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投稿者:七無齋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
古き都の祭りの歴史が良くわかる。人々の祈りが祭場や都市を形成していく。京都の歴史の一部分を垣間見ることができる。
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<目次>
はじめに
第1章 京都を代表する神社・祭と都市の歴史
第2章 平安京以前の古い信仰と神社~下鴨・上賀 茂・松尾・稲荷
第3章 都市・平安京に生まれた新しい信仰と神社
第4章 平安後期以降に生じた守り神への信仰
第5章 平安京以前から続く祭~葵祭と御蔭祭・御阿 礼神事
第6章 平安京の都市構造と結びついた祭~松尾祭と 稲荷祭
第7章 平安後期から鎌倉期の祭~祇園祭の神輿渡御 と今宮祭を中心に
第8章 南北朝から室町期の祭~祇園祭の山鉾巡行を 中心に
第9章 戦国期から安土桃山期の祭~剣鉾を生んだ御 霊祭を中心に
終章 近世から近代、そして現代へ
<内容>
京都の上賀茂神社、下鴨神社、松尾大社、伏見稲荷、八坂神社(祇園社)、北野天満宮、上御霊神社、下御霊神社、今宮神社の9社を中心に、京都の祭を分析したもの。京都=平安京の歴史とリンクしながら、現代まで各神社と祭が連綿と続いてきたことを実感できる本である。きちんと書かれた本だが、意外と読みやすい。
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当たり本。京都の町衆に根ざした9つの神社とその祭に絞って詳述。かなり細かくてめげそうになるが、未知のことも山盛りで京都好きにはぜひ。そしてそういうとこの氏子にもなってみたいものです。
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なかなか頭に入ってこなかった本。
たぶん、どんな神社にどんな祭神がいて、どんな祭りをしているのかを述べていく本だと思って手に取った。
それはその通りなんだけれど、各章がどんな風に展開するのか構成がバラバラで、どうもフォローしきれなかった。
個人的には終章の時代祭のところが一番面白かった。
観光のために、近代になって作った祭と高をくくっていたら、桓武・孝明天皇の御霊を奉載した鳳輦が出御、還御する、伝統的な神事の形態を取っているというのだ。
ちょっと見直した。
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八百万の神というが、日本には古来、神を祀る場所として各地に数多くの神社がある。宗教団体として登録されたものだけでも、その数は8万に上るという。神社には往々にしてそれぞれの祭があり、氏子が結集して作り上げる熱気あふれるハレの行事は、ときに多くの見物の人々を集める。
古都、京都は300の神社を擁する。各神社の祭には、祇園祭、葵祭など全国的にもよく知られたものもある一方、地元の人以外にはあまり知られていないようなものある。それぞれの祭はそれぞれの歴史を背負い、今に受け継がれている祭の形式は神社の成り立ちとも強く結びついている。
本書では、京都自体の歴史とも深い関連を持つ、祭と神社の変遷と現在を、主だった祭を中心として、大きく俯瞰していく。
取り上げられているのは、下鴨神社・上賀茂神社(葵祭)、松尾大社(松尾祭)、伏見稲荷大社(稲荷祭)、八坂神社(祇園祭)、北野天満宮(瑞饋祭)、上御霊神社(上御霊祭)、下御霊神社(下御霊祭)、今宮神社(今宮祭)である。
こうした神社の配置を地図上で見ると、都市の中心というよりも郊外に位置していることがわかる。1つの理由として挙げられるのは、人里離れた山などに対する古代の自然信仰の名残である。京都の神社は往々にして近隣地域に住む氏子に支えられるが、氏子・氏神という言葉は、血縁関係のある人々が信仰したことに由来すると考えられる。元々は古代氏族の神が祀られ、徐々に地域の人々に信仰が広がっていった形である。平安京以前からある下鴨・上賀茂、伏見稲荷などはこうした経緯で成立したと考えられる。
それ以後の比較的新しい神社(八坂、北野、上下御霊、今宮)は、都市の隆盛に伴う疫病の流行と結びつきが強い。都市が栄え、人口密度が上がれば、感染症は流行しやすくなる。近代医学が発展する以前、人々は、疫病を、政争に敗れた怨霊の祟りや、異国から来る疫神の跋扈によると考えた。こうしたものが都に入り込むのを防ぐために、都市の入口に護りとなる神社が配されたと考えられる。
どちらの場合も、区域の氏子が長年支えていくことで、氏子側に「自分たちの神」という意識が生まれていく。そして自分たちの神に捧げる祭には、さまざまな趣向が凝らされ、独自の発展を遂げていく。
代表的な京都の祭である祇園祭には山鉾が付きものだが、その他の祭でも、花笠や競馬、船渡御、野菜を飾り付けた御輿など、祭ごとに特徴的な風習・出し物が数多い。こうしたものの中には、今では謂われがよくわからないものもある。時代の変遷の中で形を変えてきたもの、記録には残るが現在では行われていないものもある。京都でかつて行われていたものが、名前を変え、あるいは細部に変更を施され、地方で受け継がれている場合もある。
こうした祭事を実際に見ると、由来が不明であっても古代の人々の思いを目の当たりにするようなロマンが感じられそうだ。
興味深かったのは、都市構造と結びついた祭の項目である。京都には現在、東寺は残っているが、かつてあったという、相対する西寺はない。伏見稲荷大社は東寺に巡幸し、松尾大社は西寺跡に巡幸する。2つの祭��2つの神社、それぞれの神社と寺の間の関係には不明な点も多い。平安京はかつては現在の千本通りを中心とした、現在よりも右京寄りの配置だったが、右京が湿地帯であったことなどから、都が東にシフトしている。そうした関連で西寺は廃寺のままとなってしまったとも考えられる。
元の形はどうであったのか、空想で補う部分、今後の研究が期待される部分はあるが、西寺がなくなったあとも、巡幸の風習が残るあたり、過去の痕跡を留めていく祭のあり方が興味深い。
さて、京都の歴史の中で大きな出来事と言えば何と言っても応仁の乱である。「京都人が先の戦といえば応仁の乱のこと」とまことしやかに囁かれもする。十年の間(1467~77年)、続いた戦による打撃は確かに大きく、主戦場が京都であったため、市街地は多くが焼け野原となった。都市機能は、西陣を中心とした上京と四条室町を中心とする下京のわずかな範囲のみに留められた。
この間、祭はほぼすべて中断を余儀なくされ、復活できなかったものもある。街中を巡幸する祇園祭は1500年に室町幕府の肝いりでようやく復活を遂げる。この際の山鉾の様相が現在の原型となっており、鉾町は戦乱時にも焼け残っていた下京の範囲にほぼ重なる形となっている。
全般として、祭の見所を紹介するような観光ガイドではなく、都市と祭から見た文化論の趣である。
一般書ではあるが、大学での講義録が元になっているとのことで、かっちりとした手堅さを感じさせる。アクロバティックな外連味はないが、史料と考察を積み重ね、一足飛びの放埒さを排除した先に、歴史の「現場」が浮かび上がってくるスリルは十分に感じられる。巻末の参考文献も充実している。
京都に限らず、実際に、さまざまな祭を見て、古代人の息吹に触れたい思いに駆られる。
知的興奮を刺激する1冊である。