「この本は、一冊の書籍としては初めてエロマンガの表現に関してまとめられたものとなるだろう。」はじめにより。
2024/02/27 10:12
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投稿者:やまだち - この投稿者のレビュー一覧を見る
深夜のテレビ番組で紹介されたのを機に手に取りました。思っていた以上にアカデミックです。
ネタバレがあります。
コンテンツは以下の通りです。
1.はじめに
2.「おっぱい表現」の変遷史
3.「乳首残像」の誕生と拡散
4.「触◯」の発明
5.「断面図」の進化史
6.「ア◯顔」の系譜
7.「くぱ◯」「らめ◯」の音響史
8.規制修正の苦闘史
9.海外への伝播
10.その他の表現
11.補遺
12.巻末付録
13.あとがき
紹介された作品のワンカットやインタビュー、座談会なども収録。
例えば第1章「おっぱい表現」変遷史の場合、おっぱいの描写がどう変化したのか。当時の作品を掲載しているので興味深い。サイズや乳首、乳輪の描き込みで時代やフェチを感じます。
そして何気なく見ていたエロ表現が、こんなにもあることに気付かされました。エロ表現が漫画のジャンルを越えて描かれていることにも言及して面白かったです。
今後はエロ表現にも注目しながら作品を読みたいと思います。
ただ私が入手した第15刷でも誤字脱字があったのは残念です。また、おっぱいの揺れに関し、
「元来用いられてきたおっぱいの揺れ、輪郭の振動で表現する波を、横揺れ(S波)とすると、乳首の残像で動きのダイナミクスを表現した縦の揺れ(P波)が発見されたのだ。(P.082)」とあります。
P波、S波というワードは地震波からきたものだと仮定しましょう。地震で観測される縦揺れ(音にしたらガタガタ)のP波はprimary waveつまり最初の波、横揺れ(音にしたらユサユサ)のS波はsecondary wave、第二の波です。地震波ではP波→S波の順です。
ところが、エロマンガ表現においては輪郭の振動による表現の方が先なのに横揺れだからS波、あとに生まれた表現「乳首残像」は縦揺れだからP波とすると、個人的にそぐわないのではと思いました(私の考え違いであれば申し訳ない)。
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石恵の巨乳表現に関するインタビューとGANTZ作者の乳首残像に関する議論はなかなか秀逸だった。あとはくぱぁとらめぇのオノマトペ誕生をめぐる論説だけは読んでおこう。
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このような漫画は表現の自由度が高く、常に斬新かつ琴線に触れる方法を探究しているため、アイディア勝負となっており、大変興味深い。
この本では特徴的な、胸の揺れ表現、断面図、独特のオノマトペ(くぱぁ・らめぇ等)、アヘ顔、修正について特に深く考察されている。
それらが生まれた背景に、表現規制に対する反抗も大きな要因だ。(規制はイノベーションを生み出すか?)
また、それぞれの表現を生み出したイノベーター作家のインタビューも掲載されていて、彼らが如何に漫画の特性を生かして新しい方法を工夫しているかが判る。
日本の漫画文化は、間違いなく世界で最も多種多様であろうし、競争とそれに伴う進化が素晴らしいと感じた。
漫画の実験場としてこれからもこのジャンルは発展して欲しいと思う。
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エロマンガの様々な表現について、どのように使われ始め、広まっていったのかを解説した本。参考画像が多数あるため、エロマンガに詳しくない人間でもスムーズに読み進めることができる。
しかしこのようなエロマンガゆえに現れた特殊な表現の数々を見ていると「フィッシャーのランナウェイ」を思い出す。エロマンガと読者による共進化の成れの果てが、断面図やアヘ顔なのかもしれない。
しかしこういう本こそKindle化すべき本ではないだろうか。興味があったので紙の本でも早々に購入したが、これを公共の場で読む気は起きない。
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エロマンガの作者の創意工夫によるエロ表現はどのように広がり、エロマンガ表現の『記号』として定着したのか?作品の絵を参照しながら解説した本。エロマンガに詳しい訳じゃない(本当に!)けど分かりやすかった。
そんな解説書ではあるけど、この本の魅力の一つとして著者の言い回しのおもしろさがある。私は門外漢ゆえに、出てくる用語が業界用語なのか、著者の造語なのかが判別できない。例えば、『ロリコン原理主義派』『乳の性格=「乳格」表現が進んだ』とかおもしろいんだけど、著者の創作言語な気がしてならない。『金髪の外人が黒船として巨乳開国を迫ってきた』とか『巨乳待望論』、『世は巨乳戦国時代へと突入』やらちょっと何言ってんだ(笑)と思う。『マンガの中におっぱいが描かれたときから、おっぱいは常に揺れてきた歴史がある』とか、そんな歴史を聞いたのも初めてだ。ただ著者は膨大な資料にあたっているし、若干ふざけつつも研究者としての真摯さが感じられる。
