紙の本
シュペーアの虚像
2020/11/30 12:21
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投稿者:mt - この投稿者のレビュー一覧を見る
後編はいよいよ戦時経済へ。西で英米と覇権を争い、東で「生存圏」確保のためソ連と戦う。そして占領地の労働力を収奪しながら、同時にホロコーストに邁進する。この向こう見ずでちぐはぐな対応の裏に流れる、ヒトラーなりの(狂気の)合理性が経済を通して語られる。読みどころは軍備の奇跡を成し遂げたと言われるシュペーアの虚像を暴いたところか。もちろん有能なのだけれど、上司の威光と自己宣伝でそれを何倍にも膨れ上がらせる人は身の回りにもいるかも。とにかく戦争の非情な計算と、狂信的の人種論の悪魔合体を見せつけられる大著でした。
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下巻の本書では、第三帝国の第二次大戦での、初めての大勝利だった対フランス戦から、同帝国崩壊までを著しています。上下巻でそれぞれ700ページ以上あったので、まず読み終えた達成感があります。ナチスに関する事前の予備知識は殆どなかったものの、訳者あとがきで現在でのナチスに関する各専門家の一般的な考察も大雑把ではありますが読めたので、本書の革新的なナチス経済の見解との違いをよく知ることができました。補遺にあるように多くの経済的な数値から導き出される当時の連合軍相手に戦った時のドイツの逼迫した経済状況は、もはや異常なものであり、国自体が日を増すごとに衰退していく様子がはっきりと分かります。本書は、ナチス分析本の白眉と言ってもいいぐらいの詳細な情報とドラマを観ているような興味深さがあり強く印象に残る一冊でした。
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図書館で上巻より先に下巻が借りられたので、先に読破。
領土拡大では供給が増大せず、強制労働に頼って軍需物資を確保するというナチスの計画倒れ、かつグロテスクな戦争経済の姿が印象的。
捕虜や強制徴用した労働者を数千人のオーダーで殺しながら、突貫工事で工場を作る、とか、占領地の都市住民に食料を食いつぶされないために供給を断つ、とか、ナチの政策は政治というものがどこまで危険になれるかを示している。
また、後半のシュペーアについてのくだり、経済学を離れた批判、ナチの中枢にいて大量の労働者を犠牲にした戦時生産システムの中枢に居ながら、戦後の断罪をうまくすり抜けたシュペーア許せねぇという意思を感じる。
ナチスの急拡大の背景には、アメリカの経済力に怯えるナチスの危機感があった、ということを著者は度々強調しているが、シュペーアがアメリカのカイザー造船所の流れ作業建造を模倣して新型潜水艦を大量建造を目論み、サプライヤーの能力不足で全くモノにならなかったというくだりも興味深かった。
ナチスはアメリカに怯え、真似し、そしてアメリカに負けたんだなぁ、と。モータリゼケーションも実現できなかったしねぇ。そういえば映画でも対抗心燃やしてたしねぇ。
1940年のアメリカというのは本当に突出して強力な国家だったのだなと感じさせる。