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面白くて一気に読んだ。読みながら声を上げて笑い、かと思えば何度も涙してしまった。登場人物の中で、マダム・ポワンはもちろんのこと、既に成功している人達や、周りで支えてくれる人達の愛が温かい。それは主人公の辻静雄が持つ幸運からのみではなく、彼が本気で挑戦し、行動する姿を見て、皆が手助けしたくなったのだと思う。本書はあくまでも小説であり、すべてが事実ではないことは承知している。だが、このように素晴らしい人々に助けられ、失敗や成功を繰り返しながら成長してゆく人間の話は、いつも私をワクワクさせてくれる。また、解説の向井氏が述べているように、料理の叙述がシンプルかつ具体的であるところが好ましい。味覚に関する抽象的で大袈裟な表現がないため、かえって味をイメージしやすかった。もちろん、本書に出てくるような贅を尽くした料理を実際にいただいたことはないが、それ故自分で好きに想像しながら読めて、大変満足出来た。お腹いっぱいである。
以下、本書より抜粋。
「自分が人よりおいしいものを食べているなんて、けっして人におっしゃってはいけませんよ。ぼくみたいに、一流趣味の鼻もちならないやつだと思われるだけで、誰もほめてはくれませんから」
「料理をつくる人間のつとめは、お客さんにつねにささやかなうれしい驚きをさしあげることだって。だからわたしもそうしているの」
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自宅で簡単レシピ本とか旅行メシエッセイみたいなのは溢れてるが
本当にプロの技術とその圧倒的な味を表現した本に出会えることはそうそうない。
この本はそれだけでも読む価値があると思う。
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一気に読んだ。
食べたことのない高級フレンチが食欲をそそる具体的な表現で描かれている。
実話をベースにしている部分が多いと思われる辻氏と山岡氏のパイオニア精神、実現力が面白い。
辻氏と敵対関係にある人、裏切り者がとことん悪いやつとして書かれていて、辻氏の美談が多いところは海老沢氏の忖度かと少しモヤモヤするが、そこは伝記ではなく小説だと、自分を納得させれば、割り切って読めた。
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フランス料理が洋食と同じようとされていた地代、本物や文化を日本に持ってきて普及させた話は心躍った。
ホリエモンの寿司職人の話が話題になったが、何十年も前に技術をオープンにして教育を実現しようとしたのは、フィクションなのでどこまで一致しているかわからないものの、考えさせられた。
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読むだけでお腹が空き、ポジティブになれる一冊。
辻静雄さんの一生を追体験して、溢れんばかりのチャレンジ精神と器の大きさに胸が打たれた。
偶然と、ラッキーと、努力。
好きなことを追い求める一生にしたい。
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食べることが好きな人や料理の専門家で、辻静雄という名前を知らなければ、日本人ならば、真っ先に読むべき伝記小説。
薄っぺらな胸くそが悪くなる小役人の外交官と美食を究めた辻静雄とのやりとりの場面から、一気読み保証できます。
本当のフランス料理を日本で広めたのは、間違いなく主人公たる辻静雄だ。
究めるという疑問に1つの答えを教えてくれる。シビれる。
日本のフランス料理界における開拓者と言っても過言ではない。
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59歳の若さで亡くなつた海老沢泰久氏。今年は生誕70年といふことです。この人の文章はいいんですよ。
何を選んでも良いが、広岡達朗や堀内恒夫などは既に取り上げてゐるので、これまた傑作の誉れ高い『美味礼讃』の登場であります。
『美味礼讃』といへば、ブリア・サヴァランの書物を思ひ浮かべますが、本書は「辻調理師専門学校」の創始者である辻静雄の評伝小説であります。わたくしも彼の著書を昔いくつか読んだことがありますが、まあフランスとフランス料理に詳しいをぢさん、くらゐの認識でありました。
しかし辻静雄がかうなるまでには、かなりの偶然といふか、運命のいたづらに左右されてゐるやうです。大学の仏文科を出たは良いが(仏文科なんてツブシのきかぬ学科をわざわざ.....)、就職試験に悉く落ちて、最終的に大阪読売が拾つてくれたとのこと。大阪読売は当時、東京から進出したばかりで、人材が不足していた事情があり、何とか引つ掛かつたのでした。
ある日、交換留学で来日してゐたアメリカの女子高生を、天王寺割烹学校へ連れてゆく仕事がありました。それが縁でその学校の校長・辻徳一の娘と知り合ひ、後に結婚する事になります。即ち、辻静雄はフランス料理の専門家でも何でもなかつたのであります。結婚後、彼は辻徳一の後継者となるべく、大阪読売の記者を辞めるのでした。
辻静雄は調理師学校に将来ありと睨み、辻徳一の協力を得て「辻調理師学校」を開校します。同時に、生涯の右腕となる山岡亨を事務長として迎へます。この人物がまた中中のもので、彼なくしてはその後の辻静雄の成功はなかつたかも知れません。
当時の料理界といふのは、後輩に料理を教へる習慣がなかつた。どつかれながら先輩の技を盗むものだつたさうです。学校で体系的に教へるなんて考へられなかつたと。それは料理人本人の自信の無さが原因なのでせう。
更に問題は、フランス料理の学校を作つても、教へる人がゐなかつた。当時はフランスまで勉強に行つたシェフでも、ろくな知識がなく好い加減な料理をフランス料理でございと披露してゐたのでした。
それなら、辻静雄本人が渡仏して、本物を勉強するしかない。義父・辻徳一の金銭的援助の元、夫婦でフランス料理行脚を始めます。フランスでは様々な知己を得て、その後のビジネスに大いに役立つことになります。
同業のやつかみからくる種々の妨害や、目をかけてゐた料理人の裏切りなど、逆境もありました。しかし辻静雄はそのたびにそれらを跳ね除けて、料理の総合カレッジを完成させてしまふのです。もはや追随できる勢力はなくなりました。
それでもこの人は、自分が成功者とは思へないのでした.....
