教育の本質があります。「恩師」は一生モノです。
2012/02/20 19:37
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のちもち - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は元フジテレビキャスター、現神奈川県知事です。読み始めるまで気づきませんでしたが、それは本筋には影響がなく。著者もその生徒であった、灘中の「名物教師」の話です。なんと!50年の間、灘中で教壇に立ち続けたという、ギネスものの先生。
そして、何が「名物」かというのが肝なのですが、先生は一貫して、文部省検定の教科書を一切使用せず、中学3年間を通して、『銀の匙』(中勘助)を「スローリーディング」する、というもの。
これだけだと「奇抜」になってしまいますが、みごとに!生徒自身が「考える」ということをするような授業です。各章の名前を生徒が考える、その物語の舞台である東京下町の「駄菓子」を実際に授業で食べてみる、中にでてきた「凧あげ」を実際に授業で作って凧あげをしてみる...
先生が用意するのはすべて、自分で作ったガリ版で、読書感想文や、詩歌を作る宿題など、宿題は多いらしいが、すべて先生はそれに目を通す。
楽しい中に、厳しい点、すなわち「おさえるところはおさえる」授業で、生徒たちは「本気」になっていきます。そして、その「自分で考える」ことが、それが直接の「受験勉強」ではないにせよ、東大合格数で灘高が日本一になる土台を作っていきます。
何が生徒たちを動かしたのか。それは奇抜な授業も、厳しい宿題も、それだけではなく、根本にあるのは、「生徒たちが国語を、日本の言葉を『本気』で好きになって、自分のものにしてほしい」という純粋な、そして熱い思いを、先生が持ち続けていたからです。それがカタチを変えたメッセージではあったけれども、キチンと生徒たちに伝わった。結果的に合格数が伸びたのは、国語という「教科」のみならず、感性や勉強のツボ、そして何より母国語への興味関心、これを高めた先生の情熱があったからこそ、です。
著者の先生への思い、先生の授業のレビューが中心で、「いいなあ」って思うこと多数。ですが、最後に収録された、橋本武先生の「特別授業」。これが最高にいいです。これだけでも読む価値があります。
こんなに素晴らしい「恩師」を感じられる著者はじめとする卒業生は、うらやましい限りですが、思えば自分にも、「恩師」と呼ぶ先生がいます。転校があった年の担任だったので、1学期だけなのですが、一生先生のことを忘れない、今自分があるのは先生のおかげ、と言える先生がいます。
今の学校環境のことは詳しくは分かりませんが、カリキュラム優先の授業、マニュアル先生、メディアで取り上げられるのは「悪い」方だけかもしれませんけれど、「恩師」を一生持つことの幸せを、次の世代の子どもたちにも感じてほしい、と切に願います。
【ことば】...大事なのはスピードじゃなくて、「すぐに役立つことは、すぐ役立たなくなる」ということです。
橋本先生の言葉です。興味を持つこと。それを「自分で」掘り下げること。自分で調べて見つけたことは一生の財産になる。先生はその手助けをしていたのかもしれません。マニュアルで教えることと根本的に異なります。「自分で」これがキーワードですね。先生が若かったころに比べて圧倒的に「情報」社会になった今、余計に「自分で」が大切です。
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恩師としての条件とは?
① 期待に応えられる教師たれ 子供の興味、関心を引き出す授業ができること。
子供を適切に評価し、伸ばしてくれること。
②労を惜しまず、独創性、個性、工夫、笑い、脱線、味わいのある授業
③常に挑戦者たれ
④自分の世界をもて
⑤遠回りも厭わず二十年後に役立つ授業を
⑥確固たる信念と炎の情熱をもって生徒にぶつかれ
勉強というのは、自分でやりたいという気持ちになることが大切です。
人から強制されて勉強したって身につきません。
その気になるまで、やりたいことをやればいい。
大事なのは、自分がどんな目標をもち、何に興味を引かれるかです。それさえ見つかれば後は早い。
教育とは、教師と生徒の人間同士の格闘である。大きな教師がいてこそ、生徒も大きくなる。
魂と魂が触れ合ってこそ、生徒は、眠っていた才能を目覚めさせることができる。
教師の役割は、一人一人の良いところを見つけてほめてやり、子供のやる気と潜在能力を引き出すことである。
すなわち、生徒一人一人が自分自身のマグネットの素を見つける手助けをすることこそ、教師の醍醐味である。
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「恩師の条件」の増訂復刊.「銀の匙」を中学3年間をかけて読む授業の紹介.伊藤氏貴「奇跡の教室」が授業自体の紹介に関して物足りないので,実際にその授業を受けた著者によるこの本は貴重.
