紙の本
壁の先には何が?
2022/06/30 16:32
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
下巻で、一気に物語が世界規模の広がりを見せ始める。
スウェーデンの片田舎の町イースタと、アンゴラにいると思われる人物の繋がりが明らかになる。ネットでは、どこでも世界の中心になりうるというが、イースタの人物とアンゴラの人物が意気投合したのは、やはりリアルな接触だったというのが、ちょっと安心する点だった。これだけの陰謀を企む仲間探しには、やはり直接会って、相手の内面を探る必要があるはず・・・と思うのは、自分はまだまだアナログなのか?
現実には、結構な犯罪が闇サイトを通じて仲間を募り、素性も知らない相手と共謀して高齢者の家で強盗を働くという世界が、もう何年も前の事件だったりする現実がある。マンケルがこの状況を知ったら、何と言っただろうか?
さらに言えば、テロ行為だけでなく、一国の政府がネットを使って他国の選挙に介入したり、フェイクニュースを堂々と発信したりと、ネット対策なしには今や政治も成り立たない始末。魅力的だが、ある意味核兵器などより恐ろしい魔法の杖を人類は手に入れてしまったのだろうか。
そして、リアル世界でも、人間の内面や心の在り方が問われる状況になっている。上巻では、隠し撮りされた写真に対する署長の思わぬ反応がヴァランダーを打ちのめすが、下巻では長年苦楽を共にしてきたはずの部下マーティンソンの信じられないような裏切り。でもよく考えてみると、過去の作品でもマーティンソンのそういう傾向は読み取れなくもなかった。ただ、警察に対する住民の不信感から娘に危害が加えられそうになった時には、意気消沈して警察官を辞めたいと本気でもらしていたはずなのに・・・。
さらにとどめの一撃が、勇気を奮って入会した交際相手紹介欄で知り合った相手からの、もうこれは裏切りというレベルではなく、疑似餌に目くらましされたとしか言いようのない展開。
本当に今作では、精も根も尽き果てた感じのヴァランダー。季節の描写もそれに追い打ちをかけるような厳しさだ。かつての友も挨拶もなく去り、同僚は居丈高に自分の座を狙ってくる。父の家では、もはやその痕跡さえも失われており、ヴァランダーの寄る辺のなさに身をつまされる思いだ。
でも、長らく自分探しの旅を続けてきたらしいリンダの決意を聞かされて、一つの壁を通り抜けたと思うヴァランダー。毎作、彼の深い悩みとそこから逃げ出さないことが自分の使命だと感慨を新たにするヴァランダーを見てきたが、ついにその使命を託す誰かを見つけたのかもしれない。この続きは『霜が降りるまえに』でじっくり読めるだろう。
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全キャラがたちすぎてて魅力たっぷり。人間関係も読ませます。全ての謎が解決しないのもリアルでいい。
1998年の作品なので、自分はその時19歳。あの頃日本でITはまだまだ未発達だったように思うんやけど(確か携帯持ち始めた頃)、海外は進んでいたということでしょうか。14年後の今読んでも全く違和感がないのがマンケルの先見の妙といったところなんかな。
終盤に気付くタイトルのダブルミーニング。こういうのも巧いなと思う部分。
#tsg13doors
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数年前に逮捕した被疑者の葬儀に出席するシーンから始まる。そんな事件あったかしらと記憶を呼び起こし愕然とする。このシリーズにハマるきっかけとなった傑作なのに、犯人の名前すら忘れかけているとは。他にも過去事件の断片がちらちらと顔を出し、いよいよフィナーレが近いことをイヤでも認識させられる。
今回の事件はコンピュータ犯罪。前作で犯罪の多様化にスポットを当ててみせたが、ますます複雑で、しかも高等なスキルを要する犯罪の本質に作者は警鐘を鳴らしている。だが読み終えてみると、メインは事件ではなくヴァランダーなのだという印象が強い。
組織内で孤立し、友は去り、新しいタイプの犯罪に焦燥する彼の姿は、いつにも増して疲れているように見える。過去にとらわれるあまり、現在で足踏みしてしまっている諸々の状況が、悲しくもあり可笑しくもあり。フィナーレを迎えるのは必然なのかな。でもこれだけのキャラクターなのに、異常な肩入れをせずに、シリーズ内でちゃんと成熟させている作者のスタンスには毎回感心させられる。
事件の解決と主人公の苦悩──作中でふたつのストーリーが同時進行しているように見えたが、結局はひとつの物語として終結するから不思議。キレイにまとまってないところが逆に現実っぽくて私は好きです。壁を撃ち破ったヴァランダーの決意が気になるところだが、あとがきを読むに、第九弾は数年先かな。
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タクシー運転手殺害の容疑者の少女が警察署から脱走し、変電所で死体となって発見される。病死と思われたITコンサルタントの死体が安置所から盗まれ、代わりに少女の事件と関連のあるものが置かれていた。
ハッカー少年の手を借りながら、捜査を進めるヴァランダーたちだったが、目の前には大きな陥穽があった。
14年前に書かれた作品ですが、今の時代に読んでも古さを感じさせません。シリーズはあと2作。うち一冊は確か短編集のはず。楽しみに待ちたいと思います。
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うーん。
これが15年近く前に書かれたものだとは到底思えない。リアルタイムでも十分通用する話だ。
新しい形の捜査についていけないヴァランダーの捻くれ具合に笑ってしまう。
そして今まで信じて共に真相究明に突き進んできた同僚の裏切り。上司への不信。
長いシリーズならではの読みどころ満載。
ずっと読んできたから感じるヴァランダーの変化に心配したり苦笑したり呆れたり。
そう。ヴァランダーはもう親戚のおっちゃんみたいな存在なんだよね。だからこそ気になって新刊を待ってしまう。
残り二作。
だけど先にノンシリーズを訳すということなので、またしばらく親戚のおっちゃんとは会えなくなってしまうのね。
再会を首を長くして待ってます。
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クルト・ヴァランダーのシリーズ第8弾、後半。
タクシー運転手から金を奪った少女が脱走した事件。
別件に関連があるとわかり、しかもヴァランダーは苦手なコンピュータが重要な糸口を握っている。
ヴァランダーは、ハッカーとして釈放されたばかりの少年ローベルト・モディーンを頼ることに。
一方、孤独な生活が長くなったヴァランダーは、広告を出して交際相手を求め、魅力的な中年女性エルヴィアに巡り合う。
(ほかのスウェーデン・ミステリにもこういう交際は登場していましたね)
スウェーデンは犯罪増加に警察が対応しきれない状態である様子。
イースタは小さな町なので人員も少なく、のめりこみ型のヴァランダーは一人で暴走することにもなりがち。
部下の女性で信頼しているアン=ブリット・フーグルンドから思わぬ話を聞かされて、ショックを受けることに。
署内での問題に内憂外患といった趣だけど、娘のリンダが将来を決めたと報告してくる喜びも。
リンダ中心の作品も出るのかな?