この本を読みながら、官能小説の中で使われる言語表現を辞典にした「官能小説用語表現辞典」を思い出した。ただ、この本は表現辞典ではなく表現史なので、絵の表現の移り変わりを比較分類し、説明する必要がある。たとえば「乳首残像」の絵は、どこからどこまでが「乳首残像」と言えるのか?「乳首残像」と分類した表現はどのように進化したか?を分類しながら説明するのは難しい。著者の主観になりかねないが、その表現の細部の差異を一生懸命見ていこうとする情熱は大変なものだ。エロは細部に宿るのかもしれない。
エロ描写はマクロの引いた視点で描いてしまうと3行くらいで終わってしまう。エロとして成立させるためには、その一瞬を切り取って、微に入り細に入りミクロな視点で描く必要がある。しかし「断面図」の章の最後で軽く触れられているが、精子と卵子まで描こうとするとそれは「生命の神秘」みたいなスピリチュアルな話になる。つまり性から聖への転換が起こるのかもしれない。
エロマンガと官能小説で共通しているのは、直接的な猥褻表現が規制されたことで多様な表現が生まれたのではないか、という論点。この点について、つい納得しそうになる。しかし本当にそうだろうか。例えば、おっぱいの表現は大きな規制がないにも関わらず多様な表現が生まれた。特に規制がなくても別の多様な表現が出て来るのではないだろうか。
作者インタビューの中で「何がエロいのかわからなくなった」と語っている人がいて、精神を病んだギャグマンガ家が「何がおもしろいのかわからなくなった」と言っていたのを思い出した。何事も追及すると哲学的になるようだ。ギャグマンガ家は精神を病んでもエロマンガ家は病まない気がするが、どうだろう。
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北海道で有害図書指定されて、出版元や日本マンガ学会が抗議したというニュースを見て買ってみた。
控えめに言って、面白い。
kindleで1/3くらい読めるので、まえがきだけでも読んで欲しい。 「GANTZ」や「いぬやしき」の作者である奥浩哉が発明した、おっぱいが激しく揺れる様子を暗闇の中のヘッドライトの残像のように表現する『乳首残像』。
葛飾北斎が春画で描いた「蛸と海女」がルーツと言われる『触手プレイ』。
「くぱぁ」や「らめぇ」と言ったエロマンガ発祥の独特な表現。
たかがエロマンガと言えど、作者はエンターテインメントとして(もしくはガチで)、読者に喜んでもらえるように試行錯誤して新たな表現を生み出している。
そこにエロも王道も関係ない。
エロマンガで発明され、少年・青年誌に取り入れられた表現もある、にはある。
むしろ、海外ではCOOL JAPANの一部として確実に受け入れられ『HENTAI』『YURI』『FUTANARI』などはそのまま翻訳されずに使用されている。
パターンとしては『TUSNAMI』と同じだ。
日本ではタブー視される性の問題。
しかし、かつてのエロ本である春画も、どこかのスケベが保存し、研究したからこそ現代に伝わっている。
現代のエロ本を研究することは悪いことではない。たぶん。
読ませたくなければ、レーティングをR18にすればいい。
てか、有害図書指定って『即販売禁止』じゃないのか。
バトル・ロワイアル、マンホール、多重人格探偵サイコなどなど、読んだことある漫画が有害図書に指定されてた。
でも普通に売ってるし。
なんだこの制度?
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一部の自治体で、有害図書にしていされているらしい。思うに、エロマンガのサブカルチャー史としての役割は果たしている。偏見持たないで、評価すべきじゃないかと。
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エロ漫画における表現のおこりや変遷を概観した1冊。
エロ漫画における巨乳、触手表現の変遷や、またくぱぁやらめぇなど漫画特有の表現についても考察されている。
多くの章では画像の参照が多いため、表現の変遷や漫画家による違いなども把握しやすい(電車では読めないが)。
これは完全に偏見だが、文章のちょっとした誇張表現に著者のオタクらしさを感じて、読んでいて楽しい。
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エロマンガの研究には、永山薫『エロマンガ・スタディーズ』という名著がある。発表された2006年当時、エロマンガというジャンルは、研究や評論の対象としてはほぼ手つかずの分野。その未開の地を開拓して、エロマンガの歴史やそこで描かれるセクシャリティを体系立てて解説し、エロマンガ評論というジャンルをつくった画期的な本だった。この『エロマンガ・スタディーズ』に衝撃を受けてエロマンガ研究を始めたのが、本著の著者、稀見理都(このペンネーム自体がエロマンガ的)だ。
本著は、稀見理都の著作として2作目になる。そこで表現史を選んだのは興味深い。エロマンガは、その性質上、一般のマンガでは見ることが少ない部位やポーズ、シチュエーションを書く。また、エロという機能性が求められる。その結果、例えば「アヘ顔」や「乳首残像」のような、図像的に一般のマンガでは見る機会が少ない、ある意味では「とがった表現」が見受けられるからだ。表現の著しい進化や、それが一般のマンガに環流していく様子は、「第1章 「おっぱい表現」の変遷史」を読めばよくわかる。
