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これが「ホームズと推理小説の読書遍歴」などというエッセイであれば、それなりに興味深く読めたのかもしれません。評論にしては、「細かなミス、思い違いも多々」あり過ぎるのですが、色々指摘されている表記の揺れの問題などは一概に著者だけの責任とも言えず、(書き下ろしオリジナルなので)ちくま学芸文庫の編集にも問題があるでしょうし、著者も、間違いがあれば指摘してほしいと仰ってるので、どんどん指摘することで、この本がより良いものになっていけば、と思います。
以下、私が気になったことを。
本書の注記において二次文献の紹介で止まっているものがありましたが、これは一次文献まで紹介するべきではと思われたものがありました。
まず、オルツィが推理小説を書くきっかけの記載について、その参考文献に「『隅の老人の事件簿』創元推理文庫、1977年版解説参照」とありましたが、その創元推理文庫の戸川安宣氏の解説には「彼女の自伝"Links in the Chain of Life"によると…」ときちんと書かれているのだから、仮にその自伝の原文を読むことがかなわなかったとしても、
「…創元推理文庫の解説によれば、彼女の自伝"Links in the Chain of Life"にそのことが触れられている」
という注記は書くべきだと思います。
同じような例をもう1つ挙げると、クリスティの『アクロイド殺し』がフェアか否かの論争の注記にて、ヴァン・ダインとセイヤーズの意見を記した後に「創元推理文庫『アクロイド殺害事件』解説(385〜387頁)より」と書かれていましたが、私が持っている創元推理文庫 1997年91版は(1975年39版で新版となっているせいか)362頁までしかないのはさておき、確かに中島河太郎氏の解説にはヴァン・ダインやセイヤーズの言及について、その出典が明記されていません。
しかしながら、これらは(有名な話なので)少し調べればその出典が分かるはずです。出典それ自体は読むことが難しいかもしれませんが、それならばその旨を記してでも、その一次文献を調べた結果を記載すべきだと思います。単に創元推理文庫の解説を以て注記とするのは、研究の手抜きだと思われても仕方がないと思います。