紙の本
1949年の作品なのに、あまりに現代的な。
2007/01/15 18:20
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
成績が上がらなくなり、歩合制にされてしまったセールスマン。妻からはローンや家計の心配をいつも聞かされ、息子は定職につかずふらふらしている。。。これが1949年に初演された作品なのだろうかと思うほど、現代の日本をみすかしたような戯曲である。というか、日本がアメリカの50年前なのかもしれない。
トニー賞やピューリッツァ賞を受賞した著者の代表作であるこの作品は、日本では1954年の劇団民藝公演(瀧沢修主演)から始まって何度か上演されている。中国でも上演されたそうである。内容のあまりの現代性に改めて驚きを隠せない。
現代の日本でなら、主人公か息子がキレて惨事がおきるかもしれないぐらいの設定である。「まだできる」と夢を追い続ける主人公に友人が問う「いつになったら大人になるんだ?」という言葉は、「アメリカン・ドリーム」の危うさに気付き始めたアメリカ人の言葉でもあるし、そう言ってくれる友人が今の日本人にも足りないと思わせる言葉でもある。この友人が、自分の息子がまあまあの成長をしたことについて言った言葉も深い。「何事によらず、なんの関心ももたないことで、おれは救われているんだよ。」子どもに期待するあまり、干渉しすぎることが親子のどちらにも負担をかけている、ということも確かにあるのではないだろうか。
脚本としても良くできている。一幕でちらりと出てくる「女」も、ただ主人公の寂しさの行き先だっただけでなく、息子との関係の変化に深く関わっていることが二幕でわかるなど、断片がきちんとつながっているのである。二つの場所、時間が同時進行する場面なども上手く使われているが、これは戯曲として読むにはある程度舞台の約束事を知っていないとイメージしづらいかもしれない。このあたりが戯曲を「読む」ことの難しさではある。
1977刊行の全集からの文庫化。タイトルにも「アーサー・ミラー I」と番号がふってあるのは、続いて文庫化していく、ということであろうか。映画や劇を見るように、好きなものだけ一作ずつ切り離して見ることができるのはありがたい。戯曲という特殊な分野、どれだけ読者ができるだろう、と要らぬお節介であるが、不安でもある。しかし、この作品だけは一度は読んでもらいたいので、文庫化を大いに歓迎したい。
紙の本
間違いなく傑作
2013/05/28 14:30
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投稿者:もずく - この投稿者のレビュー一覧を見る
だいぶ前に買った本なのでかなり忘れている気がするが、資本主義社会で分裂していく個人の問題や、家族の問題というものがしっかりと書かれていたと思う。特にウィリィが植物の種を蒔いていたシーンなどは鮮明に覚えていて、ミレーの絵画などでは最も人間的で美しいシーンとして描かれる種まきが、この戯曲では文明の象徴である庭を覆うアパートに光を遮られてしまう。狂ったように芽の出ない種を蒔いているウィリィを想像すると複雑な気持ちになる。アランが「砂粒を蒔くのではなく種を蒔きなさい」と言っていたが、ウィリィはどうすればいいのだろうか。僕だってどうすればいいのかわからない。時代と個人の物語がぴったりと張り合わされていて。戯曲のお手本といえる作品だろう。平田オリザが「後ろ向きでエベレストを登頂するみたいなことは、それはそれで価値のあることなんだろうけど、僕はそういうのはしたくない。もっと普遍的な仕事がしたい」みたいなこと言っていたのを思い出した。この作品は普遍的な作品になっているので、100年後だって上演されているだろう。新しい手法の戯曲だね、あー面白かった・・・で終わるような作品とは一線を画している印象を持った。
紙の本
今の時代にまで続く
2021/03/15 14:53
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
いくつになっても夢を追いかけてしまう、男の悲哀が滲み出ています。当時のマッカーシズムを、21世紀の閉塞感に重ねてしまいました。
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異常な吸引力
この本で始めて気付いたら読み終わってたってのを体験した。
セールスマンの深い哀愁に絡められて
主人公の狂気に自分も引き込まれていく
最後には泣きそうになった。
でもこの話の凄いところはこんな人々が沢山いるというところだ。
僕も君も彼になりうる、そのことに寒気がした。
読んでない人はすぐにアマゾンで注文してください!
