紙の本
テレビがやってきた日を覚えていない
2020/02/13 16:53
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「もはや戦後ではない」と綴ったのは、昭和31年(1956年)の「経済白書」でした。
戦後ではなかったかもしれませんが、昭和30年代はまだまだ貧しかった。
テレビの民間放送が始まったのは昭和28年(1953年)8月。当然そこからテレビCMが始まるのですが、本書ではほとんど誰も覚えていないようなテレビCMを掘り出していく。
そこには決して華やかではないが、確実に変貌していく日本の社会が映し出されている。
我が家にテレビが来たのはいつだったか、とんと覚えていない。
大相撲でいえば胸毛の朝潮が横綱だった頃は叔父さんの家までテレビを見せてもらっていたことはよく覚えている。なのに、自分の家にテレビが来たのは覚えていない。
だから、この本に出て来るテレビCMはほとんど知らない。
けれど、子供向けのCM,それはおもちゃであったりお菓子であったりするのだが、を紹介する章の最後にこんな文章がある。
「モノに囲まれて育った世代」と小タイトルが付き、「そんな彼らも還暦をすぎ、勤め人は定年を迎えているが、オタク第一世代でもある彼らは、年をとっても少年少女の心を持ち続けているように感じる」と。
世代論という大枠ではこれは当たっているように思う。
テレビという機械が家の中に入ってきて、貧しいがゆえに、そこに映し出されるCMの世界は憧れでもあり、希望でもあった。
「経済白書」ではなく、消えていったテレビCMがそれを明らかにしてくれている。
紙の本
当時の社会を反映する貴重なCM
2019/08/12 06:55
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:MACHIDA - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和30年代の忘れられたテレビCMを紹介。CM作法が成熟・確立した時代以降のものが中心のJACの入賞作品集ではわからない世界がここにはある。今では考えられない商品の存在や、驚くべき表現など、当時の高度成長へ向かう消費社会の生々しい状況をあらためて認識させてくれる好著。
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番組を録画しているハードディスクレコーダーではCFが来るとスキップしてしまうし、YouTubeのプリロールの動画もスキップしてしまうし、最近はすっかり邪魔者扱いのコマーシャルフィルム。先日、若い人から自分の大切な時間を見たくないコンテンツに奪われるくらいだったらポイントぐらいつけるべき!という意見を聞いて、こりゃ広告業界の人たち、大変だわ…と思いました。でも、本書に取り上げられているのは見たくないコンテンツじゃなくて見たいコンテンツだった時代のテレビCMアーカイブスです。その見たい、はタレントやストーリーや成熟したCF技法の結果としての面白がりかたではなくて、取り上げられている製品や生活そのものに対する欲望によるもの。そういう意味で、今だに記憶の隅に引っかかっている名作ではなく、忘れ去られていく無名テレビCMに目をつけた切り口が鋭いと思いました。今までのテレビCMアーカイブスは賞を受賞したものや有名クリエイターの手になるものとか作品としての価値を記録することに目的をおいていましたが、この無名作品群は、時代の空気のタイムカプセルなのでした。それだけに、権利関係クリアしてぜひ動画として鑑賞し、昭和30年代の空気吸ってみたくなりました。作者は「ノスタルジー解体」を書いた大学研究者。もっとも近い歴史ほど、フィルターかかって記憶の捏造が起こるという、主張を展開していましたが、本書はそれをテレビCMで軽く実証していて、一貫したものを感じました。
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<目次>
はじめに
第1章 最古のCMたち~アニメ編
第2章 最古のCMたち~実写編
第3章 今はなきCMたち
第4章 ちょっと気になるCMたち
第5章 伸びゆくニッポン産業~高度成長とCM
第6章 便利な生活
第7章 楽しい子どもたち~おもちゃ、お菓子、おまけのCM
第8章 外国と外国人
第9章 こんな映像もありました~お宝アラカルト
おわりに
<内容>
現在立命館大学アート・リサーチセンターが所蔵するアーカイブ「20世紀のテレビCMデータベース」の豊富なデータから抜粋した本(もちろん、本なので動画はない)。CMは昔から興味があり、協会で賞を取ったCMのDVDを買ったほどだ。授業でもちょっとだけ生かしている(もっと生かしたいが、なかなかうまい手を思いつかない)。有名なCMの話はないが、この本はそういうヒントも隠されている気がする。
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歴史的に貴重なCM映像資料が紹介された本。「こんなのあったのか?」という見たことがないもの、我々の固定概念を柔らかくしてくれるような話がいっぱいです。
一方でビデオやインターネット以前のアーカイブされていない映像というのがこうやって守られているという事実も凄い!書籍ゆえに権利関係者への配慮もされていたり、自分ももっと調べてみたいとも思いました。
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今ほどテレビが普及していなかった時代のテレビCMを掘り起こす。
CMは時代の空気を映す。何が流行っていたのか、あることやものについて、どんなイメージがあったのか、など、ただ毎日なんとなく見ている中ではわからないけれど、こうして改めて見直すとわかることがある。
どこかに押し込まれているビデオテープの中にも、思いがけず貴重なCMがあったりするのかもしれないなあ。