昭和の初期に活躍された梅崎春生氏の自身の怠惰ぶりを面白く描いたユーモア作品集です!
2020/07/26 11:25
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、昭和の前半に活躍され、『ボロ家の春秋』(直木賞)、『砂時計』(新潮社文学賞)、『狂い凧』(芸術選奨)などの名作を次々に発表されてきた梅崎春生氏の作品です。同書は、その梅崎氏の自身を綴った作品でもあり、同氏の何とか入学した大学の講義にはほとんど出席せず、卒業後に新聞社を志望するも全滅という状態で、やむなく勤めた役所では毎日ぼんやり過ごして給料を得ていたという怠惰ぶりが披露されています。「一日に12時間は眠りたい」ちか、「できればずっと布団にもぐりこんでいたい」など、戦後派を代表する作家が、自身がどれほど怠け者か、怠け者のままどうやって生きぬいてきたのかを綴る興味深い随筆と7つの短篇が収録されています。梅崎春生氏のユーモア作品集です!
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生まれ変わったら何になりたいかと訊かれれば、イソギンチャクあたりがよかろうなどと答えて、満更でもない答えだろうと悦に入ったりしていた。
「私は滝になりたい」と梅崎は言う。
ああ、それだ。
イソギンチャクごときで何事かを見通した気になっていてはいけなかったのだ。
前半のしみじみ可笑しい随筆もさることながら、後半の短編小説もひとつひとつ実によい。
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戦後派を代表する作家が、怠け者のまま如何に生きてきたかを綴った随筆と短篇小説を収録。真面目で変でおもしろい、ユーモア溢れる文庫オリジナル作品集。
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飼い猫がなくなったとき、触れる気になれず、うちから外に運ばれていくのをやり過ごすだけの話がやけに記憶に残っています。
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エッセイと私小説の短編が収められた一冊。初出一覧を見ると、昭和30年前後に発表されたものが多く、敗戦の痕を引きずった当時の生活を垣間見れる章が多い。当然、生活は大変なはずだ。しかしそんな時代にあっても、精力的でない、気力がない著者になんだか親近感を覚える。大体いつもだるい。めんどくさい。いつまでもゴロゴロしていたい。デスヨネー。
つげ義春に近い印象も受けたけど、不条理ナンセンスではないから「無能の人」あたりが近いかもしれない。大山史朗「山谷崖っぷち日記」も思い出される。自分に正直というか、そんなふうにしか生きられない。時流に合わせてがんばれない。そして、そんな自分と世間を、引いた視点から観察してしまう。その観察力は自他のしょうもなさをルーペで拡大しているかのようだ。それゆえか、自分と世間をシニカルに批評し、時々自己嫌悪に陥ってしまう。狂っているのは自分か社会か?それとも両方か?この人はきっと、いつの時代に生まれても時流に乗れなかっただろう。でも、世界への違和感を抱えた者が共有できる普遍性を文章に写し取る才能があると思う。60年近く前に書かれた文章なのに、古びてない。
巻末に収録された「防波堤」が印象に残った。俗世から離れているかのように思えた防波堤で、虚無感に囚われながら毎日のように釣りをする私。しかしそこは俗世のミニチュアでしかなかった。私は弟の戦死をきっかけに釣りに行くのをやめる。
『私の心の中には、烈しいもの、何かたぎり立つものに立ち向かっていきたい意欲が次第に萌し始めていた』
その心の変遷がわからない。わかる気もする。わかりたい。若さゆえか。それともメメントモリ的なことなのだろうか。苛烈な戦争に突入していく時代の空気もあったかもしれない。何かに立ち向かう意思が表れたこの短編は、この本の中で異色作だと思う。これを元にした「突堤にて」という小説があるそうなので気になっている。
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観察力の鋭い人だなと思う。
庭の蟻の生態とかよく見てる。同じように世の中の色んな人もよく見てる。
それにしてもどうして「のんびりいこうよ」派はいつの時代も批判の的で、「前向いてグイグイ行くぞ」派がよしとされるのかなぁ。
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梅崎春生氏のことは知らなかった。
勤勉性に関する研究の一環として対立する?怠惰についての情報収集の一つとして読む。
「怠惰の美徳」は3ページのエッセイ。仕事があるから怠惰が成立する,仕事がない怠惰は怠惰と呼べない。相対論か。
その他はエッセイと小説で構成された本。「衰頽からの脱出」は印象深かった。
いろいろ言って最後は自分で落とすスタイル。福岡出身で福岡の話も出てくるのでイメージしやすかった。
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私には少し難しかったようで、読んでいて途中眠くなった。だけどところどころくすっと笑えたり、戦時中の話なんかは胸が苦しくなったりした。でも結局なんだかよくわからなかった。
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【滝なんかエッサエッサと働いているようだが、眺めている分には一向変化がなく、つまり岩と岩の間から水をぶら下げているだけの話である。忙しそうに見えて、実にぼんやりと怠けているところに、言うに言われぬおもむきがある。私は滝になりたい】(文中より引用)
何もしないことの素晴らしさを説いた表題作品を含む短編小説集。何もしない、何もしたくない人間の目に映る社会の厳しさやおかしさを見事に捉えた一冊です。著者は、海軍体験を踏まえた『桜島』で注目を集めた梅崎春生。
なにかと心がささくれ立つニュースや出来事が多い毎日に効いてくる処方箋のような作品。肩の力をふっと抜くことのできるエッセイ調の小説の数々が、現代の心性にもピタリと当てはまっているように感じました。
