紙の本
木内昇氏の「この世」の境が溶け出す場所を舞台に繰り広げられる奇妙な物語です!
2020/08/09 10:10
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『漂砂のうたう』(直木賞)、『櫛挽道守』(中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞)、『浮世女房洒落日記』、『笑い三年、泣き三月。』、『ある男』などの話題作を次々に発表されている木内昇氏の作品です。同書では、最初に「ここは、<この世>の境が溶け出す場所」とあり、お針子の齣江が、皮肉屋の老婆トメさん、魚屋の少年・浩三らと肩寄せ合う長屋が舞台となってストーリーが進みます。そして、そこの押し入れの奥には遊女が現れ、正体不明の「雨降らし」が鈴を鳴らすというのです。秘密を抱えた路地を舞台に繰り広げられる追憶とはじまりの物語です。なかなか興味深い話で、読者は読み始めるや否やその物語にははまり込んでしまいます。
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ここは、「この世」の境が溶け出す場所――ある秘密を抱えた路地を舞台に、お針子の齣江と長屋の住人たちが繰り広げる、追憶とはじまりの物語。
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長屋のある路地で繰り返される、日々の営み、季節のめぐり、育ってゆく若者といった現実の中で、ふと現れるふしぎな出来事。"ふしぎさ"が最初は見間違いかとも思える丸窓や薪能などちょっとしたことだったのに、次第に"あきらかに現実的でない"度合いを増していくのがドキドキ、ぞくぞくする。ゆっくりと心臓の鼓動が早くなってくる感じ。「?」という思いから、「何なのだろう、なぜなのだろう」と考えだす静かな加速感がとても心地よい読書体験。いつのまにか浩三や浩一と一緒に、トメさんや齣江の少ない言葉や一瞬の表情から答えを探そうとしていた。
遠野さんが現れてから加速感は増して、齣江がみせる"蒼く濡れた目"にこちらがほとんど泣きそうになった。会いたかった人、でももう時間軸がずれてしまって、会えば終わりが来てしまう人・・・。うう、せつない。
印象的なシーンや言葉はいくつもあった。
季節を見送るためにしゃんとしてその季節の着物を着るというトメさんの後ろ姿。
繊細に思い悩む浩三の気持ち。
「このところ、言葉や音が前にも増して複雑な意味を伴って聞こえる」
「誰かがなにかを信じて安心しきっている姿は尊いもののはずなのに、浩三はそこに緩慢な鈍さを感じてしまう。――みなの安息を支えているものが、そこまで強固には思えないのだった」
浩三の母親がみる天狗。
虫の標本が入っていた桐箱。
いろいろな人や物が現れたり消えたりする――自分の力では動かしようがなくても、手の届いたものひとつひとつをよく見て、愛おしみ大切にするという生き方を、齣江や浩三がみせてくれた。
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ある秘密を抱えた路地を舞台に、お針子の齣江、魚屋の浩三少年が次々と不思議な事象に遭遇する、いわゆる幻想譚の連作集です。
時代ははっきりと書かれていないものの、大正か昭和の初めぐらいと思われます。
このあたりを舞台にした小説は、迫りくる戦争が物語の展開に影を落とす、というのがテッパンの設定になりそうなものなのですが、本作では物語終盤まで全くといっていいほどそのような雰囲気が無く、どちらかといえば現代にも通じる明るさのようなものがあるところが個人的には新鮮に感じました。
読み始める前までは、さほど広くない世界が舞台となっている割に短めの連作が並んでいることもあって、ともすれば似たようなパターンの「余話」が続いていくのではないかという不安もあったのですが、物語のキーパーソンを一度に登場させず、変化をつけながら展開させたり、「晦日の菓子」のように幻想譚にとどまらず職人の矜持のようなものを描いた話を織り交ぜたりして、読者を飽きさせない工夫が感じられました。
さらに、全てを描かずに読者の想像に委ねる書き方が随所になされており、それが的確かつ刺激的で、全体を通してとても面白く読めました。
そして終盤、ある仕掛けが明らかになるのですが、なるほどなあと思うと同時にちょっとびっくりしました。
まさかこんなに切ない話になるなんてねえ。
文庫版の巻末に収録された、著者と堀江敏幸氏の対談ではそのあたりが一部ネタバレしているので、読了後に読まれることをおすすめします。
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連作短編集。ふと曲がった路地で歪んだ時間軸に知らずに迷い込んでしまったような摩訶不思議な感覚 寂しさ 暖かさ 懐かしさ 読んだ後に色々な余韻を残してくれるしみじみ味わい深い作品でした 何度も読み返すと思います。
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年末年始のお供にTぬオススメのこの本。穏やかに静かに浸れそうだと手にとったが大正解。何とも沁みる。
最初のほうは中学に行きたいのに言い出せない浩三や、気づいているおかみさん、心優しい浩一などにじんわり。
特に月に一度の和菓子や、朝、桶に張った氷を楽しみにしている浩一がとても良い。
そのうち、少し不思議な感覚を覚えて、時間のつながりにはてとなり、なるほど過去と未來が入り交じっているのかと気づく。
トメさんと齣さんの人生がせつなく、でもただ悲しいということでもない、とにかく、沁みる。
何とも言えない余韻が残るお話。
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「長年着てる紋紗さ。糊をきかせてもらったからそう見えるだけだろう。もうすぐ季節がいっちまうからね、夏のものをしゃんと着て見送らないと。
季節が移るときってのは大概、逝っちまう季節はくたびれきっているんだ。だからせめてあたしらがその季節の着物を粋に着て見送ってやらなきゃいけない。くたった単衣なんぞ着てちゃあ季節だって逝くに逝けないだろう。
…なんで夏は、見送らないといけないの?
