ブラッドベリはまずこれを読め!
2018/11/15 23:21
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
東京創元社さんは奥ゆかしいですね。
先行の別訳は1978年発行で、1987年に版元の
サンリオSF文庫が廃刊となり、今回の新訳が出るまで
長らく絶版状態でした。
ファンは待ち遠しかったはずの一冊、ばーんと新訳を
うたえばいいのに、それをしないのは十年・二十年先を
見据えているからなのでしょうね。
ロングセラーとなること請け合いの素晴らしい一冊でした。
ブラッドベリは二冊目の読破です。
一冊目に長編を読み見事に砕け散りました。
この作品を読んで納得です。
ブラッドベリの特異な世界観は、まずは短編で
慣れるべきだったのですね。
SF作家のイメージがありますが、古典学者のハイエットの
序文によると、幻想物語の作家と称されています。
宇宙生命体が出てくる作品はもちろん、アナザー・ワールド的な
話やミステリー仕立ての作品であっても、表現が独創的で
自己陶酔的な雰囲気を感じます。
翻訳者解説によると、そういった分かりにくい形容を
分かりにくいままニュアンスが伝わるように苦心されたそうです。
翻訳例を読んで納得ですし、本文を思い起こすと
心当たりがあります。意訳しすぎていないのです。
ある意味、挑戦的な翻訳と言えます。
正直に言うと、分からなくて頭から抜けていってしまい
理解不能に陥った部分もあります。
でも立ち止まって考えさせられる引っかかり感があって
心地いいのですね。
そんな摩訶不思議な魅力があるのも事実なのです。
名短編も多いですよ。
他の作家さんに影響を与えた作品も、しばしば気がつきます。
表題作の万華鏡などは、あちこちの作品で片鱗が見られます。
サイボーグ009の有名なシーンのモチーフにされているようですし、
わたしの好きな漫画でも使われていました。
ぱっと思いついたのが初代ガンダムです。
大気圏突入間近の戦闘シーンで、逃げ遅れたザクが
ばらばらになるシーンは、間違いなくこの話に影響されています。
小川洋子さんの琥珀のまたたきの元ネタもありました。ああびっくり。
その作品の唯一の疑問点が、数ある宝石の中からなぜ琥珀を
選んだのかだったのですが、一目瞭然です。
だって元のお話では琥珀がモチーフなのですから。
全二十三篇の短編集です。
分かる作品と分からない作品、しっくりこない作品、
共感する作品。振れ幅がとにかく大きいことが最大の魅力です。
それでいてブラッドベリらしさが一貫して漂っているので、本当に
不思議な作品集ですね。二度読み、三度読み必至です。
草原という作品。未来の家庭で、子どもの情操教育に
悩むお話です。子どもの残虐性に気づき、心を痛める親という
ストーリーに思えるのですが・・・見えたのですが。
分からなくて三回読みましたよ。
小さな暗殺者や、骨という作品は、グロテスクに感じて
夢見が悪いです。
刺青の男はシュールで、鮮やかな光とにぶい光に包まれた
作品です。
霧笛はロマンチック。こびとの愛らしさ、せつなさ。
すばらしき白服にいたってはコメディーなのですよ。
最後に、やさしく雨ぞ降りしきるで、ディストピアを見せて
こちらをぶん殴って終幕になります。
変幻自在、圧倒されっぱなしです。
一篇一篇のごつごつした重さは、幻想という言葉は
似つかわしくないです。むしろ、あり得ない表現に
彩られた現実感を感じるのです。
浮かんだ言葉は超現実です。シュールレアリズムの訳語
ですが日本語のほうがしっくりきますね。
非現実の妄想とはニュアンスが違い、なかなかお目に
かかれない雰囲気です。
ブラッドベリはまずこれを読め、声を大にして言いたいです。
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サンリオSF文庫から刊行されていたものの新訳版。
『自選傑作集』と銘打たれているだけあって、ブラッドベリの書いた様々なジャンルの短編がバランス良く収録されている。
各短編は概ねホラー、SF、ファンタジーのどれかに分類されると思うのだが、ジャンルとしてはホラーに含まれるものが一番好みだった。
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・レイ・ブラッドベリ「万華鏡」(創元SF文庫)に は「ブラッドベリ自選傑作集」とある。書名通り、表題作を初めとして、作者自選の「草原」「メランコリイの妙薬」「刺青の男」「霧笛」等々の26編を収め る。この中には「たんぽぽのお酒」や「火星年代記」のエピソードも含む。本当に作者選りすぐりの短編集である。特定のジャンルに偏ることもないので、ブ ラッドベリのさまざまな面を知ることができる。おもしろい。本書扉に、「天才作家の幅広い創作活動を俯瞰できる、最大にして最適の一冊。」とある。この先 にも、これだけの内容のブラッドベリの短編集は出ないだらう。たぶんこの一文は正しい。