推薦作として読みましたが確かに良かった☆5つ
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心に効いてくる。
本質に怠惰な無気力な視線からついてくる。
今まで本を読んでいて初めての感覚で、
語彙が足りなくて今の感情をうまく表現できないのが悔しい。
やっぱり冒頭の詩で、ものすごく惹きつけられるなあ。
怠惰な視点で、日常の細かい出来事を鋭く突きながら語る、洞察力の鋭さ。
それをちゃんとユーモアで包んで言葉にしているからただの怠け者とは訳が違う。
人間のどうしようもない怠け癖を肯定していないようでしてくれているようで。
時代が古いからシチュエーションは違えど、、、
荻原魚雷いわく、筋金入りの傍観者。
怠惰な日々の中にも文学がある。
勇気づけられる本。
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昭和17年の「防波堤」以外は1947(昭和22)年から1964(昭和39)年にかけて書かれた梅崎春生の、随筆/エッセイおよび、それが小説的形態を取った作品を収めたアンソロジー。
読んでいるとユーモアがあってなかなか笑える文章が多い。このような文章の雰囲気は、昔大好きでよく読んでいた北杜夫さんのエッセイにも通じるものがあり、やはり戦前戦時の日本文学の随筆とは違っていて、太平洋戦争から東京大空襲・敗戦を境として明らかに世代・文化の断裂が生じていたのだと改めて感じた。
ことに「猫と蟻と犬」にはとても笑った。
さて著者は一時期以来身体が弱く、また神経症なのか、やる気の出ず朝から晩まで横臥しつつ、悔いの気分に支配されるようなことがあって、自身は「軽鬱病ならぬ軽々鬱病ではないか」などと称している。
「怠惰」を大切な人間性の一つとして考える梅崎は、1958(昭和33)年の時点で、受験競争に関連し、
「この競争というやつは、とかく人間を非人間的に育てるものである。」(「あまり勉強するな」P.147)、
「官僚というものの非人間的なつめたさ、中にひそむいやな立身主義などの一因は、その構成分子の役人たちが、学生時代に凄惨な協奏をしてきたからではないのか。」
「青年よ、あまり勉強をするな! 勉強が過ぎると、人間でなくなる。」(P.148)
等と書いている。この怠惰の思想はなかなか魅力的だ。度を超えて競争原理がすべてに行き渡り今では世は殺伐とし非人間的な事件が大量に起きまくっていることは確かだ。怠惰や非能率を悪として忌んできた社会倫理のもとで、人は他者に対しあまりにも非寛容で、すさんだ精神を呈している。梅崎春生も、まさか世の中がここまで酷くなるとは予想できなかったろう。
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がんばらない。楽していい。たっぷり休め。戦争するな。日本すごいって勘違いするな。年寄りの言うことは聞かなくていい。
今の時代こそ、梅崎文学が必要。
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怠惰というものは誰にでも思い当たる節がある感情で、大抵は自分の怠惰を目の当たりにすると後悔で胸が痛くなる。私も洗濯物はすぐ干せずに同じものを何回もまわすし、図書館で借りた本を毎回延滞するというような典型的な怠惰癖を持っているが、梅崎春生の怠惰は一味違う。
この本は自らの怠惰もしくは怠惰と共に過ごした人生や生活、思想などに思いを巡らせた随筆となっており、梅崎の人生を垣間見るようですごく面白い。
一日中床に臥せっている日もあるし、病気で安静に秋までは酒を飲むなと医者に言われたのに、なぜか旧暦の秋から酒を飲めば良いかとなって8月初めには嗜んでしまう。でもそんなに怠惰なのにちゃっかり妻と子供がいるところもなんだか腹立つ。
梅崎のどうしようもない面も好きだが、ところどころに戦中戦後の日本社会に対する熱を感じる文章と感情が散見されて、そこにすごく心を動かされる。
特に、「世代の傷跡」「衰頽からの脱出」「人間回復」。これらが令和の日本社会にも通じる言説で身震いした。私の感じていた澱を綺麗に言語化してくれた短編だった。今の日本も否定したくないし歴史の全てを肯定したくはない。けれども明治維新以来の日本の近代化による成長から二度の大戦とその内の敗戦を経た日本を「未熟な完成形」と呼称した梅崎の感覚は全てが間違いでないなと納得せざるをえない。
他はユーモアで包んだ回想や日記が多く、真剣に読むというよりクスッと笑ってしまう短編も多く、梅崎の他作品も是非とも読みたくなった。
歴史や文化は繰り返すという。それが良い時代もあれば、傷痕をひらいて今度こそ国が滅びてしまう時もある。先人が残したその時代の感覚を今一度呼び覚ますことが今生きている私たちにとって大切なことではないだろうか。いつまでも先を生きてくれている人たちが残した声に耳を傾けるべきである。
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随筆+短編小説集。自身を怠惰だと自嘲しているものの、著者が生きていた時代背景を考えつつ本書を通読すると、怠惰であることが許されない世相を、必死の努力で怠惰に生きていた、ということがひしひしと感じられる。若い時には西欧の芸術に遊んでおきながら晩年に俳句や擬古文に耽る先人たちを嫌悪し、「私は日本人であることよりも、人間であることに喜びを感じたいのだ」(p99)と宣言する『哀頽からの脱出』、戦時中にも居酒屋の開店待ちをする行列が出来ていたことがわかる、当時の横寺町の名物酒場であったお店の客層の描写も楽しいルポ『飯塚酒場』、怠惰であることからの著者なりの決別の過程が描かれた『防波堤』が読み応えあり。
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テレビで紹介されているのを見て面白そうだと思い、読んでみた。タイトルから引き込まれたが、私には難しいと感じてしまった一冊。
それでも怠惰でダラダラとしていたい気持ちには共感できる部分もあり、やりきれない気持ちを抱えてお酒を飲み、酩酊している様子には切なさも感じられた。飼い猫カロの話しが衝撃的だった。