紙の本
小説の舞台に広がるどうしようもない現実。
2017/05/18 01:13
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
読了後、掛け値なしですごい作家さんだと分かりました。
ノーベル文学賞はきっとこんな人に贈られるのでしょう。
後書きによると恋愛小説を書きたかったとのこと。でも私は、
恋愛要素よりもアフリカーナたちの心模様に惹かれたのです。
アメリカのプリンストンでイフェメルは電車を待っています。
髪を編むためにトレントンまで行くのです。
プリンストンで何人か見かけた黒人は、肌の色がとても薄く
細い髪なので、街には髪を編んでもらえる場所がないのです。
黒人のためのヘアーサロンが、ないのです。
アメリカ黒人のこと以前は二グロとして知られた人たちと
カッコ書きしてあり、意味を初めて知りました。
むかし読んだ本の海外のマナーの記事を思い出しました。
大きくて体の丸い黒人のおばさんに対して、鉛筆みたいな日本人が
がたがた震えながらブ、ブラックと呼びかけている絵が載っていました。
おばさんは平然と見下ろしてオーケーと答え、黒人は二グロではなく
ブラックと呼べばいいと説明されていました。
二グロを黒人の差別用語と理解しましたが、何十年もたって誤解が
解けました。アフリカ系アメリカ人だったのですね。
あらためて考えると、その説明文の状況自体が変です。さも当然と
ブラックと呼びましょうなんて、冷静に考えれば変だと分かりそうな
ものですが、皆さんはいかがでしょう。
イフェメルはアメリカナイズされたアフリカ人であることを自覚していて、
アフリカーナアメリカンは祖先が奴隷の人達で、アメリカーナアフリカン
とは違うと考えています。
アメリカの白人相手でもイフェメルは人種の話題を口にします。
善良な白人は、○グロと聞くと顔面蒼白になります。
しかし現実は……アメリカの現実は冷徹なのです。
分かったふりをする白人などは無意識の自己欺瞞に満ちているのです。
階級社会は厳然として存在します。
ナイジェリアでは金持ちか成績超優秀だったはずなのに、アメリカに
では最下層の扱いを受け、警備員ごときに馬鹿にされる始末です。
いかがわしい仕事や違法な働き方をしないと食うに困るのです。
頭が腐った白人どもに悩まされ続ける差別バリバリの、でも現実から
目をそらさない筆致に息をのみます。
ナイジェリアでは黒人であるなんて考えもしませんでした。
アメリカでは嫌というほど思い知らされました。
でもみんなアフリカには帰らず、アメリカにしがみついています。
でもイフェメルはナイジェリアに戻る決意をします。
いつか来た道を戻り、時間が巻き戻されていくように、コクジンという
存在がゆるやかに消えていくというお話です。
とても読みやすいです。
真にすごい書き手は難しいことを簡単に書ける人なのです。
井上ひさしさんの受け売りですが。
誇り高きアメリカーナアフリカンのお話ですが、
黒人という用語を入れ替えれば、それこそ世の中のあらゆる所に
転がっている差別に当てはまるわけで、人間の尊厳を蹂躙していく
現実を、まるでバナナの皮でもむくみたいに簡単に見せてくれるのです。
黒はどんなイメージですか。日本語の持つ本来の意味では
黒色は悪いというニュアンスはないはずです。
いつの間にかブラック企業なんて言葉が蔓延しています。
ふと気がつきました。ブラックが悪いなんて意味は、いつ決まった
のですか。ちょっと恐ろしくなりました。
知る人ぞ知る作家さんなので初版部数も少ないのでしょう。
単価に跳ね返っています。それでも、いつか日の目を見ることを
信じてこの本を発行した編集者の執念に脱帽です。
読んで損はありません。
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アメリカーナとは、アメリカかぶれという意味だそう。
ナイジェリア人のイフェメルとオビンゼ。
オビンゼはアメリカにとても興味を持っていて、いつかアメリカに行くと決めている。彼らの仲間たちも、アメリカやヨーロッパの国々への希望を語り合う。
中学校時代に出会った時から惹かれあい、同じ大学に進んだ2人。
