紙の本
米と麹と酵母
2024/02/18 00:38
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投稿者:DB - この投稿者のレビュー一覧を見る
「古い文明は必ず美酒を持つ」というのが著者の持論のようですが、発酵、醸造に関する研究では世界的権威の一人で、「酒の博士」として知られた学者が日本酒について語っています。
もちろんどこの地酒がうまいとかいう話ではなく、日本酒の作り方や歴史についての話でした。
あとがきの日付が1964年なので、半世紀前と今では違う部分もあるだろうが日本酒造りを微生物学的に見るというのが面白い。
日本酒は水が重要で、海外で作っても同じ味にはならないというのは何かで聞いたことがある。
だが日本酒を作る時の麹や酵母の働きを詳しく見ていくと、微生物学的にも日本独自の酒になると思いました。
まずは日本酒の基礎として、甘口と辛口があることやごく味や雑味、ピンといった日本酒の味の表現と匂いについて解説してあります。
昔は伏見と灘の酒が有名だったそうで、確かに黄桜や菊正宗といえばどこでも買える日本酒だ。
乱世では甘口の酒が、太平の世では辛口の酒が好まれるという説もあるそうですが、これは甘口の方が少量で満足できるということから出た説らしい。
中国では老酒という熟成させた古酒が珍重されるが、日本ではこの熟成香は好まれず果実のような香りの吟醸香が尊重されている。
昔は極端に精白した米を使って低温で醸造したり特別な酵母を使って作り出していたが、化学で正バレリアン酸やカプロン酸とアルコールの化合したエステルが香りのもとになっていることが発見されてそれらの物質を添加することもあったとか。
品評会や酒税法にも触れながら酒造りの歴史が語られて、最後に麹菌の秘密に迫ります。
麹菌とは単一の菌株ではなく無数の変わり種を含む一大菌群で、変わり種同士で触れ合うと細胞膜がとけて繋がりお互いの内容物が混ざり合うことで一時的な菌株ができるという。
日本酒は米に麹菌を生やして米のデンプンを糖分に変換させ、次にこの糖分に酵母の働きで発酵させることでアルコールとなる。
火入れをすることで殺菌と熟成をしたり、乳酸菌を使うことで酵母以外の菌の繁殖を抑えたりと微生物を見ることもできなかった時代に確立した日本酒の作り方がどれだけ合理的だったかがよくわかる。
日本酒を飲むときは酒蔵での工夫や麹と酵母の働きに思いをはせてみようと思う。
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日本酒の歴史や製造法の解説。
日本酒と他の酒の違いや、日本の風土が作り上げた個性なんかが分かりやすく書かれていました。
面白い。
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醸造学の見地から酒、とくに日本酒について論じた本。酒に関する薀蓄が満載だが、発酵の過程とか歴史とか学術的な本なので、読んでもあまり酒が飲みたくなるというような気持ちにはならない。しかし日本の気候や風土によって醸されてきたという日本酒の素晴らしさを再認識できる本。日本人ならボジョレーなどと浮かれていないで、美味しい日本酒を飲んでほしいと思ったりして。
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甘口と辛口◆品評会と統制◆酒屋◆民族の酒◆酒になるまで◆カビの力◆日本の智慧
著者:坂口謹一郎、1897上越市出身-1994、農芸化学者、東京帝国大学農学部卒、元東京大学応用微生物研究所初代所長
解説:小泉武夫、1943福島県小野町出身、農学者・発酵学者、東京農業大学農学部醸造学科→同大学院、東京農業大学名誉教授
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原書は1964年刊行。当時の醗酵学のえらい先生が書いたもの。学者であると同時に、酒の愛好家といった風情が文章から伝わってくる。特に酒の味・香りを論じだして、食事とのバランス、飲むタイミングにまで話が及ぶのは酒飲みの視点である。日本の酒の歴史や製法や、微生物学的なバックグラウンドまであつかう。
・明治初期の資料に残る酒は超辛口だった
・今はあまり使わないが「ピン」という味の表現。キュッと残る後口を表す
・食事との相性軽視、熟成軽視が洋酒と違う
・戦争前後の原料難と西洋文化尊重が、近代以降の日本酒文化の蓄積を阻んだかも
・昔は年中つくっていた。寒造りが広がったのは江戸期から
・杜氏、山地の民の冬の副業が起源か
・速醸もと:乳酸を人工的に添加する⇔生もと、山廃
半世紀近く前の本なので、ところどころの記述に時代を感じる。当時より続く日本酒消費の衰退傾向に歯止めがかかっていないのは残念。しかし、日本酒の平均的な品質は上がってきているとも言える。作り方、飲み方、流通させ方によっては、まだまだ未発掘の魅力があるかもと思わせる。
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814
世界の歴史をみても、古い文明は必ずうるわしい酒を持つ。すぐれた文化のみが、人 間の感覚を洗練し、美化し、豊富にすることができるからである。それゆえ、すぐれた 酒を持つ国民は進んだ文化の持主であるといっていい。一人びとりの個人の場合でも、 或る酒を十分に鑑賞できるということは、めいめいの教養の深さを示していると同時 それはまた人生の大きな楽しみの一つでもある。
酒の神さま・坂口謹一郎先生に「名酒と はどんな酒だと思われますか?」と聞いてみたことがあった。する のど と、すかさず返ってきた返事が、「喉にさわりなく、水の如く飲め る酒」というものであった。雑味が無く、淡麗妙味なる酒。坂口謹 一郎先生は本物の酒の神さまであった。
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図書館で借りた。
著者は発酵・醸造に関する研究者で世界的権威のあった"酒の博士"だそうだ。今となっては60年前の本だ。
研究者の本と聞くと、小難しそうでそれこそ酒に逃げたくなるが、読んでみると意外と簡単な言葉で幅広く表現されていて、面白い。「酒の甘口・辛口とは」「雑味・うま味、こくがあると言うが…」「のどごしという喉のすべり具合」などなど、解説が楽しい。
また、数行ごとにサブタイトルが記されているのも、道しるべ的に読みやすい。
酒好きよりはむしろ、「お酒好きな人たくさんいるけど…、どういうことなんだろう?」といった、"にわか"な人のほうが楽しめそうに思いました。
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酒好きな人より、日本古来の伝統技術が世界稀なる技術である事に興味がある人向け、で面白い。日本酒が恋しくなるし、感謝して飲もうという気になる。