・巻頭第一作「アンリ・マチスのポーカー・チップの目」は個人的にあまり好きではない。なぜかういふ作品を巻頭に持つてきたのかと私としては疑問に思つて しまふのだが、こんなことを考へる私は「世界はなんと想像力に欠けているのだろう」(29頁)といふ、その「世界」の住人だからなのかもしれない。次の 「草原」、子供の豊かな創造力が大人を食ひ殺す物語である。子供達の両親もまたこの「世界」の住人であつたがゆゑに、子供達の想像力を恐れ、それに食ひ殺 されたのである。子供達の名前がピーターとウェンディであるのは十分に考へられた結果なのであらう。ピーターは永遠の少年といふつながりで次に「歓迎と別離」が置かれてゐるのであらうと思ふのだが……この物語の主人公ウィリーは「十二歳の小柄な少年。ただし、スーツケースには四十三年前に生まれたことを示す出生証明書がはいっている。」(63頁)見かけは少年、「身長四フィート、ひげを剃る必要はな」(64頁)い。肉体的に永遠の少年である。精神的には、 しかし、「ぼくにも仕事があるんだ。孤独な人々をしあわせにする仕事。(中略)ぼくがやらなければならないのは、母親のいいつけを守る息子、父親の自慢の種になることだけ。」(72頁)と考へる立派な大人なのである。それゆゑにその永遠の少年が発覚しさうになると、ウィリーは新たな居場所を求めて旅に出 る。その繰り返しである。私達の「世界」の住人はこの永遠の少年を認めない。人は老いて死ぬ。老いて死なぬこと、いや老いることのないことを認めない。 ウィリーはそこを出るしかない。これは例の萩尾望都「ポーの一族」と同じ設定ではないか。こちらが1953年発表であるからには、この二つに何らかの関係 があるとすれば、こちらが本家なのであらう。ピーターパンのやうにこの「世界」と孤絶して生きてゐなければ、永遠の少年の運命はかくの如きものであらう。 その意味ではいささか平凡と思はれる物語だが、ブラッドベリの嗜好がよく分かる作品である。実は私はこれが最もうれしかつたと書く一方で、「たんぽぽのお酒」がその一部しかないのは残念だと思ふ。と言つても本書が自選短篇集であるからには、さうせざるをえなかつたのは分かる。本人もそのあたりを悩んだのか もしれない。それでも、私はやはり永遠の少年たるブラッドベリの物語が好きである。ただ、表題作の「万華鏡」や最後の「やさしく雨ぞ降りしきる」のやうな終末の如き物語も好きである。「やさしく」は2026年の物語である。「火星年代記」��一部だが、地球の終末を描く。現在からすると近い将来だが、発表された1950年からすれば十分に遠い未来であつた。未来はかくも機械化されてゐるといふわけで、それが人間がゐなくても動き続ける世界である。「万華鏡」の登場人物が何もない宇宙に放り出されて消えるしかない運命にあるのと対になる。幅広い作品の中で、私にはやはりかういふのがブラッドベリだと思ふ。
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ブラッドベリ自選傑作選。
宇宙空間へ放り出された飛行士、灯台にやってくる巨大生物、暗殺者の赤子、白人が少数者となった世界など発想が面白い短編が多い。
コメディ要素の「すばらしき白服」が好み。ニートたちが金を出し合って、一つの白いスーツを購入し、みんなで使うという展開が好き。SF要素全くないけどね…
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レイ・ブラッドベリの自選傑作集。
怪奇小説、SF、心温まるようなものまで。たんぽぽのお酒は、選り抜きとはいえ文庫で読めるのはこれくらいなんじゃないでしょうか。
レイ・ブラッドベリの入門に最適な一冊です。
私は今まで二冊程しか読んだことがないので、メキシコものを読んだのは初めてです。
特に気に入ったのは表題作の「万華鏡」です。宇宙船が砕けて、宇宙に放り出された乗員たち。推進器具もないので、全員がどんどん離れて、無線電話で届かなくなるまで会話します。極限の状態で人間としての差を見てしまい、一人っきりで悩みます。自分に何ができるだろう?そんな言葉と、最後のおちの文章でなんともいえない気分になります。
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短編集。SF。ファンタジー。ミステリ。ホラー。幻想。
