ロジカルシンキングよりも「情」
2018/06/27 14:18
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ZATO - この投稿者のレビュー一覧を見る
ロジカルシンキングでは世界はもう立ちいかない、これからは「情」が重要であるというのが、本書を貫くテーマです。
しかし、わが国は少なくともエリートと呼ばれる人々の間ではロジカルシンキング全盛で、本来のわが国の強みである「情」が疎かにされているという危機感があります。
一方で、庶民は引き続き「情」の世界に生きており、日本の庶民こそが時代を担うカギを保持していると言えます。「情」を持つ日本は、他国と違い、巨大なものにも立ち向かう気概を持っています。
また、マンガやアニメなどを通じて、日本の「情」は世界の若者にも伝わりつつあることも、他の日下氏の著書と同様に示されています。
わが国の行き詰まりを感じてる人は、この本から多くの示唆を得られると思います。あるいはこの本から示唆を得られない人は、既に超越してるのでなければ、相当病んでいるのかもしれません(苦笑)。
澄明な知性の持ち主 日下公人氏
2019/02/07 23:01
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:beni - この投稿者のレビュー一覧を見る
日下公人氏の著書は「読みやすい」ことが一番に挙げられます。
平易な文言で簡潔な表現、それでいて伝わる内容の濃さが堪まらない魅力です。
これほど読みやすい文章を書けるのは、澄みきった頭脳の持ち主だからなのだろうなと、いつも思います。
この著書では「情」が日本人の強さの根底にあるのではという日下氏の考えが、流れるように書かれています。大変、面白いです。
他の著書もそうですが、私達が「多分、そうではないだろうか」と形にならずとも漠然と感じていることが明快に述べられていて、読むほどに解き明かされる謎を追うようでページをめくる手が止まりません。
お堅い本だと思わずに、一度手に取り、一行でも一頁でも読んでみることをお勧めいたします。
投稿元:
レビューを見る
2018/09/06:読了
日本 順番は 情→知→意
古代ギリシャ エロス→パトス→ロゴス
内藤湖南「大阪の町人学者 富永仲基」
富永の発見した法則
インドは「幻」、中国は「文」、日本は「約」
※軽薄短小も「約」なのかな
投稿元:
レビューを見る
この本の著者である日下氏を、社会人になったばかりの頃から読んでいます、このサイトへの登録も49冊目となりました、著者別では最も多いと思います。そんな私が、今年(2018)春頃に出されたこの本を見逃していて最近知ることとなり先日読み終えました。
この本においても、日本の強さを他の国との比較で説いています。私が社会人になったころにバブルがはじけて日本に元気がなくなりだしたころから、グローバル経営や成果主義というものが導入されてきたように思いますが、それを真面目にやった企業ほど、おかしくなったようですね。
人間を動かすには、この本の趣旨にあるように、情の力を使うことが大事である、と社会人生活30年間を通じて理解してきました。来年には新元号のもとで私達は生活していますが、変わらないと思います。もっとも新元号で生まれた子供たちが成長して10年経過した頃にも同じことを言っていると、彼らがどう思って聞いているかは、自分が子供の頃(昭和時代)に、明治の言っていた人のことを聞いた時のことを思い出すと想像できます。
日下氏のように後世の人にも聞いてもらうためには、それなりの実績を作って、それをなんらかの形に残しておくのが良いことなのかもしれませんね。
以下は気になったポイントです。
・ギリシア人は自分が考えたことを他人に伝える話し方に二通りあると考えていた、1)たとえ話(アナロジー=類推)、2)論理(アナリシス=分析)日本人はお互いに情がわかるから、たとえ話ですぐに話が通じる(p13、28)
・メンバーが固定している社会(日本)では、あとあとのことも考えるとそうそう悪いこともできない、この日本の特質が「情」でわかりあう素地を形成してきた(p16)
・日本人は、人間は神様・仏様から人間になっていくと考えられてきたので子供たちは情愛に満ちた育て方をされた。欧州では真逆で、動物から人間になっていく、と発想された。18歳になって家を出ていくまでは子供はいわば動物扱いされる(p19)
・情というものは、情景からでてくるものなので、自然の風景を描いて、直観的に子供たちにわかるようにした、脳裏に情景が思い浮かぶような教育(p21)
・日本陸軍の強さを支えていたのは、連隊が地区ごとに徴兵された兵で構成される「郷土連帯」であったから、方言がそのまま通じた(p31)
・ロゴス(論理)の積み上げをするのが大学であるが、その言動力となるのが「エロス(愛)」である、エロスがあって「パトス(情熱、情愛)」が出てきて、ロゴスが積みあがっていく。この3つを合わせて人間である(p48)
・エロス(愛)パトス(情愛)が育っている人のほうが相手の話をよく聞くようになる、心で感じるから深い理解ができ、相手と深いつながりができてくる、そのような相手だからこそ、論理の平面などを遥かに超えた高いレベルの仕事を成し遂げ得る(p50)