授業の内容を知るには一章から三章までを読めば良い.簡単に言えば,銀の匙の基本的な読解をするとともに,文章に出てきたことからその背景にある日本の文化や歴史を掘り下げていく授業ということ.準備には膨大な時間がかかるし,調べた知識を自分のものにして,生徒に伝えるにもまた努力と時間がかかる.その上,生徒には本を読んで書く宿題を頻繁に出し,それにすべて目を通すというのだから,頭が下がる.
しかし,よく考えれば,ある一つのテキストから,派生した問題を掘り下げていくというのはまさに学問の王道なのである.王道を歩く,あるいはそれに導くには,とんでもない忍耐が必要なので,普通学校ではやれないし,やらないだけ.それが灘中のハイレベルな生徒たちを背景に実現しているということだろう.最近は,このように本を深く読み込むのは大学ですら難しくなっているように思われる.
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橋本先生にハマってので、勢いで。
橋本先生がいかにすごくておもしろい人なのかがよくわかる。
笑いました。
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国語の授業の大切さを知っている人には、この本のおもさがわかると思う。この本に描かれている伝説の教師 橋本武氏も、「国語は学ぶ力の背骨、生きる力そのものです」ともいっている。
この本に触れることで、私は中学時代の国語時間、恩師に自分の視点を褒められ、自信をつけたことを思い出した。
橋下武という方の、学びの方針を踏襲して、これからも楽しんで生きて行きたい。
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卒業した高校や大学から会報のようなものが定期的に送られてくる。
そこには学校を去られる先生のことについて他の先生からの敬意に満ちた贈る言葉がよく添えられている。この本を読んで浮かんだのはそんな文章たちのことである。
若干その敬意が邪魔をしてしまっている文章、という印象を受けてしまった。実際のところ、橋本先生は非常に素晴らしい先生なんだろうと思うけれども、やはりその素晴らしさは、実際に授業を受けてみたものでなくては感じられないのだろう、と思ってしまった。ただ、こういう文章の雰囲気自体は、著者黒岩さんの橋本先生への敬意がなせる業なので、そう感じられる部分については好感を持って終始読んだ。
ただ、やや心がざわつくのは例えば「ゆとり教育」に関する記述などで、こういうのはなくてもよかったのではないかと思ってしまう。本の体裁を整えようとして、こういうのを入れたくなるのもわかる気がするが、それまでの章の中で橋本先生の魅力は十分伝わっているかと思う。著者は非常に真面目な人なんではないかとも思った。
個人的にふーんと思ったのは、私学だと同じ先生が3年間とか6年間とかずっと教える、ということがあるのだな、ということ。同じ先生が教え続けることと、先生が入れ替わり立ち替わりすることと、どちらがいいとは一概には言えないだろうが、計画的にずっと同じ先生が教えることで出来る方法というのもあるだろうな、と思った。名物先生ってやっぱりいいもんだ。
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本を読むのは昔から好きだったけど、国語の授業ほど嫌いなものはなかった。国語の試験で、『不正解』が存在することが未だに納得できないのだ!もし僕が橋本武の国語の授業を受けていたらどうだったろう。その想像は僕をワクワクさせる。(長江貴士)
▼『ジセダイ』新刊140文字レビューより
http://ji-sedai.jp/special/140review/10.html
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橋本先生は6年かけて1冊の本を教えた。その内容は広範囲に及び、密度も濃いものだった。先生の準備は並大抵のものではなかったと思うが、時間のかかるガリバン刷りも「仕事だと割が合わない」と趣味にしてしまったそうで頭が下がる。
「偏見を打破するだけの実質をそなえていれば、どんなことを言われても笑ってすませられよう」とは恐れ入った。周りの評価だけに右往左往しがちな自分の目を覚ましてくれた言葉だった。
「書くことも技術であり習慣である以上、実践を措いて上達の道はない」。一つの分野を好きでただ突き詰めていくその人生は本当に穢れがなくてすばらしい。
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素晴らしい内容だった。灘という学校が非人間的な詰め込みではなかったことを知ったのも新鮮だったし、本当の知性を育てる教育についても描かれている。英語にも通じるものがある。ラストで、クライアントさんのフリースクールの母体のことにも触れられていて意外な驚きと可能性を感じた。
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スロー・リーディング本を読みたくて手に取った。
例に挙げられていたのは、中学3年間を通じて1冊の本を読みこむ
灘校国語教師の試み。
選ばれた素材が、夏目漱石がきれいな日本語であると絶賛した「銀の匙」。
そう言われただけで、今度声を出して読んでみたいと思う。
これを教材に、様々に脱線発展させて授業を展開するらしく、
この教師橋本先生の瑞々しい感性が、随所に感じられた。
また、中学・高校の課題に古典の原文を出しており、これらを読みこむ
力が出来るというのだから関心した。
個展は、現代語訳されたものしか理解できない自分ががっかりするだが、
それを橋本先生の生徒達は中高生の頃にクリアしているのだから、
素晴らしい。
英語もろくに身に付かなかったのであるから、せめて日本語位は
自信を持って使いたいのであるが、それでも古典原文には、そうそう
手が出せまい。すごい。
いつか先生の「源氏物語」を読んでみたい。
http://www.kes.co.jp/adcom/genji/index.html
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【恩師】
灘中で50年間教鞭をとられた国語の先生の話です。
文部省検定の教科書を一切使用せず、自作の教科書を使用し、結果的に東大合格日本一を達成しています。自作教科書の内容がいいか悪いかはよくわかりませんが、先生の情熱を感じます。その情熱が生徒たちにも伝わり、すばらしい結果をもたらしているのでしょう。
この本を読みながら、小学校から大学までの先生を思い浮かべていきました。小学校の先生はかなり思い出すことができましたが、高校時代になると担任の先生すら思い出すことができません。なんと悲しいことか。
思い返すとわたしには「恩師」と呼べる人がいません。これは、良い先生にめぐり逢わなかったというだけではなく、わたしの先生との接し方に問題があるのかも知れません。良い先生なのに、気づこうとしなかったこともあるのでしょう。結局、教わりベタな人間になってしまいました。(←今からでも遅くない恩師を見つけよう!)