しかし、ナイジェリアにあるこの大学はストライキばかり。
そこに来たイフェメルの留学話。
叔母のウジェを頼ってアメリカへ一足先に向かった彼女の困難。
カートとの別れを経て始めたブログの成功。そして、ナイジェリアに帰ろうと決めるまで。
イフェメルを追って、アメリカへ行くと約束したオビンゼも、その計画は果たせないまま、イギリスでの不法就労、強制送還という体験を経て、ラゴスで従姉妹のアドバイスのもと、事業を成功させる。そして、コシという女性と結婚し、一児の父となる。
分厚くて2段組の本で、最初は読み切れるか…と心配していたけど、何の心配もいらなかった。
一気に読んでしまった。
アメリカへ渡ったからこそ感じる、アフリカン・アメリカンとアメリカン・アフリカンの違い。
恋人や友人としてわかり合っているつもりだったけど、時にごまかしたり、見ないふりをしてきたこと。
黒人の彼女らの髪型のこと。
(彼女らがその髪をストレートや緩やかなカールにするのに、どれだけのお金と時間と労力を費やし皮膚にダメージを受けているか)
故郷に帰ってきたのに、前と同じではないこと。
そして、2人の再会。
作者自身が、オールドファッションなラブストーリーと言っていたのがよくわかった。
驚いたけど、これからずっと、何の説明もいらない2人でいてほしい。
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著者はナイジェリア人。アメリカに留学し、学位・修士号を取得しつつ、精力的に作品を発表して注目を浴びる。現在はナイジェリアに軸足を置き、アメリカとナイジェリアを行き来しながら、自身の創作に励み、若い才能の発掘支援に力を注いでいる。
本作は530ページ弱、2段組の大作である。
ナイジェリアとアメリカ、そしてときにイギリスを舞台とし、十数年にわたる出来事を、ときに時系列を行き来しながら綴っていく。
人種や階級、偏見やスノビズムといった、センシティブな視点も含むが、全編の根底に流れるのは、一組の男女の「純愛」と言ってもよい関係性で、これが物語を牽引していく。そういう意味では壮大なメロドラマである。
一方は、人目を引く美人であり、聡明で率直なイフェメル。もう一方は、誠実で堅実かつ穏やかなオビンゼ。ナイジェリアのハイスクール時代に出会った2人は、一目惚れのように惹かれ合い、大学時代を恋人同士として過ごした。若い頃からアメリカに憧れていたのはオビンゼの方だったが、たまたまイフェメルの方が先にアメリカに留学するチャンスを掴み、渡航する。オビンゼもこれに続くはずだったが、運悪く、9.11の直後で、若い外国人男性がアメリカ行きのビザを入手するのは極端に困難だった。オビンゼは仕方なくイギリスを目指す。
すんなり渡米できたイフェメルだったが、生活は必ずしも順風満帆ではなく、生活費を工面するのに苦労する。ときには屈辱的な仕事に手を染め、鬱病のような状態に陥る。心に傷を抱えたまま、オビンゼに自分から背を向け、互いの連絡は途絶えてしまう。
苦しい日々を過ごしながらも、イフェメルの冷静な観察眼は曇っておらず、自身の体験をブログとして綴り始める。アメリカで黒人として暮らすこと。非アメリカ黒人から見たアメリカ黒人。皆が見て見ぬふりをしているレイシズムの例。辛辣だが、新鮮な視点で、的を射たブログは徐々に人気を集め、彼女はそれで生計を立てられるようになる。
アメリカに行く道が拓けるかもしれないとイギリスに渡ったオビンゼは、滞在のためのビザを入手することが出来ず、金を払って偽装結婚をするために苦闘する。トイレ掃除の最下辺の仕事を経験し、イギリスで何とか生き延びようとする同郷人たちの暮らしを垣間見、他人の名前を借りて幾分ましな仕事に就く。何とか金を貯めて結婚にこぎ着ける直前、ことが露見し、強制送還されてしまう。
ナイジェリアに戻った彼はしばらく鬱々としていたが、ふとした幸運で、国の「有力者」と知り合い、富裕層への道をひた走ることになる。
別々の道を歩み、それぞれの恋愛体験も重ねてきた2人は、時を経て、ナイジェリアで再会を果たす。いまだ強く惹かれ遭うことに気付くが、互いの時を埋めることは出来るのか。