この本には明らかに読む価値がある。
特に就職活動中の人は必読
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冬木先生のお勧め本です。
ひとの死に対して、なぜという感情は常に付きまとうものだと思う。
なぜその人は死んだのか、という疑問なら簡単に解決できるけど。
癌だったから。事故にあったから。自殺したから。
でも、なぜその人が死なねばならなかったのか。なら話は少し変わる。
なぜ、よりにもよってあの人が癌にかからなければならなかった。
なぜ、よりにもよってあの人が事故にあわねばならなかった。
なぜ、よりにもよってあの人が自殺しなきゃならなかった。
なぜ、いったい何がそこまであの人を追い込んだ。
主人公のウィリーを殺したのは肥大した自意識と現実との落差だったけど。
なぜ途中で誰も気づかなかったのか。
息子が、ウィリーが死ぬ直前に気づいたように気づくことだってできたはずなのに。
ウィリーの葬式の後、妻は何度も繰り返す。
「あたし、どうしても泣けないの。私にはわからない。なぜあんなことなさったの?」
陰鬱な気持ちで本を閉じたら、そのとたんに知人が亡くなったという知らせがあった。
妻の気持ちがとてもよくわかった。
なぜ、と思っても思っても答えが返ってくることはない。
だから泣けないんだ。
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以前は実感できなかった企業人の行く末、家庭問題など、とても身近に感じられます。
問題は個人にあるのか、企業か、社会か、など考えさせられます。
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この本、鬱だ。働く人ならかなりこの主人公、身につまされるのではないか。現代日本に置き換えても古びて感じられない、非常に現実的な話。だからこそ、なんで読書してこんな思いを?という気にもなる。あと、同時代のテネシーウィリアムズに比べて男性的。私はゲイのテネシーの世界が好きだ。繊細微妙で共感しまくりである。ミラーはもういいかな。
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敏腕セールスマンだったウイリー・ローマンは自慢の息子ビフに果たせなかった自分の夢をかけます。この父親のアメリカンドリームへの過剰なきたいが、家族の全てを不幸にするというお話です。
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セールスマンの非業の人生は、まさに現代サラリーマンの姿…。
僕としては、無能な息子にシンパシーを感じてしまった…。
オヤジよ・・・。
オレはがんばっているよ・・・。
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ラストは分かっていても、苦しまずに読み切ることはできない本。
結局は自分を欺瞞していないか、自分を切り売りしていないかということに尽きるんだけども。
そうしていると自分がなくなってしまう、人間社会はそういう危険に満ちている。
ハッピー(セールスマンの息子、次男)が父と同じ生き方を決意するところも哀しい。
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タイトルがアーサー・ミラー1になっているが「セールスマンの死」というタイトルの劇の台本。
混乱していく主人公に向け、登場人物が入り乱れたり、音楽が不穏になっていく様は、確かに劇でなければ表現できない。本を読んでいても、舞台が想像できる。
クライマックスに向けてカオスになっていく中で語られる「セールスマンの死」、そしてその妻の様子が恐ろしく悲しく、胸が痛くなる。
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社会に出て働いていれば、読んでいて不安になるような内容。
ずっと自分は一人前にやってきて、成果を上げてきたと思っていたのに、振り返ってみたら自分の人生は空っぽだったと気づいたとき。それが若いうちならまだ救いはあるかもしれないが、晩年であったとき。その時感じる絶望は恐ろしいものがある。
しかし、なんだってこんなに勝者になることに拘るのかね。
自分は仕事のなかで自分を切り売りしていないか。
磨り減らすだけの毎日ではないか。
時々はしっかり考えてみたい。
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この本は3年前に読むべき本だった。3年前に読んでいれば間に合っていたかもしれない。読後はまずその後悔の念が先に立ち、そして涙した。良い本に出会うことは、それなりにあることだけど、良い本に良いタイミングで出会うことはめったにない貴重なこと。今回は良いタイミング出会えなかったけれど、これから良いタイミングで出会えるよう、変わらず本を読んでいきたい。そういう思いを新たにした本でもありました。
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death of a Salesman, a drama in USA, by Arthur Miller. Willy Loman, the main character of this story has mental disease.
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人間には、上手く人生を歩めない人がいる。そういうは人に、セーフティネットは必要なのだろうが、同時に、保護観察による生活指導も必要だろう。少なくとも、現代社会においては、自らの属するネットワークの中で、生産的でなくては生きていけないのだから。
本作は、こうした生産的な活動が上手く出来ない家族を戯曲調で描く。夢想ばかりのセールスマンの父。だらしない息子。そんな人間ドラマである。