ケガをしないための、頭の体操
2021/11/15 14:41
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ペンギン - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本と上巻を読み始めてから、身の回りにあるものや自分の日常的な選択について反脆弱性を考えることが止まらない。「どちらがより脆弱だろうか?」とか、「この選択を提供する側のアップサイドと消費者側のダウンサイドは何だろうか?」とか。本性を暴く魔法の杖を手にしたみたいで楽しい。
著者は市中のフラジリスタと反英雄に憤りを感じているのがわかる。世界が材料工学的により硬く脆い方向に進んでいるのを変えたいと思っているらしい。個人レベルでは可能でも、社会レベルでは難しいと思う。小説とか思考実験とか、頭の体操にはなるけどね。
投稿元:
レビューを見る
脆いものとは、まだ壊れていなくて、しかも非線形的な効果(つまり極端で稀少な事象)にさらされているものである。というのは、小さな規模(速度)の影響を受けることよりも、大きな規模(速度)の影響を受けることのほうがまれだからだ。(中略)私たちは、ごく小さな変化や衝撃の累積的な影響には左右されないということになる。つまり、小さな変化や衝撃がもたらす影響は、大きな変化や衝撃がもたらす影響よりも、不釣り合いに(非線形的に)小さいということになる。(pp.59-60)
未来を想像してみなさいと言われると、私たちは現在を基準にし、未来予想を作り上げる。現在に新しい技術や製品、いわばもっともらしいものをつけ加えて、過去の発展の延長線上を考えるわけだ。しかも、今の私たちの理想郷に従って社会を描くので、その大半は私たちの希望が占めている。悲観論者と呼ばれる一握りの人たちを除けば、未来はほとんど私たちの願望どおりに描かれるわけだ。(p.127)
私たちは、大きな役割を果たしているけれど変化しないものよりも、変動や変化のあるものに注目してしまう。人間は携帯電話よりも水に依存しているが、水は変化せず、携帯電話は変化するので、携帯電話が実際よりも大きな役割を果たしていると考えがちだ。また、若い世代のほうがテクノロジーに積極的なので、彼らのほうが色んなことを試しているように見える。でも、そういう実験があんまり定着したいという事実には気づかない。(p.139)
宗教には、何でも科学にしたがる頭の固い科学万能主義者たちには見えない目的がある。そのひとつは、科学主義、つまりそういう連中から人間を守ることだ。墓石に刻まれた碑文を見ると、医者に教えなかった命を救ってくれた神々のために、噴水や神殿を建てる人々の様子がうかがえる。ところが、私たちは干渉バイアスや医原病を食い止める宗教のメリットに目を向けることはめったにない。たいていの状況(軽い病気)では、医者に行くのを引き留め、何もしない(つまり自然に治療を委ねる)機会を与えてくれるものは、人間にとって有益だ。(p.207)
デブのトニーにとっては、自己所有権こそが自由人の定義そのものだった。つまり、普段なら絶対にしないような行動を強制させられることのない人間だ。(中略)臆病者は生まれつき臆病者なのであって、作られるのではない。どれだけ自立しても、どれだけ金持ちになっても、臆病者は臆病者のままだ。(pp.278-279)
投稿元:
レビューを見る
『THE SINGULARITY IS NEAR』の著者レイ・カーツワイル氏のことを、タレブ氏は「対極にある」(要は「嫌い」)と言っているが、私は両者とも大好きで現代を象徴する思想家であり実践家だと思う。タレブ氏は連続性を断絶させる不確実性を「ブラック・スワン」という概念を以って説明してみせたが、本書ではさらに昇華し、「反脆弱性」という新語を用いて非線形におけるダウンサイドとアップサイドの非対称性を見事に解き明かす。