「第三世界」から見た英米の描写が非常に鮮やかである。現代のナイジェリアの若者にとって、旧宗主国であるイギリスと、現在の大国であるアメリカとを天秤に掛ければ、アメリカの方がより好ましく感じられるのではなかろうか。そんな「揺らぎ」が、ところどころに象徴的に言及される、多くの英米作家やその作品にも窺えるようでもある。「���メリカーナ」はアメリカかぶれを指す。
現在では、ある意味、外国への敷居は低くなっており、自国から飛び出すことは可能だ。だが、行った先ではその国のルールがあり、たとえ自国でエリートであったとしても、底辺の暮らしを味わうことも往々にしてある。
自分の価値観が通用しない中で抱える深い孤独感や絶望は、立場が違っても、多くの人々の共感を呼ぶところだろう。
イフェメルもオビンゼも一度はどん底まで落ち込んでいく。だがその後の展開は、おとぎ話のように幸運が転げ込み、いささかあっけにとられるほどだ。
これが作品構成上の「脆さ」「粗さ」なのか、それとも、規範自体が揺らいでおり、それゆえに激変しやすい現実社会を本当に映しているのか、判断に迷うところだが、少なくとも、すべての人が同じ程度に幸運であることはあり得まい。このあたりは個人的にはやや興ざめしたところか。
ただ、その途上で2人が味わう「ここに属していない」感覚は痛切に響く。
激動する社会の中で、自分が自分である「拠り所」を人はいったいどこに求めるものなのだろうか。
ナイジェリア社会の描写もまた秀逸である。
軍事勢力の将軍に寵愛されたイフェメルの叔母、ウジェが、聡明な女性から、将軍の威光を笠に着るようになり、将軍急死後は凋落するさまはリアリティに満ちている。
現代ナイジェリアの音楽やビジネスシーンの描写も興味深い。詰まるところ、それぞれの国にはそれぞれの文化や暮らしがあるわけで、ときにアメリカかぶれがいたとしても、すべてがアメリカ中心で回るわけではないのだ。
著者アディーチェは短編の名手でもあるが、本作も各シーンを切り取るとそれだけで短編小説になりそうな部分も多い。短編集『明日は遠すぎて』の1篇「シーリング」は、まさに本作にそのまま取り込まれている。
主人公イフェメルの観察力の鋭さは、もちろん、アディーチェ自身のものを彷彿とさせる。強靱な精神力と開放的な明るさを秘め、同時に、鋭い刃を持っているがゆえの繊細さも併せ持つ、しなやかな書き手である。
重量級だが読み通させる魅力を持つ1冊である。
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最近あちこちで熱烈推薦の声を聴くので、こりゃ読まねばと思い『アメリカーナ』(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ)を図書館の予約に申し込んだ。予約リストの殺生なところは、こちらの都合にお構いなく順番が来たら読まねばならないことだ。『アメリカーナ』も例外なく「え?いま、来た?まじか」という絶妙なタイミングで順番が回って来た。
というわけで、何はともあれ読みはじめた、が最後…。もう、寝ても覚めてもイフェメル(主人公)から離れられない。手に取ったときは500頁越、しかも2段組…に相当ひるんだが、そんなの、なんのそのである。重かろうが厚かろうが、出かけるときには鞄に『アメリカーナ』。面白さは重量という障害を乗り越えるのである。
物語はナイジェリアに生まれたイフェメルという若い女性がアメリカに渡り、はじめて「人種の差」というものを目の当たりにして…という、女一代記(?)でもあり、アメリカの社会風刺(いやドキュメンタリーかも)でもある。『ビリー・リンの永遠の一日』に続き「これがアメリカか…」とぽかーんと口を開けてしまう小説を読んだ。
とにかく、頭が良くて辛辣で愛情いっぱいのイフェメルが魅力的。どうしたって、美しい作者アディーチェと重なってしまう。そして読み終わってみると、作者が言う通り「弁解の余地のないラブストーリー」だったのだと気づいて胸が熱くなる。
肌の色の違いから、自分はアウトサイダーであることを自覚せざるをえない移民が、そろりそろりと米国になじんでいくのはラヒリの『その名にちなんで』を彷彿とさせるものもあるが、当然切り口はまったく違うのでもう一回あちらも読みたくなった。
