近代日本の対中政策の中心を握っていた関東軍の歴史を入念に追った作品です!
2020/03/13 09:32
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、近代日本史に大きな影響を与えたといわれる関東軍の満州における行動を丁寧に解説した画期的な歴史書です。日露戦争の終わりから太平洋戦争による敗戦までの約40年間の長きにわたって満州で対中国戦略の指揮をとってきた関東軍は、誰もが学校の歴史の授業で学び知っていますが、その関東軍が、実は、陸軍中央の統制にと向いて独走した事実まではあまり知られていません。同書では、その点を丁寧に掘り下げ、その後の対中政策に大きな影響を与えた張作霖爆殺事件、満州事変、ノモンハン事件などを取り上げながら、近代日本における関東軍の歴史を見ていきます。内容も、「第1章 生いたちと性格」、「第2章 張作霖爆死事件」、「第3章 満州の演出者たち」、「第4章 ノモンハンの敗北」、「第5章 70万軍隊の終焉」と非常に興味深いものとなっています。
全体像と各事件や事象の関連性を有機的に解明している本書は貴重な文献
2006/01/01 19:23
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
関東軍の誕生から崩壊までの全容を、文庫本1冊で記述するのは、無理があるようだ。時系列的なつながりがわかるように書かれているが、粗筋だけなような印象をうける。関東軍がなぜ政府や軍中央の意向を無視して独走したのか、その根本的原因が歴史的経過と地政学的な観点から解明されているようだ。関東軍が自分のおかれた立場から局所的な観点でのみ行動し、世界政治の大局を考えなかったことが、日本を困難な立場に陥れ、最終的には無条件降伏による敗戦となった。満州と関東軍について研究することは、日本現代史の解明と反省に必要なことであろう。細部には目が行き届かないことがあっても、その全体像と各事件や事象の関連性を有機的に解明している本書は、貴重な文献といえるであろう
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唐突に関東軍を読みたくなって、積読を崩す。
なるべくこの手の本は、アマゾンの書評を読み、落ち着いて冷静な分析をされているものを選ぶことにしているが、この本はよかった。
なんだか関東軍というのは、日本人の特徴がよく出ていて、自分が今働いている会社にもとてもよく似ていて、ため息が出た。
調子に乗ると、こういうことをするよね、日本人は…ということの典型パターン。消滅の仕方も、関東軍を批判するだけで終えてはならない。胸に手を当ててよく考えねば。
軍人は軍人にすぎず、政治家は政治家にすぎない。
そんなこともよく分かる本で、関東軍を調べていくときに初期の方に読んでおくべき本だと感じた。
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2015.10記・
関東軍の歴史。
本来は北方防備(対ロシア戦)のための一地方軍が、日露戦争で得た権益維持・経営のため身の丈に合わない背伸びを強いられ、それが関東軍の前身となったこと。現地民衆の信頼を得られない、と軍政に徹底的に反対したのは伊藤博文(軍と外務省との勢力争いで徹底的に後者の肩を持った)。
そして関東軍暴走の契機とも言える張作霖爆殺事件。当時、野党の民政党が自ら現地に乗り込んで調査するなど、国民全体が関東軍を疑っていたこと。それでも続くノモンハンでの独走と大敗。対ソ戦準備で集中的に戦力を集められ、栄華を極めた関東軍も、太平洋戦争では何ら役割がないまま兵力がどんどん南方に引き抜かれ、最期のソ連の対日参戦に当たってはほぼ戦わずして壊滅。
ソ連が攻めてきた時、日本軍は居留民を守らずに真っ先に逃げた、と戦後さんざん叩かれた。地域によっては大いに誤解ありで、楯となって日本人の避難を助けた部隊もいた一方で(例えば内蒙古)、そうでない部隊がいたのも事実なようだ。あるひとつの経験談だけで全体を語ることはできない。
最新歴史学研究の成果から見るとやや古い見解なども含んでいるようだが(出版は1960年代)、この領域における基本書としての地位は揺らいでいない。日本型エリート組織のある種の特徴を完璧なまでに体現している関東軍、組織で働く人にとってはいろいろ思うところも多いであろう・・・。
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満州国を考えるにあたり避けては通れない関東軍。なぜ、旅順や大連、満鉄付属地を守備するだけの役割を与えられた軍が日本を戦争に引きずり込んでいったのかということについて、関東軍の変遷を中心に解説してある。非常におもしろい本だった。