一般のマンガ評論の分野で、表現論が大きく注目されたのは1995年に出版された「マンガの読み方」からだ。それまでの評論ではほぼスルーされていたマンガの「表現技法」について、手探りで見つけていくような内容だった。そこから2005年の伊藤剛「テヅカイズデッド」に至るまで、マンガ表現論ができあがる過程は、非常にスリリングであった。当時のムーブメントでは、どうマンガ評論を刷新し、新しくジャンルを作っていくかが、強く意識されていたように思う。
あのとき感じた「ジャンルを作っていこう」という熱気が本作にも宿っている。エロマンガ研究は、ジャンルの性質上、研究者がそもそもいないうえ、研究の基盤になるようなアーカイブやDBが存在しないそうだ。稀見理都は、どうもそれを整えながら研究をしようとしているらしい。エロマンガ界に逆風が吹いているなかで、このような人がいるのは、心強い。
エロマンガを唾棄すべきものだと思っている人も、だまされたと思って、是非この本を読んでほしい。
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エロマンガの歴史をあくまでアカデミックにまとめた1冊…とみせかけて、それ以上に文章全体から著者のエロマンガに対する熱い想いがヒシヒシと伝わってきて凄く楽しく読めました。内容自体もボリュームが多いものの大味になっておらず、豊富な参考画像と照らし合わせながら読めますし、とても充実していたと思います。
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・少年誌、エロマンガ、映像作品はサイロ化されているわけでなく、相互に影響を与えあっている
・表現、概念はどこかで生まれた後、バズって市民権を得ると「記号化」される
・規制が表現の進化を促進する
・「くぱぁ」と「らめぇ」はマーク・チャンギージーに解説してもらいたい
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パワーワードがすさまじかった…笑
おっぱいインフレーション
乳首残像
揺れはついに光速を越え
蛸と海女
断面図の貴公子
修正は美学だ
デビデ像のハート目
エロマンガ女子会
単なるエロマンガと侮ることなかれ。表現史の勉強にもなるし、何より筆者のエロマンガに対する情熱、知識に驚く。あとがきにも様々な方の協力があったと記されているが、それでも筆者の表現力(時々理系的な言葉が出るのが面白い)とエロ漫画の知識の豊富さに尊敬を抱きます。
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借りたもの。
エロ漫画定番の表現の種類・ルーツを体系的にまとめ分析した、ある種の禁忌?に踏み込んだ一冊。
それらは性への関心・好奇心、そしてファンタジー(妄想やマンガとしての面白さへの追及)と、規制との戦いが複雑に絡み合っていた。
女性の身体の性的に強調される部位の表現から、想像を掻き立てるためのものまで。
胸の大きさ、その立体感を出す陰影やハイライトから動きまで……私は名称が存在していたことに衝撃を受ける。
‘日本の伝統’と言われるタコ(触手)責めが葛飾北斎の専売特許ではないこと、欧米のデビルフィッシュのイメージとクトゥルフ神話のイメージが日本に輸入されていることを指摘。“性器ではない”こととそのインパクトがジャンルとして確立したことを指摘している。
そしてジャンルは進化し、触手もタコっぽかったり内臓っぽくなったりメカになったりと多様化していく。
「断面図」という解剖学的な表現はホラー的な要素も相まって、ハードコア化…エログロ化との親和性があったり。「どうなっているのか?」という好奇心と非現実化。その文脈で男性の身体を透明化している(「男捨離」と言われているらしい)表現に繋がっているのは驚いた。(ルーツは別だと思っていた)
歴史?ある表現だと小さいながらも掲載している図版の多さに驚く。開拓した第一人者へのインタビューも載っている。
エロ漫画特有の表情のリアルとの相互影響、2000年代からよく見かけるようになった擬音?のルーツなども順を追って説明している。
規制修正との苦闘の歴史、世界のマンガ文化への影響なども網羅している。
個人的な見解:「男捨離」は‘様子を上手く見せることができないため編み出された技法だ。見えにくいところを見やすくという意味では「断面図」の発想に近い(p.355)’とあったが、“男性が”描かれている透明化された男性に投影(同調)しやすくなるためではないか、と思う。
女性向けのコミックでは男性が透明化されていることがあまりないため。
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本書の目的はこんな研究もあるんだと知ってもらうことでそれは十分に達成できていると思う。
多様であるが故に定義が難しい分野への取り組み方を学んだ。
エロマンガと聞くとただ性的欲求を処理するための道具のように見られがちだが、その表現は研究対象になるべく表現の発端も広がりも多様だった。規制が逆に表現に広がりを持たせたり無修正が当たり前の国から見てもエロいと感じさせたり面白い点が多々あった。