タレブ氏の発言はやや棘があり誤った認識も見受けられるが、無責任で言いっぱなしのエージェンシーたちへの痛烈な批判は痛快だ。ダウンサイドが限定的かつオプション性がありアップサイドが∞であることを見極められるリスクテイカ―こそ世界を変える者たちだ。『ブラック・スワン』がエポックメイキング的概念であったように、彼らの行動を讃え推奨する『反脆弱性』の理解は転換点をもたらしえるかもしれない。
投稿元:
レビューを見る
レビューはブログにて
https://ameblo.jp/w92-3/entry-12315989950.html
投稿元:
レビューを見る
本書で語られる基本的な概念については、前作「ブラック・スワン」とそこまで大きく変わるものではない。ただ、本書が前作と大きく異なっているのは、不確実性と倫理に関する問題である。
本書では、不確実性をうまく利用して、自らはダウンサイドのリスクを取らずにアップサイドの果実だけを手に入れるような存在が徹底的に否定される。その根底には、そうした存在が倫理的な観点から許されざるものである、という著者の強い意志がある。
腹を切って死ぬべきなのは誰か?そろそろ血が流されるべきなのかもしれない。自戒の念も込めて。
投稿元:
レビューを見る
・論理は道徳や政治の真実を明らかにするには役立たない道具。真実はニュアンスの中にある
・脆さの見分け方 身の回りにある非線形的なものを見極める
・「この本には新しい内容がない」と書いてきた人たちが別の全例をあげた場合は実質的に新しい内容がある
・もろいものは、累積的な影響は合計と同等の1回の巨大な衝撃がもたらすよりも小さい。反脆いものは、衝撃が増すと利益の増える度合いは大きくなっていく
・カモは議論に勝とうとする。カモじゃない奴は勝とうとする。
・身銭を切らないのは非対称性、オプション性がある。身銭を切らない評論家は当てにしない(公務員、評論家、政治家、アナリスト)
結論
すべてのものは変動性により得も損もする。脆弱性とは変動性や不確実性により損をするものである。
投稿元:
レビューを見る
上巻より悪口が多いかな?ということで★4つ
結論の抽出内容が、この本のすべて。ただし、意味を理解し味わうためには、本を最初から最後まで読まなければならない。
「すべてのものは変動制によって得または損をする。脆さとは、変動制や不確実性によって損をするものである。」
さて、2018年のバブルへの対象方法はどうするべきか?暴落の確率を計算するよりも、暴落した場合の保険をかけておくことが重要。自分事で保険がかけれるか?デブのトニーになって、暴落しても大儲けするOPTIONを検討しよう!
投稿元:
レビューを見る
教科書の"知識"には、ある次元が抜け落ちている。平均の概念と同じで、利得の隠れた非対称性が見落とされているのだ。世界の構造を研究したり、「正しい」か「正しくない」かを理解したりするのではなく、自分の行動のペイオフ(対価)に着目するという発想が、文化史の中からすっぽりと抜け落ちてしまっている。恐ろしいくらいに。いちばん大事なのは、ペイオフ(事象によって生じる利得や損失)であって、事象そのものではない。p42
投稿元:
レビューを見る
相変わらず書き口が難しいものの、上巻より面白い。世間の常識に一石を投じている。エスタブリッシュメントに読ませたい。
投稿元:
レビューを見る
人は確率の大小ではなく脆さに基づいて決定を下している。言い換えれば、「正しい」「正しくない」ではなく、脆さに基づいて主に意思決定をしている。
ひと言でいえば犠牲だ。この「犠牲」という単語は「神聖」と関係がある。つまり、俗世とは切り離された聖なる世界に属する行為なのだ。
投稿元:
レビューを見る
セネカの非対称性の思想やマット・リドレー引用箇所の非線形性のメリットを捉える事ができれば不確実な現代社会でも十分生きていけるのかもしれないが実践することはそんなに簡単ではない事を注意すべきか。技術が科学よりも先に来るという捉え方には大いに納得できた。大変面白かった。
投稿元:
レビューを見る
下巻で印象に残ったのは、「否定の道」と「身銭を切る」という所。舌鋒鋭く他者を批判するところは、読んでいて楽しい物ではなかった。アメリカ人だとスッキリするのかな?