・現代の日本の子供たちが直観的に物事を理解できるのは、漫画・アニメのおかげ。ピクチャーから読み取り、キャラクターから読み取り、ストーリーから読み取るから全体���にわかる。情を学んでいる、このようなリテラシーに優れているのは、女性・高齢者・少年・遊び人である(p56、74)
・日本人の心でつくっていれば、いくらでもストーリーをつくれる、この代表が「サザエさん」である。スタジオジブリはイデオロギーが入っているので、素直なアニメにならない(p60)
・アメリカで和解が広がっている理由として、証拠開示制度ができたから、裁判の当日にだしてきた証拠はすべて無効で事前に出す必要あり(p70)
・情を大切にしている人の特徴、1)パワーより情報に頼る、2)人より早く情報のストックを完成させる、3)直観力を肯定し、データバンクよりもひらめきを重んじる、漫画やアニメで「情の力」を高めた人達のほうが、ガリベンよりも発想が豊か、ひらめきがあり、はるかに賢い(p76、89)
・日本人が大切にするのは、質または「絞(こう)」わかりやすい文字ならば「約」(p79)
・日本には寺も神社もたくさんいるので、「神仏習合=神様も仏様も元は一緒」という考え方を重んじるようになった、ここにも日本人特有の「約」の国民性が表れている(p84)
・質問にはコツがある、私達は仲間ですよ、という関係になれば質問が許される。相手はきちんと答えてくれる。(p93)
・アメリカに来るような白人は、欧州にいたときの先祖は「農奴」的な立場に近い人が多かったが、そうした人たちがアメリカにやってきて、今度は自分たちが有色人種を文字通りの「奴隷」にした(p103)
・日本型組織を大きく変える(降格人事等)ことを実施に移すためには、「情」が必要、情がわからなければ、必要な改革など進むはずがない(p113)
・プロは仕事に厳しいことは当然で、大切なことは「仕事に厳しく」ありながら「人に優しく」あること(p122)
・欧米では、とかく論理や理屈が重視されるが、欧州の貴族たちも、アメリカ建国時のエリートたちも、情が大事であることはわかっていて、クラブ・スポーツ・音楽など、情が育つような仕組みを作っている(p128)
・明治政府は革命であるかのようにいわれているが、元大名の財産を没収しなかった、それが人間関係の確立に貢献した(p136)
・目標とは「情」がなければ生み出せない、命令によって持たされた目標は自分の「情」がこもっていないので、本当の目標にはならない(p147)
・会社なり組織なり、エリートが自分のお金で御馳走できるくらいの給金を支払うべき、そこをケチると会社の経費を出せる人を探して飲み食いする下卑た組織になる(p153)
・伊達政宗の生命がけの芝居を痛快に思って、「伊達じゃない」=「本気だぞ」という意味で使われた(p161)
・日本は例外的に、工作機械だけはアメリカの会社を一切助けなかったので、アメリカ工作機械メーカは全滅した、工作機械は日本から買わないと製品がつくれない(p165)
・情を重んじている日本人は、一回は信じてあげる、しかし一度でも裏切ったら許しません、さらに攻撃を仕掛けてくるのなら全力で戦う(p178)
・日本ではアメリ��での公民権運動は黒人の運動と伝えられているが、実際には黒人とユダヤ人の連合であった、なので日本人とユダヤ人が手を組むのは自然な成り行きであった(p187)
・当時の日本は一丸となって戦争を戦い抜く状況ではなかった、陸軍も海軍も資材の取り合いで戦っていた、戦争に勝つよりも大事で、次は自分の出世であった(p191)
・アメリカ合衆国憲法の下では、各州は独立国、いつでも合衆国を離脱できる。それをリンカーンは離脱しようとする南部を止めて、連邦制を維持すべく、南北戦争を仕掛けた経緯がある(p195)
・日本は昭和18(1943)年11月に大東亜会議を開いている、これは日本が欧米の宗主国を追い出したことで独立したアジアの首脳たちを東京に招いたサミットであり、まことに意義深いことであったが、少し遅すぎた(p197)
・中国大陸で戦っている陸軍の軍人は、戦争が続いたほうが出世できると思っていた、中国相手であれば負けることは無い、実際に中国との戦争に踏み切ったことで、軍人たちはお金をもらえるようになり、勲章をもらい、出世した(p199)
・日本では、天照大御神がお怒りになると、日が昇らなくなってしまうと考えられていた(p216)
・一般に、王様や皇帝は「力」の存在であるが、日本の天皇は、国民のために祈る(あらゆる罪や厄災は私=天皇が一身に引き受けます)「情」の存在として国民の心の中に息づいている(p219、222)
・アメリカ独立革命、フランス革命など、建前やきれいごとでは、もうまとまらなくなった。欧州諸国も皆、建前に苦しんでいる、ソビエト連邦はつぶれ、資本主義というシステムも壊れた、アメリカ政府は公的資金を入れて私企業(GM,フォード)を救済し、日本の銀行も同様であり、資本主義ではなくなった(p225)
・どうも近代(現在)の次に来るのは、「中世返り」らしい、中世が復活してくる、欧州の中世とは「マリア信仰」である(p226)
2018年10月9日作成