脳」、と著者は書く。既に消化管が「第二の脳」と言われているので、「第三の脳」なのである。
著者は化粧品会社に所属する、工業化学系出身の研究者。研究の進歩で、皮膚の細胞についてもさまざまなことがわかってきたことが、わかりやすい言葉で書かれている。
指先の感覚が、感覚細胞の分布の間隔よりも細かいものを識別できるのはなぜか。視覚と同様に、皮膚感覚にも錯覚があることを示す、帯に凹凸のある印刷がついている。こんな体験もちょっとした驚きである。ほんとうにいろいろなことが研究されているものだ、と感心もした。
結局、組織という一つの集団は、それ自身である程度自律的に反応できる機能集団だということを示す知見が増えてきた、ということなのではないだろう。個体を統合する、という点で「脳」への集中が強調されすぎてきたのかもしれない。それぞれの組織、もしかしたら分子までもが各自で調整をしながら、さらに上の(組織なら個体の、分子なら細胞内器官などの)統合の中で生きている、そんな新しい生命観を感じさせる。なんとなく「脱DNA宣言」に書いた書評と同じようなことを考えてしまった。これも新しい生命観の提唱なのだろう。
皮膚という組織でわかってきた新しい事実も興味深いし、生命観を考え直すいろいろなヒントが述べられていて大変面白かった。しかし、話のテーマが次から次へ変わっていくきらいがあり、文章、本のまとまりとしては若干散漫な印象がぬぐいきれない。超能力や東洋医学の話まで話題を広げなくてもよかったように思える。さらに研究が進んだ時点で、また「掘り下げた」意見を述べて欲しいものである。
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皮膚は外側にある「臓器」です−。既に知られている皮膚の構造、機能、そして新進気鋭の研究者たちが、現在明らかにしつつある最先端の研究成果を基礎に、これまで科学の範疇にさえ収められてこなかった問題を考える。
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資生堂の研究員による、皮膚にまつわる最新の研究などの紹介、そして考察。
6章から構成され、3章までは☆4.5以上の満足さを感じながら読んでおりました。
しかし、4章からは超能力やココロなど、研究者らしからぬ流れになっていき。。
研究者による科学エッセー?だとしたら、興味深いとは思います。
最近、科学者による本を読むことが多いので、研究テーマがしっかり掘り下げられ、しっかり提示されたものと期待してたので、評価としては☆3つにしました。
しかし、皮膚が感覚器のひとつではないかという最新の研究の紹介は、かなり興味深い思いました。
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膚にまつわるエトセトラ。前作「皮膚は考える」よりも軽く、東洋医学、超能力から進化まで、視野が広くなっている。
・J.C.リリーのアイソレーションタンク。確かに皮膚感覚の問題としても見れるのか。→境界理論の一助となりそう。
・皮膚電位のテレパシーその他の解明されていない現象への示唆は科学を超えて面白い。
・ヒトの皮脂腺からはスクアレンという物質を分泌するが、この物質は疎水性が大きい。→手の平や足の裏には皮脂腺がないので、「ふやけやすい」。
・ヒトは皮膚感覚を高めるために裸になった?→霊長類では性的ディスプレイとして顔だけ毛がない→ヒトは全身顔になった?
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改めて、情報を処理する仕組みと言うのが「脳」という一部の仕事でない事を実感させられる。そのような内容になっている。より工学的な視点から生物の環境との関わり合いを知る一つのきっかけとして本書はすばらしい価値を持っていると思われる。また同時に、改めて「脳」という中央処理システムがヒトという集合体の中でどのような役割を担っているかを再確認するために大きな役割を担ってくれるように思える。
全身を顔するために人には手がない、それは全身をセンサーにする、全身が脳のようになる、という事を指すのだ、という指摘は非常に想像力を膨らませる。より外界と敏感な関係を構築するために人は体毛を捨て、さらにそれを突き詰めて肌は常に更新されるシステムを組む。
センサーは神経、血管、リンパ管のネットワークとも関連して来る。そして、それらのセンサーの集合体がつぼ、と呼ばれる部分。カラダ全体を覆う部分処理システムのネットワークがボトムアップ式にカラダと環境とのやりとりを制御して行く。そのとき、脳と皮膚はどのような関係にあるのか、本書は皮膚を知る一つの機会であり、脳を考える一つの機会を提供してくれる
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皮膚を科学している。健康な人間にとって皮膚とは空気のようなものだろう。しかし、その皮膚をひとつの臓器として考察し、皮膚のもつさまざまな機能を紹介している。
脳も感覚器も皮膚も外胚葉由来の臓器である。脳を持つ一部の高等生命体以外は、皮膚で考えているのではないだろうか?このクエスチョンは、斬新だ。我々を新しい思考の渦へと誘ってくれる。