だって、夏だけ引き取り手がないじゃない。春も秋も冬も次の季節がちゃんと引き取って移ろうのに、夏だけ『終わる』でしょ」
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しっとりと上質な、ちょっとファンタジーありの時代物小説。舞台は大正~昭和初期くらいか。
・時代物ならではの心に染みる良い台詞がたくさん。
・浩一が好きだな
・和菓子屋の主人と婿の話や質屋の親子の話などはなくてもメインストーリーは成立するけど、それがあることによる豊かさよ
・最後、「はじまるんだな」と理解した浩三だけど、きっとだんだんと齣江さんやトメさんのこと忘れちゃうような気がする(そうは書いてないけど)。ああ切ない。でも人と人の交わりって実はこんなからくりだったりするのかもしれない。
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深い余韻を残す物語でした。物語の世界に引き込まれしばらくずっと考えてました。この作品から木内昇さんの作品をコツコツ読んでいます。
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「違う世界へ出ちまうんじゃないか」と案ずる浩三少年。自らの影と会話できる彼だからこそ経験できた不思議な世界。時代は明治・大正だろうか。江戸言葉が残り、暗闇の中に異世界の入り口がぽっかり開いているような世界観が良かった。齣江やトメ婆さんは……逆神隠しと言えばよいだろうか? 全体的に美しい文体で、中でも「雨が、暮らしの音や生き物の気配を消していく」という表現が素晴らしいと思った。
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味わい深い。
江戸を少し残したような時代の、うらぶれた長屋が舞台なのかな?
SFのような、怪談のような、ファンタジーのような。
淡々と日常の生活が活写されていくなかで、少しの不思議が混じっている感じ。
まだ闇が大きくて深かった時代の雰囲気が、とても味わい深かった。
テンポよく読める、先が気になるような内容ではなかった。日々少しずつゆっくり読むのが向いていると思う。
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儚くて慕わしい日々、いつかの誰かの…。
ちょうど夏が終わるころに読めたのも、良かった。
お能の描写がとても魅力的で、初めて興味を持った。
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この前に読んでいた本(『失われたものたちの本』)とは全く違う世界。
とまどいながら読み始めたが、この余白の多い物語にぐっと引き込まれる。
語りすぎず、語らなさすぎず。
想像しながら読む楽しさ。
最後までおもしろく読んだ。
読み進めるうちに、全く違うと思っていた『失われたものたちの本』と通ずるものを勝手に感じる。
異世界はすぐ隣にある。その異世界は、現実と全く違う世界ということではなく、心の世界とでもいうような、人が持っている潜在的な思いや積み重なった経験が具現化する世界。それは、意識しているかしていないかに関わらず、だれもが抱えている世界。
(巻末の対談でも出てくるけれど)この本では、此岸と彼岸であり、なんだかお彼岸の近いこの時期に読んだのも、偶然とはいえ必然だったのかしら。
収録している堀江敏幸と作者木内昇との対談もおもしろかった。
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独特な世界のお話。時代もいつなのか。人なのか人でないのか。誰が人で誰が人でないのか。読み進むうちに混乱。こういう小説はよくあるのだけど…うやむやな扱いの登場人物たち。うやむやな最後。うやむやな読後感
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こどもの頃見えてた世界ってこうだったなぁって思い返す
大人になってからあれは一体なんだったんだ??って思うことがいくつかある。そんな世界の見え方を思い出す。なつかしいような寂しいような。