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2012 4/3読了。Amazonで購入。
非常勤先の先生からおすすめいただいた本。
著者は灘校出身の神奈川県知事。
同校で50年間、国語の教鞭をとった「伝説の国語教師」橋本武氏の、教科書を一切使わず、中勘助『銀の匙』とその自作の研究ノート(学生用教材)だけで3年間授業を行う、というスタイルを紹介する。
紹介されているのは小説に出てきた事物を授業中で実際に経験してみたり、ちょっとした表現からどんどん脇にそれつつ文化・教養を深めていくスタイルの授業で、なるほどこの深度で小説を1冊読み通そうと思ったら、それは3年かかるわ、と納得した。
規定の教科書を使わず自身で選んだ小説とそこから作っていた教材だけから教育を行う、というスタイルは中高(灘校は一貫性)の教員というより大学教員のようにも見える。その点でも大変参考になる。
ただ、紹介されている橋本先生が大変優れている一方で、教え子であった著者自身によるプロローグやところどころに挟まれる現代教育批判は、いかにも紋切り型ではっきり言って安っぽい。その分で星1つ減。
内容が優れているのだから判で押したような批判で煽ったりしなくても良いだろうと思うのだけど、そうも言っていられないのが現代の出版事情であろうか。
もとは『恩師の条件』というタイトルで出されていた本の加筆・修正リメイク版であるとのことだが、新書化にあたって足されたまえがきはだいぶ毛色が違って落ち着いた感じになっているのは、あるいは「売れる」ことがわかったので必要以上に煽る必要がなくなったからなのかもしれない、とか思ったり。
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この本は買おうかな。勉強になる。
灘中の橋本先生を知ったきっかけは…
「Z会の中学準備講座」に昨年3月に家の長女が通った時です。
講座が終了して、テストの結果を渡す時には、親を呼んで各教科の担当の先生が授業の様子などを説明し、その後、先生と親が個別に面談して子どもの進路などの相談をします。
国語の先生が、娘も「一番良かった」と、言っていましたが、国語や教育にたいする思いを語って下さいました。その時、灘中の橋本先生は中学の3年間、中勘助「銀の匙」を深く読みといて授業をされたと話されていました。その先生の求める教育もそういう方向なのかなと、とても期待でき、また、この先生に教えて頂きたいと思いました。
残念ながら、この先生は娘が通える教室の専属ではなく、都内の教室がメインらしく、通常授業は持たないとのことで、通っていませんが…。
その時から、気になっていて、先日、この本の存在を知り、図書館にリクエスト。素晴らしい授業ですね。私も受けてみたい。
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文部省検定の教科書を使用せず、中勘輔助の「銀の匙」を使って国語の授業をしたという灘中。
大学の受験を考えた時、このような授業で普通(?)の高校生が大学の試験問題が解けるのだろうか?
このことからも秀才が集ってくる灘中だからできた授業であろうと思われる。
しかし、「橋本武先生」の授業にかける意気込み・熱意はすごいものだと感じた。
「すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなる」・・なるほど、
「遊ぶと学ぶは同じこと」・・・、なるほど、いい言葉が多く並んでいる。
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自分で読みたいと思って読んだ本ではないのだけれど、面白かった。
何にでも興味を持ったものを、すぐに役立たせようなんて思わずに、深く追求していくと、どんな立場であっても、生きていくことがとても面白くなるものだと思う。その究極をやったような、名門校の先生のお話。