風呂屋の壁の中にある富士山のように
2018/05/04 07:27
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
就職には困らないかもしれないが、離職率も高い。介護の仕事はそれだけ重労働だということだろう。
窪美澄のこの長編小説の主人公である日奈と海斗は同じ介護の専門学校を卒業し、富士山がごく普通に日常の中にあるそんな町で介護士として働いている。
介護士という職業がこの物語に重要な位置づけを持っているかといえば、重労働という点ではあるかもしれないが、もしそこに意味を持たせてしまうと介護の仕事があまりにもつらくなってしまう。
日奈と海斗の関係は仕事がきつくておかしくなるわけではない。
日奈は専門学校のパンフレット作製のために出合った宮澤に心と体を寄せることになる。
この長編は主語が異なる7つの章で出来上がっているが、その最初の章「そのなかにある、みずうみ」で日奈と宮澤の不思議な関係が描かれていて、日奈が宮澤に心を寄せるその理由が今ひとつ理解できないながら、身体が海斗の時とはまるで違う反応をすることで、日奈の心の淋しさがすんなり入ってくる。
その一方で海斗は日奈を忘れられない。
しかし、日奈が宮澤を追いかけるようにして町を出たあとは、やはり同じ介護の同僚である畑中と関係を深めていく。
物語の核にいるのは日奈であることは間違いないが、宮澤という男も海斗という男もあるいは畑中という女も、まるでそれぞれの町に縛られるようにしてしか生きていけない。
窪美澄の文章は口当たりがよすぎるが、結局は富士山が当然のように見える町での出来事にすぎないような気がする。
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投稿者:おどおどさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
私も、自分の手をじっと見てみたい。昔、ただただ荒稼ぎしたくてバイトばかりしていた時に、あこがれの人から「頑張った手をしてる!」と褒めてもらって嬉しかった。
なんか、あの時は、やみくもなだけだったけど、今は、もう少し自分の仕事に誇りを持ってやっているつもりだ。あの人、今でも褒めてくれるかな?
年月を経るごとに
2018/09/15 13:17
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投稿者:真太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ひなと海斗の関係は、一言では表せないぐらいの深さで、男女としてくっついたり、離れたりを繰り返す中で同士というべき言葉がしっくりいくのか。お互いに好きな人がいてもいなくてもいつも頭や心の中にい続ける存在。その二人の職業の介護職という大変な仕事から見える人間の縮図も、まのあたりにすることでより二人の未来が見えることもあったと思われる。
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投稿者:ハム - この投稿者のレビュー一覧を見る
読めば読むほど好きになっていく。読んだ人の年齢によっても、よいと感じる部分が違ってくるんじゃないかな。
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海斗が好きすぎる。窪美澄さんの作品はいつも心を揺さぶられる。他の人たちはどうなってもいいけど、海斗と日奈と裕紀だけは幸せになってほしい。
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20180314リクエスト
介護業界の大変さが伝わってくる。
なんとも言えず、はっきりしない人がたくさん登場。
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なんでこの人はこんなにもさびしい話をかけるのだろう。窪さんの作品のなかでも1位2位を争うくらい好きです。
みんなが誰かにちょっとずつ依存していて、女性はそのなかでも切り替えは早いが結局よりどころをみつけ、男性はしがみつきながらも前に進んでいくというのが印象深かった(最後の俊太郎さんはちょっと違うけど)
日奈も海斗も宮澤さんもすごく根が真面目でいいひとで、海斗が付き合った畑中がいちばん人間らしかった。
さびしくてむなしくて、けど希望が少しある連作短編集。
読後、日奈にずるいなーと、でもやっぱそこだよねーっていうのでちょっと悶々。でも、すごく自然な終わりがまた、好感もてた。
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富士山を望む町で介護福祉士として働く日奈と海斗を中心に、どこかちょっとずつダメな人間模様を描く。
物語の始まりは24歳。そのせいか、冒頭は年上の男に溺れていく日奈の性描写から始まる。そして、章ごとに日奈、海斗、海斗の同僚でシングルマザーの畑中、日奈が人生で初めて恋をした宮澤の視点で物語は紡がれる。
それぞれがみんな上手く生きられない。そんな人生にどこか投げやりで、年を重ねるごとに疲弊していく様子の描写が実に上手い。
この作品を読んで、「ふがいない僕は空を見た」を思い出した。この作家さんを好きになったきっかけの作品で、その頃の良さも維持しつつ、高齢化社会だったり、介護職の仕事のきつさだったり、社会問題にもきちんと触れており、すごく感銘するわけでもないけれど、じわじわ心に残る良作だと思う。
いっぱい遠回りをした後のラスト。希望が見えた気がする。
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女も男も、なんでこんな幸せになるのが下手なんだろう。第三者から見ると、こっちの方がきっと幸せになれると思うよ、ってわかるのに、幸せになれなくてもそっちの方にいっちゃう。
もう、読みながらもどかしいやら、イライラするやら。登場人物、だいたいみんなアホ!でもそれがリアル!それが現実!