某有名化粧品メーカーの研究者であり、アトピー患者でもある著者の語り口は、非常に軽快でユーモアに富んでいます。著者自身、鍼灸治療でアトピーの症状が改善された経験があり、東洋医学や鍼灸治療についての考察もあるので、おもしろいですよ。
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皮膚の役割を体性感覚としてとらえ、その働きに着目した一冊。
アトピー患者である自分にとって、大変興味深い内容でした。
皮膚の痛みによって疲労感を感じる理由が理解できました。
「自我の形成には体性感覚が重要な役割を果たしているらしい」とのこと。
肌で感じるものの存在を、もっと大切にしていこうと思いました。
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皮膚は第三の脳!? -2008.02.08記
皮膚には第三の脳ともいうべき未知の思考回路があり、生物にとって最も重要な器官とさえ云いうると、資生堂ライフサイエンス研究センターの主任研究員を務める傳田光洋氏が自説を開陳する「第三の脳」-朝日出版社刊-は、たんに外界から分かつだけにすぎぬとみられる皮膚から捉えなおした人間観.生命観がずいぶんと刺戟的で興味深く読める。
著者の説くところを本書の終章にあたる「第6章-皮膚から見る世界」-p176~-から以下適宜引用すれば、
進化の過程において、ヒトの皮膚と同種の基本構造が現れるのは、両生類から爬虫類にかけてであること。ヒトの皮膚の原型はカエルの皮膚に認められる、といえよう。
爬虫類になると、角層は鱗に変わる。爬虫類が成長に伴い脱皮するのは、その角層細胞が、カエルなどの両生類やわれわれ哺乳類に比べて、極性の強いリン脂質でできているからだ。鳥類では、爬虫類の鱗あるいはヒトでいう角層は、羽毛に変わる。鳥類の皮膚そのものの構造は、角層のあるヒトあるいは哺乳類の皮膚に近い構造をもっている。哺乳類では、鱗は毛に変わる。毛根には脂腺が付属し、毛に脂質を付着させる役割を果たしている。
-スキンシップが先か言語が先か-という問題 ヒトの顔-三木成夫の「脱肛」説
ヒトの顔は、魚類の口腔の内側が外に捲れ出したような形で形成される。譬えれば「脱肛」のようなもの-とこれは三木成夫「脱肛」説なるものだが-、その平面状の顔に、視覚や聴覚、味覚センサーが配置され、端には聴覚センサーが並ぶように集約される。
「顔に毛がない」理由は、感覚四種-眼.鼻.口.耳-が集まった場所で、もう一つの感覚「皮膚感覚」を高めるため、ではなかったか。
「はだかの理由」-
「ヒトは全身を顔にした」-ヒトは毛をなくしたことで、スキンシップ-肌の触れ合い-という新しいコミュニケーション手段を獲た。
スキンシップによって、ヒトは進化の新しい階段を一歩上がったのではないか。有毛のヒトの祖先が、いきなり衣服をまとったとは考えられない。まず、裸でも生存できる温暖な環境で、ヒトは全身の毛を失ったのだろう。そしてその代償にスキンシップという新たなコミュニケーション手段を獲た。そして高度な組織性を獲得したヒトは、他の動物たちより優位な立場を得た。さらに環境に敏感になったヒトは、次第に生息域を拡げ、寒冷地を目指したものは衣服を発明し、さらに新しいコミュニケーション手段として言語も発達させた。言語の定義を「適切な音声を使い分けることによる同種間コミュニケーション」と広義に解すれば、哺乳類はおろか鳥類にさえも見出しうるものである。しかし、皮膚刺戟によるコミュニケーションは、霊長類において頻繁に認められるもので、このためには細かな皮膚への刺戟に対して手の機能の発達が欠かせない。広義の「言語」より「肌の触れ合い」によるコミュニケーションのほうが、動物全体の進化の過程では新しいに違いない。
―生体の非因果律―について
シュレディンガーによれば、生体は環境から負のエントロピーを取り込み、正のエントロピーを放出して内部環境の秩序を維持しているシステムである。ブリゴジンの開放系の熱力学では、エネルギーや情報が出入りできるシステムのなかでは「自己組織化」が生じる、すなわち無秩序から秩序が立ち現れる。
ここでも因果律は成立しない。因果律の支配する閉鎖系と異なり、生体におけるような開放系システムでは因果律は成り立たず、その内部環境では、逆因果律とでいうべき現象、すなわち未来が過去を決定する、という原理もありうるのではないか
-渡辺慧説-
時間の流れが存在しなかったり、あるいはその方向がわれわれの常識とは異なっている可能性がある。生体内、とりわけ複雑な構造をもつ大型動物、そして人間の「精神」には、多様多彩な「時間の矢に逆行する」現象が隠れていることだろう。皮膚は生体にとってその内的「非因果律的」世界を維持、発展させる境界であり、過去から未来へと流れる外界の時間の流れから、「未来から過去へ」流れる世界を護るシステム、なのだと。
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かゆみには神経も必要だが上皮も必要
刺激を与えられた場所の認識、そして、そもそも不快な刺激であるという認識は、脳がなくてもできる
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おもしれー。
表皮であるケラチノサイトはひとつの情報処理システム。
光、熱、圧力などのインプットも、ホルモン伝達などのアウトプットもする。