多様なジャンルの作品を詰め込んだ一冊。
『火星年代記』収録の「イラ」「夜の邂逅」「やさしく雨ぞ降りしきる」は再読。初読のときより楽しめた。
好きな作品も嫌いな作品もあり。やはりSFが好き。ホラーもなかなか。
全体的な満足度は☆3くらいだが、「万華鏡」「霧笛」「やさしく雨ぞ降りしきる」が傑作だと思うので、気持ち甘めに☆4に。
「草原」ヴァーチャルリアリティ。オチが良い。
「歓迎と別離」切ないファンタジー。永遠の少年。
「メランコリイの妙薬」不思議な話。ちょっとイカれてる。
「イラ」火星。とある火星人のファーストコンタクト。
「小ねずみ夫婦」奇妙な隣人。よく分からない。
「夜の邂逅」幻想小説in火星with火星人。
「骨」ホラー。自分の骨を恐れる男。微妙。
「万華鏡」宇宙漂流SF。人間の醜さと宇宙の美しさ。宇宙で死ぬときに、何か良いことができるのか。15ページと短いながらも感動的。
「日と影」ユーモア?イカれた男。
「刺青の男」ホラー。オチは読めたが、奇抜な設定が印象的。
「霧笛」恐竜。センチメンタル。
「熱にうかされて」SFホラー。ジワジワと怖さが迫る感じ。なかなか良い。
「やさしく雨ぞ降りしきる」SF。無人の家と機械。哀愁漂う。
他13作品、全26作品。
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目次
・アンリ・マチスのポーカー・チップの目
・草原
・歓迎と別離
・メランコリイの妙薬
・鉢の底の果物
・イラ
・子ねずみ夫婦
・小さな暗殺者
・国歌演奏短距離走者
・すると岩が叫んだ
・見えない少年
・夜の邂逅
・狐と森
・骨
・たんぽぽのお酒
イルミネーション
たんぽぽのお酒
彫像
夢見るための緑のお酒
・万華鏡
・日と影
・刺青の男
・霧笛
・こびと
・熱にうかされて
・すばらしき白服
・やさしく雨ぞ降りしきる
読んだことのある作品もない作品も、通して読めばすべて懐かしいブラッドベリの作品になるのはなぜなんだろう。
これらの作品が書かれたころは未来はバラ色で、苦しみや不幸なども科学技術の進歩が解決してくれると思われていたはずなのに、どの作品にも喪失の痛みと、二度と戻ることのできない何時かへの哀切があふれているのはなぜなんだろう。
そして。
学生の頃せっせと読んでいたブラッドベリは、私の好きなものの宝庫だったと気づく。
意表をつくどんでん返しなどない。
不穏な予感は不穏のまま幕を閉じる。
けれども、そこにある昏い予感は、決して現実と交わらない作品世界から確かな痛みを私の中に残すのだ。
不思議だな。
死にゆく火星人に会ったこともなければ、2155年の絶望に追いかけられたこともないのに。
そしてやはり『たんぽぽのお酒』は名作だ。
今この時を留めておくために、彫像のように動きを止める。
友との別れの時間が永遠に来ないように。
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収録されている「たんぽぽのお酒」連作だけ読了。
瑞々しいってこういう事を言うのかな、って思える。少年期を切り取った、水彩スケッチのような小説。
たんぽぽのお酒と日本語で言うと可愛らしさがあるけど、原書の英語だとdandelionになるんだろうか?リズムの良さとか勇ましさもある語感なので、原語で読んだらまた違う味わいがありそう。
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SFやファンタジーよりも、文学に近い。訳にもよるかもしれないが、言葉選びや表現にハッとする。たまに難解でハァッ?とする。
起承転結やオチがはっきりしないのもいい意味で文学。鬱展開あり、バカバカしいのあり、全体としてあまり暗くはない。
万華鏡は名作。霧笛も好き。
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中村うさぎさんが霧笛の話をしており、この本を読もうと思った。読み進めていくにつれ、私はどんよりとした海に呑み込まれる気持ちになった。霧笛は孤独を象徴していると思う。物語に出てくる頸長竜は仲間の声が聞こえたと思って、暗い海の底の底から長い時間をかけ、泳いできた。なのに、仲間の正体は灯台。結局、竜は大きな声で叫び叫び叫び、灯台を壊して、また海の底で眠りにつく。この孤独感は、今作の竜だけではなく、私たち人間も一生背負っていくものだ。いくら友達や恋人や家族がいても、孤独感は消えないと思う。でも、私たちはこの孤独を背負って生きていくのだと、頸長竜が教えてくれた。