294 ページに、この本の本質を表す言葉が紹介されている。
「全てのものは、変動性によって得または損をする。脆さとは、変動性や不確実性によって損をするものである。」
反脆さは、変動性によって損をしないといったところか…
医原病とか、まあ、なんとなくそうなんだろうなぁ〜とか頭の片隅に残る情報が多かった感じで、結局のところ、反脆さの例を長々と読まされ、モヤっと感が残った。
シンプルに長過ぎる本。
投稿元:
レビューを見る
とても示唆に富む本なのだけど、色々考えてしまって進みませんでした。でも、もう少し通して理解しないといけない内容でした。自分もモデルを作っていたからわかるけど、モデルは基本的に線形結合。特に一昔前の多変量解析は線形推定検定論以外の何物でもない。ただ、こうした推論で行くと、どうしてもテールの事象、すなわち出現確率が小さくて、でも起こった時のエクスポージャーが大きなものは過小評価されてしまう。特に損失期待値などを出そうものなら、頻度の小ささでエクスポージャーの大きさを見失ってしまう。ただ、テール事象は思ったほど起こらないことではない。そして起こった時に関連性があって、連鎖的に起こる事象も無視できない。その時のエクスポージャーの大きさは推論の域を超えているかもしれない。それから、昔からあり淘汰されていないものが正しいという考え方。リスクを取っている奴が偉いという考え方。どれもこれまでの自分の思考と違うように思うけど妙に説得力がありました。この辺が消化しきれていないけど、とても気になった点。いずれまた整理します。
投稿元:
レビューを見る
上巻につづき、おすすめの本です。
七面鳥問題というものがあります。
七面鳥はかいがいしく世話をしてくれる飼い主からの愛を毎日感じて生きています。今まで毎日受けている世話という"データ"によると、今後もずっとこの幸せな生活が続くことが予測できる、と七面鳥は考えました。この幸せが終わりを告げる、という証拠はどこを探しても見つからないのですから。しかしクリスマスイブがやってくると、七面鳥は屠殺されて飼い主の食卓に並びましたとさ。
著者は、今までのデータを元にして今後を予測するのはとても困難であることの例として、この七面鳥問題を挙げています。"証拠がない"ことは、"ないことの証拠"ではないのです。
馬鹿馬鹿しいと思うかもしれませんが、実際多くの人はこの七面鳥と同じような間違いをおかしています、
例えば2008年頃の投資家達。彼らはこの成長が終わる"証拠はない"、として、今後もこの成長が続くと"予測"していました。しかしリーマンショックによってその成長は終わりを告げます。
この七面鳥の誤謬からわかるように、現実世界という極めて複雑なシステムにおいては、予測というのはほぼ無意味です。どんなにデータがあっても、この予測不可能性は原理的にかわりません。
上下巻を通して、著者はこのような世界でどう生きていくか、についての方針を与えます。
この下巻の付録にはグラフを用いたわかりやすい解説があり、本編でなんとなくの理解で終わっていたものも、数学的、視覚的な表現で理解を深められるようになっています。
投稿元:
レビューを見る
「まぐれ」「ブラックスワン」のタレブの本。
この人の本は久し振りに読んだけど相変わらずのキレキレ。文句なしにおもしろい。
反脆弱性の概念は一見分かりにくいのだが、
ながーい上下巻を通してイヤと言うほどエッセンスを語られるのでおぼろげながらも言いたいことは掴めてくる。
今まで教えられてきたリスクの観念とか、
投資の観念からは際立って異なるかんがえかたなので、
タレブの言っていることは頭では理解できるものの、
どこまで実践できるかというとなかなか難しい。
でも、今後本を読む際に、批判的な見方やタレブ的な見方をする事もすごく大事という観点をもてたのは良かったと思う。
ブラックスワンよりだいぶ難しい気がするので、
タレブファンにはオススメ。いきなりこれから読むと面食らうかな。