よって精神と皮膚は互いに密接に繋がっている。
肌を掻いたり傷つけたら心も傷つけてしまうんだなー。と、しみじみ。
赤いライトをあてると修復が早まる。
にがりのようなミネラルバランスで覆うと修復が早まる。
蕁麻疹とアトピーのかゆみは性質が違う。
って、なるほど。
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皮膚が感覚で受信をして考え選択して反応する
脳も神経もないゾウリムシのような原生動物にも生きよとする意志がある
認識や判断があってものの味がわかるらしい
細胞膜という皮膚が環境を感じ取り
自己の生存のために「快適」さを選択する
人間の皮膚には脳と似た組織と細胞があるという
情報を受け取って考え作戦を練って防御したり反応する
体毛を捨てた人間は鋭敏な感覚を物にした
特に顔の皮膚は裸で常に晒されているにも関わらず
もっとも角質が薄く敏感なのだそうだ
顔は脳のそばにあって五感のすべてを一手に引き受けている
皮膚の三分の一を失えば死に至る
外と内をつなぎ、すべての臓器の働きを左右する
最後の第六章「皮膚から見た世界」は面白い
中でも最後の最後「非因果律的世界」でいわく
内部と外部・体内環境と外部環境の対立
原因があって結果がある
作用があって反作用がある
過去が未来を決定する
少なくとも過去が今に影響するということは現代の常識
しかしシュレディンガーによれば
生体は外部環境から負のエントロピーを取り込み
性のエントロピーを放出して「内部環境」の秩序を維持するシステムだという
ここでは未来が過去を決定しているとも言える
「覆水盆に返らず」を外部から見ることに慣れ親しんでてしまった人間は
時間の一方通行を真理だと錯覚してしまった
しかしそれは時間という閉鎖系だけの答えにすぎない
生命は閉鎖系ではなく開放系
エネルギーや情報が出入りできるシステムでは「自己組織化」が生じる
無秩序から秩序が出現する
生体の中では閉鎖系つまり有限界の常識が通用しない
人間同士のスキンシップなしで赤子は人間になれない
少なくとも心の成長が後れ生命自体にすら影響を及ぼす
大都会の高密度高ストレス社会がもたらす歪は反スキンシップ(自閉症)と
性の異常を起こす
男は同性愛とサディズムをへてマゾヒズム
女は子育てへの執着と無関心
そして癌の高発生率とパニック(社会性の破壊と我欲の増殖)
いずれも仮想空間がもたらした心の不安によるもので
無視されがちな皮膚や体で直接感じ取る誠実な暖かさを必要としているようだ
人間は多くの細胞で組織をつくりその組織がまとめられて身体をなしている
感覚を担う目・耳・鼻・舌・肌そして神経
人間が多用している目と耳(視聴覚)は分析的にONとOFFで物をとらえる
動物が多用している鼻と耳も同じように物をとらえている
物理的刺激を電気信号に変えて脳に送る
それに引き換、肌は環境の変化を総括的にとらえて判断する
組織をなした情報処理システムをつくる
皮膚で感じるケラチノサイトは圧力・温度・湿度・光そして分子をまとめて感じ取り
様々な伝達物質を放出する
感受性も表現も多様である
皮膚はその「内部環境=無限」と「外部=有限環境」をつなぎ
効率よく情報交換���て納得し合える状況を作り出す役目を担っている
つまり脳はこの世を取り仕切り
皮膚はあの世との橋渡しをする中で脳と同じ仕事をこなしていると、この本は言いたいのだと思う
自己顕示欲が目立って少々眠気を催す文だけれども
最後のほうでは特に面白い研究を紹介してくれている
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第一の脳が大脳。
第二の脳が内臓器、そして第三の脳が皮膚という資生堂の研究者である筆者の仮説。
知的刺激がびんびんで超絶に面白い。
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内容は面白いが、幾つか注意が必要。
インパクトのある書き方をしているためか、
少し誤解を与えそうな記述が見られる。
そのため常に警戒しながら読むことになる。
あと、この本は帯も含めて一冊の本。
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感想をどう表現すればよいのかよくわからない不思議な本。脳中心主義に疑問を覚えている人には、よき導きになるやもしれないと感じた。
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常識を打ち破るためのエッセンスが多く詰まっている。
・生体の内部環境では、因果律、時間(過去が未来を決定する)の概念が通用しない可能性がある。(p.204)
・絶対(常識)などということは、生物の進化を見ても存在しない。マトゥラーナとヴァレラのオートポイエーシスの概念は、外部からシステムの組織構成への何らかの介入が生じた場合、それは単にシステム自体の損傷を意味するだけである。→非因果律(p.208)
・目で見た世界では説明がつかないことが、皮膚から考えると理解できる。(皮膚感覚は暗黙知)(p.217)
・生命と環境の物理的境界が、皮膚である。皮膚が、感じ、判断し、形を変えるシステムを持つ。内と外を区別することは、自律的である。(表皮の形成)(p.206)