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なかなかおもしろかったが、前作といい、だんだん仲間がいなくなるのがさみしい。ヴァランダーシリーズはこれでしばらくないようなので残念。
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ヴァランダーは本作で50歳くらいになったのだったか?
その歳になって、署長や部下のあの仕打ちは確かにこたえることだと思う。
本シリーズも残すところあと2作とのこと。
寂しくもあるが早く読みたい。実際、スウェーデンでの出版より、日本は10数年遅れているそうなので。
娘のリンダが警官になるという。新たなシリーズも楽しみ。
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ミステリーそのものはあっけなかった感あり。
今回は特にヴァランダーをとりまく人間関係に落とし穴ありで、大変そうだなあと同情を禁じ得なかった。娘との関係が初期に比べて近しくなっているのが救いか?
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全体的に散漫な印象があり。それぞれの殺人の理由が主に口封じのためで、どうしてもという必要性(憎しみや怒りの感情)が薄かったからかもしれない。ITを駆使した犯罪について、ヴァランダーが感じる疎外感や焦り。何を感じ、どう生きていくかの自問を見届ける巻だった。
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(上巻より続く)
作品自体もだらだら長いわりには消化不良。
妙に細かく書いていることが全く筋立てには関係ないし、
それでいて、謎解きが不十分。
例えば、
SE以外の犯人側の下っ端が犯罪に加担していく詳細が全くないので、
スコーネが世界的犯罪の舞台になっている現実味がない。
極東の島国で定期的に核の怪獣が暴れるよりも非現実的だ。
ヴァランダー警部への告訴をあんなにからめていたのに、
告訴を免れた経緯も省かれてしまってるし。
唯一救われたのは、娘のリンダが警官を目指す決意をしたことだけだ。
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上巻では、ゆったりとした展開が
下巻では一気にスピードアップ
「警察は妬みと陰口と裏工作の巣窟だ」
複雑に絡み合った糸。
事件は解決し、綺麗な一本の糸になるのか。
パズルのピースが全てピタリと当てはまらない場合もある?
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スウェーデンを舞台にした警察官が主人公のミステリー。
ミレニアムや湿地と同じく北欧的な霧や暗さ、ジメジメっとした雰囲気がストーリーとリンクしていて物語に引き込まれて行く。
主人公は50歳?位の犯罪捜査官の責任者。
離婚を経験し娘はいるが大学進学を機に離れて暮らしているため、生活には孤独感が漂っている。
今回の犯罪はPCのネットワークを標的にしたものと、それと管轄で起きる殺人事件が複雑に絡み合う。
50代の主人公にはPC分野は全くわからない、そこで部下や外部のハッカーと連携して捜査を進めるわけだが…。
プライベートでは孤独感に悩み、仕事では犯罪が複雑になり今までの考えではついていけなくなってくる、そんな閉塞感が感じられる。
さらにそこに信頼しているもの裏切りにも合い読んでいてちょっと辛い。
ただ、ミステリー部分はしっかり伏線を回収しながら見事に解決してくれるので、そこは読み応えがあった。
あと、主人公が抱える閉塞感・暗さが失業問題や北欧が抱える若者の閉塞感とリンクしていて感じがしより読書に深さを感じた。
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ヴァランダー警部もこれまで頑固なまでにITとは無縁な仕事のしかたをしてきたけれど、今回の捜査ではいろいろと考えさせられることばかり。しかも信頼していた仲間のうらぎり行為もありピンチ!!そんな多忙な中、さびしき独り身の中年男ヴァランダーは彼女欲しさにマメな行動に出たもののとんだことに!?相変わらずカワイイ警部なのです。あと2作でこのヴァランダー・シリーズも終わり。なごりおしいな〜。
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長かったけれど面白かったです。
ただ、計画されていた犯罪がどんなものだったのか、
もっともっと具体的に知りたかったなぁ。
このシリーズ、初めて読んだのがこの本なので、
改めて最初の作品から読んでみます。