一読して、なぜ海老沢泰久が辻静雄といふ人物に興味を持ち、評伝を執筆しやうとしたのかがわかる気がいたします。しかし海老沢泰久さんは押しつけがましい文章を書きません。一見事実をそのまま、のほほんと書いてゐるやうで、実は高度な文章作法が駆使されてゐます。
気取つた、分かりにくい癖に内容の薄い文章を好む人にとつては物足りない文章かと思ひますが、実は達意の文章とはかういふものを呼ぶのだら���とボクは思ふのです。
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ちょっと前までは日本でフランス料理がこんなにもお粗末だったことに驚いた。一気読みできておすすめです。
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日本にフランス料理を啓蒙した辻静雄さんの半生を通して、料理への努力の徹底ぶりはもちろんですが、商売の本質が描かれてる気がします。
なんとなく料理学校といえば辻、くらいのイメージしかありませんでしたが、それまでの自分の理解が申し訳なくなるほど、まさに命を賭けて、本当に美味しい料理と、それを産み出す料理人の育成にこだわり続けられた、凄い先駆者でした…。
非常に緻密で具体的な食材とその料理の描写を読むと、自然と脳内でイメージしながら食べてしまいます。作者の取材力と表現力が見事です。
為す方本人の努力は当然ですが、本当に一生懸命で夢中になる人には必ず協力者が現れるからこそ成功するという理も見えてきます。
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新規事業で、本物とは何かを徹底的に追求する。そして、得た知識は全て、惜しげもなく公開する。こんなやり方は、だれもやらないだろう。ビジネスとして成立するとは、誰も思わないだろう。何もかもセオリーに合わないのに圧倒的に成功する。ビジネスセオリーで動いた人は、彼方に置いていかれる。
本物を求める続ける事が、次第に関係者みんなの望みになり、皆の幸せになる。結果、ビジネスになり、お金がついてくる。
とても不思議な物語。惹きつけられた。
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この本にもっと早く出会っていたかった!と思いつつ、出会えたことに感謝。初めは1990年代の話し言葉感じなど、少々の読みにくさを感じたけど、70ページを超えたあたりから、ページをめくるのが楽しくなった。
もともとは新聞記者だったが、あることをきっかけに本物のフランス料理を生徒に教えることで日本のフランス料理のレベルを上げること、この大義に人生をかけ、大成功した人物、辻静雄のはじまりから丁寧に描かれている。
読む中で、いいと思うフレーズは数多くあったが、特に、辻さんが困難に直面する度に垣間見える、男気ある信念や懐の広さ、決断にに心うごかされることも多かった。
※登場人物、フランス料理名、食に関する書名がよく出てくるのでメモをしながら読み進めると、スムーズに読み進められると思う。(前半、メモせずさかのぼるのに時間がかかった)
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10年以上経ってからの再読。
美食も芸術。必須か?という問いは意味がない。
まだフランス料理が何か全く伝わっていなかった時代に食を文化として捉え、本物を追求した辻さんの眼力と一貫性に敬服する。
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友人から借りた本
辻静雄のフランス料理にかけた情熱の物語。
料理人ではなかったけれど、ある意味、職人。
ここまでフランス料理を探求し、お金をどーんとかけて、日本の食文化を一転させた人だったとは!
特筆すべきは筆者の海老沢泰久。フランス料理の調理法をわかりやすく、簡潔に表現することで美味しさまでも想像させる。オノマトペを使わず、豪華な修飾語を使わずに。あとがきを読んで、確かにと唸った。
フランス料理、食べたーーーい。
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辻静雄氏がフランス料理に出会う前から日本一の調理学校を創り上げる物語。自伝ではなくフィクションとされているので話半分程度に読み進めていたが、異国の食文化がどのように日本に広がっていったか、辻氏の信念や審美眼、さらに彼を支えてくれたフランスのレジェンドなど、食への熱量にあてられながら一気に読むことができた
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彼以前は西洋料理だった。彼がほんもののフランス料理をもたらした。その男、辻静雄の半生を描く伝記小説。(e-honより)