移民なくしてアメリカ文学は、文化は、やっぱり成り立たないのだ。
エッジの効いた人物たちを、きちっとエッジを効かせて日本語に移し替えたくぼたのぞみさんの訳文がまた素晴らしい。
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おすすめ資料 第384回(2017.6.16)
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェはナイジェリア出身の作家で、アメリカとナイジェリアの双方で活躍しています。
最近では彼女の"We should all be feminist"というテーマのTEDトークが話題になりました。
『アメリカーナ」は作者の自伝的要素を含んだ小説です。
主人公イフェメルは若い時にナイジェリアからアメリカへ渡り、アメリカの社会に馴染んで暮らしているように見えますが、故郷へ戻ることを決めます。
その理由は何だったのでしょうか。
時々挟まれる、アメリカのアフリカン・ヘアサロンでの髪を編む描写が印象的です。
【神戸市外国語大学 図書館蔵書検索システム(所蔵詳細)へ】
https://www.lib.city.kobe.jp/opac/opacs/find_detailbook?kobeid=CT%3A7200210115&mode=one_line&pvolid=PV%3A7200509147&type=CtlgBook
【神戸市外国語大学 図書館Facebookページへ】
https://www.facebook.com/lib.kobe.cufs/posts/1329014130481622
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現代大河恋愛小説。洋の東西というが、アフリカもアジアも似てるのか似ていないのか。まだ若いのよね、この作家さん。楽しみ。あちこち報復絶倒、クスリ、ぐさり。
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アメリカに行って受けるショック、身に覚えがあるものが多々あり、思わず共感。
アフリカ→米国→アフリカというルートを辿った、著者の自伝的小説。
壮大なスケールと、緻密な描写。最後まで夢中になって読んだ。
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めっちゃ分厚い。しかも文字びっしりで1ページ二段。。
でも読み出したら止まらなかった。この作家さん自身が魅力的。
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時間がかかったー。
最初は知らない世界を読むことがとても面白かったけど、哲学的な会話が多かったりで、休み休み読んだ感じです。
私にはちょっと難しかったけど、アメリカに住んでいる人種のことを少し知ることができて良かった。
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すいさんの感想文を見て、読んでみたくなりました。2020.8.8 夕。7chocolateさんの感想 好きです。8.9夜。
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人種のこと、肌の色のこと、なまりや性差のこと、好みや価値観など。
遠い国のニュースから、身近なところまで、世界はたくさんの「違い」で出来ていて、自分の小さな世界から一歩踏み出すごとに、その「違い」とたくさん出会うことになる。
でも、その「違い」に「間違い」があることなんて殆ど無くて、それでも人間はその「違い」ゆえに時々「間違い」をおかす。
相手と「違う」部分を否定したり、馬鹿にしたり、拒絶したり。人と「違う」自分を卑下したり、無視したり、傲慢になったり。
その「違い」を「違い」のまま受け止めて、受け入れて、なおかつ自分は自分であると信じて生きることが、何故こうも難しいのだろう。
そんなことを考えながら読みました。