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丁寧な翻訳で、読みやすかったです。各章のタイトルや注釈、上下巻の解説など、理解をサポートしてくれる仕組みがふんだんに盛り込まれていました。こういう新訳は大歓迎。(反対なのは、読みやすさだけを標榜して、先行研究をまったく考慮してない職業翻訳家の雰囲気だけの新訳。ああいうのは迷惑なんですよね)
この上下巻の本を読んで、直接的に自分の生き方が変わったり、人生の悩みに答えが出るなんてことは、あまりないと思います。でも、この本の価値はそんな安易な啓発本みたいなところにはありません。
本書の結論だけを知りたければ、わざわざ全体を読む必要はありません。数多ある解説書や、哲学事典を紐解けばそれで事足ります。翻訳ではありますが、原典をしっかり読むのは、その結論に至る過程、分析手法などを知りうるというところに醍醐味があると思います。
通読してみて思ったのは、課題や問題に対して、与えられた情報を分析・整理して、論理を組み立てながら結論へと導いていく。その記述スタイルが楽しかったです。これが、2000年以上前に書かれた本ですからね。小手先の概念整理方法をだらだら記述しているような、しょうもないビジネス本、啓発本を読むくらいなら、この本をしっかり読んだほうが絶対にいいと思います。あと、この翻訳者が工夫しているポイントを、他の翻訳と比べて検討するのも役立つでしょう。
ハイデガーの『存在と時間』を、ニコマコス倫理学の現代的な再解釈と評するひともいたように思いますが、さすがにそれはちがうと思います。ただ、いわゆるナトルプ草稿で本書第6巻のフロネーシスの分析を解釈している部分があるのは事実。本書と『存在と時間』の関係については、いろいろ論じることができるでしょう。ナトルプ草稿、読み直さなきゃ・・・。(2018年4月7日読了)
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上巻では人柄に関す徳の話が続いたが、
下巻では下記の内容でバラエティに富んでいる。
6章「知的な徳」7章「欲望の問題」
8~9章「愛について」10章「幸福論の結論」
6章では魂自身の性向として
「技術」「学問的知識」「思慮深さ」「知恵」「知性」
の五つの性向に分けてそれぞれ解説している。
正しい行動のためには「思慮深さ」が必要だが、
「思慮深さ」は全てを支配下に置くわけではなく、
各々の性向は別物であるという結論を出している。
7章では抑制のなさと快楽を追及して、
抑制の無い人の快楽には苦痛が伴うが、
美しいものを愛したり、立派な行動をしたり、
という快楽には苦痛が伴わないと結論を出している。
8~9章はちょっと毛色が変わり愛について説き、
人が人を愛する理由を「有用さ」「快楽」「人柄」
の3つに分けて、「人柄」が最も優れたものとし、
善き人々の間でお互いに善を願い合うのが、
愛として完全なものだという結論を出している。
10章はまとめとして幸福は「徳に基づく生活」
であるという最初の結論に立ち返り、
そのままそれを実現するための政治の話が展開され、
アリストテレスの別の著作である「政治学」に続く。
現代でも人間そのものの本質は変わっていないので、
どう生きるか考えるのに大いに参考になる講義だろう。
特に8~9章は内容もそれほど難しくないため、
色々な人に読んで欲しい内容である。
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幸福(エウダイモニア)に至るための知的なアレテーの解説含めた人柄のアレテーとの関係、そして社会的動物としての人間関係のあり方としての友愛(フィリア)と、人間の欲望を制御するための意志の持ち方をを踏まえたうえで「幸福とはどのような状態を指すのか?」を提示した著作。
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小川の推薦本である。訳は平易で読みやすいがわかりづ以来ところがある。解説が非常に丁寧なので、解説を熟読してから本文を読むとよいと思われる。
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・議論に付いていけなくなって第七巻(抑制について)で挫折...。
・正直、上巻の第五巻(正義について)からほぼ目で字を追ってるだけだった。
・もっと時間かけてじっくり向き合わないとだめなやつだな。
・もしくは小分けにして読み進めるか。
・少し時間置いてリベンジしたい。
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アリストテレスの説明の仕方は、当時の文化、価値観に即したものであるが、読んでいくと、「現代と一緒じゃん」となる価値観がほとんどだ。「人は愛するよりも愛されることの方が嬉しいと思っている」とか「友人こそ最も重要である」とか。
「もっとも」と言う単語を多用しすぎている気がしていて、何が最も(1番)大切なのかが明確になっていない。加えて、少し説明が細かすぎて冗長でもある。本書は哲学本と言うよりは自己啓発本に近いのかなと感じており、もし哲学本だとするならば、相当読みやすいなと感じた。
「アリストテレスもそう言ってた」という引用の仕方で、自分の主張の正しさを補強するのもありなのかもしれない。
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上巻は「人柄の徳」の説明で終わったが、下巻はもう一つの徳「知的な徳」の分類と説明から始まる。そして幸福と善に関連して愛や快楽の問題に取り組み、観想的な生活を称揚する結論で終わる。
「究極の目的はそれぞれの事柄を理論的に考察して認識することではなく、むしろそれらの事柄を実践することなのである」とアリストテレスが述べているとおり、あくまで徳を実践することにこだわった内容になっていてすごく地に足がついている感じ。この印象は下巻でも一貫していた。しかし徳を身につける方法は全くお手軽なものではなく、幼少から習慣にして地道にコツコツ頑張るしかないというもので、自己啓発的な読み方を寄せ付けないところがある。
愛を「有用さによる愛」「快楽による愛」「徳による愛」の3つに分けて論じる部分は特に読みやすくて、現代でもそのまま通用するようなところがあり面白かった。