探り探り、行きたい方に進んだり、流されたり。幸せ一直線な人なんて、そんなにいるはずもなく。でもいつか、日奈や海斗のように、しっくりくる場所が見つかるといい。
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恋愛小説だけれど、つねに暗く沈鬱な空気感で深い。
誰もが悩み迷い、傷ついたり傷つけられたり、前に進んだと思えば後退もしてしまう。いろんな人生がある。
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自分の居場所を見つけること。その場所に誰といるのか。一人なのか、二人なのか。同じ場所にいられるのか。住む場所、隣にいる人。場所も人もそれぞれ。ここにいたい、この人といたいと思えること、それらを探すこと。そんななかで様々な人と出会い、別れ、自分を見つけていく。人と人との交わりがとても濃厚に描かれ、傷つき傷つけの関係、なんとなく一緒にいる人、終わりが来るのがわかっている人と色々。何が正しいのかもわからない日々の中で見つけた人、場所。今はそれを大事にしよう。
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東京のギラギラした町で生きるより、田舎町の娯楽もなく、限られた環境の中で生活することを良しとする。人によって人生の選択肢は様々だと思う。
いろんな経験をして、環境に流されながら大人になって、老いていって、最後は生まれたところに還っていくのかなと思った。
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富士山の見える町で介護士と働く日奈。日奈の元恋人海斗。海斗の仕事場の後輩、畑中。日奈が想いを寄せる東京からやってきた宮澤。みんな自分勝手だったり、さみしかったり、抱えるものあり、そして、その場に流され生きている。不器用でどこか欠けた所がありそれで人を傷つけてゆく。誰もがそうであるけれど、登場人物たちもどこにもいそうな人たちである。その点でよく描かれているが、私の中では特に、宮澤の章「柘榴のメルクマール」は宮澤のもがき、心の中身がよく書かれていて読み応えがあった。全体的に、舞台が地方で職業が介護士ということで、介護の辛さや死に直面しているということで、未来が明るくなく、寂しさはより一層だ。振られたり、孤独を感じたり、でも、最後の日奈の言葉、人は永遠じゃないから愛おしい…そうなんだろうな。わずかな温もりで物語を終えた。
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自然豊かな地方独特の空気や介護という仕事の閉塞感、東京の人や物に体する憧れ、家族や家に対する気持ち、同じような地方の出身者としては、とても共感でき、当たり前のようなものだった。宮澤さんの東京から逃げたい気持ち、やっぱり戻りたくなる気持ちも今はわかる。
登場人物もみな、周りに居るような普通の人で地方のではよくある恋愛。それでも、それぞれには大きな出来事で。それぞれそれなりに生きていく姿が、所々の死によって際立っていた。じっと手を見る、といタイトルもそうだけど。
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孤独が孤独ではないような感覚。
人を好きになることへの恐怖。
必要とされる喜び。
本を閉じた後、1人になりたい。
そんな素晴らしい本。