関東軍参謀から感じるのは、十分に説明を尽くさず相手に条件をのませるという官僚的な狡さと、相反する感情的な判断、甘い見通しである。なんというか、どう考えても冷静に判断したとは思えないのである。仮想的がソ連で、常にそちらを向いていたということだけではなんというか承服しかねる説明であって、部分最適、視野狭窄の謗りを免れない。
その大局観のなさが、居留民を置いて関東軍のみ避難するという終末にあらわれているように感じられてならない。
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なんかもっとこう、関東軍のディープな世界観に浸れるか、関東軍ってなんだろうという問いにズバッと答えてくれる本だと思って買ったが、満州事変の本ですと言われても納得してしまうくらい、タイトル詐欺だった。
関東軍の由来について序盤で説明されているが、雑。カレーの作り方説明するのに「白ごはんを炊き、ルーをかけたら完成です」って言われるくらい大事なところが抜けている感がすごい。
文章自体も筆者の想像じゃないのかそれはと思わせられるところがチラホラ。一応、日露戦争直後にうまれて、1928年に二十歳なので、日本が坂道ごろげ落ちるのにつきあいながら大人になったということになろうか、ところどころ個人の体験も交えて話しているところは面白いが、文庫とは言え、このタイトルでこの内容は少し貧弱。
解説によると、作者は戦中にいろんな資料を保管していて、敗戦に際してその資料を燃やされないように隠してあったらしい。どれも今となっては一級資料なんだとか。
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日露戦争後に満州に駐屯し、太平洋戦争の終結まで日本の運命を揺さぶった関東軍の歴史をたどった本です。
著者は、「関東軍は終始一貫ロシア(ソ連)を仮想敵とする“北向きの軍隊”であり、それがこの軍隊の基本的性格を形成した」と規定しています。そして、ソ連に対するそなえを固めることが関東軍の究極目的であり、満州事変をはじめとする関東軍の「独走」とみられる行動は、この目的のためのものであったという観点から、関東軍の行動が解明されています。こうした観点から関東軍の行動を見てゆくにあたっては、ノモンハン事件がひとつの焦点になりうると思われるのですが、1965年に刊行された本書では史料の制約が多く、他の本で補う必要がありそうです。
また本書の「解説」を担当している戸部良一は、「満州には租借地の関東州や満鉄(南満州鉄道)の付属地を中心として、大量の日本人居留民が住んでいたこと」を指摘し、関東軍のもうひとつの性格として、「このフロンティアに住まう日本人居留民と、彼らの生活を支える日本の権益とを保護するという任務も併せ持っていたという観念が、関東軍の使命感や任務意識を一層強めた」ことをあげています。このことは、関東軍の「理想」と「現実」の乖離に目を向けようとする立場にあっても、留意しておくべき点であると考えます。
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島田俊彦著『関東軍 : 在満陸軍の独走
(講談社学術文庫)』(講談社)
2005.6発行
2024.2.20読了
本書は1965年に中公新書から刊行された同名の著作を文庫化したものである。関東軍に関する歴史研究書として最も基本的な文献と言われている。
巻末の解説によると、原書が刊行された1960年代半ばは、マルクス主義歴史学の影響が弱まり、史実に基づいた実証的な歴史研究がようやく緒につき始めた時期にあたり、日本の近現代史に関する書物が続々と出版された時期なのだという。そして、関東軍の視点から諸事件を通時的に考察し、関東軍の全体像を明らかにしようとした研究は、本書が初めてであったという。
本書は関東軍と銘打っているところから了解されるように、関東軍の成立から消滅までを描いている。特に関東軍が成立するまでの前史について詳しく、類書である及川琢英著『関東軍』を上回っている印象を受けた。過去の人々の顔が浮かんでくるような記述の仕方になっており、読んでいて面白い。張作霖爆殺事件や満洲事変、ノモンハン事件、関特演といった歴史的大事件を中心に描いているので、非専門家でも分かりやすいように思った。しかし、その分、奉直戦争や華北工作、内蒙工作といった事柄に関しての記述が少なく、満洲現地勢力についての記述も少ない。関東軍がなぜ独走するに至ったのか、その核心に迫り切れていないように感じた。
日本は日露戦争で関東州や南満洲の鉄道経営権等を得たわけだが、著者曰く「大荷物」だったという。それならばなぜそのような条件で講和したのか疑問に思った。関東軍の意思に関わらず、講和の成り立ちからして満蒙領有は将来の規定路線だったのではないだろうか。
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007780296